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脱出


俺は武志の傷の手当をしながら、自分の不甲斐なさを悔いていた。


高槻は裏切る可能性があった……そう知っていながら、俺は奴に頼らざるをえなかった状況を受け入れてしまった。


今、思えば体育館にいた人間を「仕分け」した際に、高槻は「このシナリオ」を思い描いていたに違いない。


自分のために他人を平気で切り捨てる奴が、なぜ気弱な彼女を脱出メンバーに加えたのか、ずっと疑問に思っていた。


そう……奴は武志の失態を演出するためだけに、脱出計画に不向きな彼女を「あえて」選択したのだ。

武志の信頼を失墜させ、脱出メンバーを自分側につける為に。



一方、高槻は信頼を勝ち取るように「機転の良さ」や「自己犠牲の行動」を皆に見せつけた。


奴は俺がいない時に脱出メンバーに、こう言ったはずだ……



「君達は葛城君と武志君を「これから」も信用できるのか?」と……



心底、恐怖に怯えた人間の心を揺さぶるには十分すぎる言葉だ。


高槻……お前はたいした「演出家」であり「脚本家」だよ。


だが……次は無い、俺は受けた借りは必ず返す人間だ。



俺は脱いだ上着で、武志の足の付け根を縛りながら自分と高槻への怒りを抑えこんでいた。


「そ……相馬。ナイフを……抜いてくれよ。い……痛くて……頭がおかしく……なりそうだ」


「駄目だ……ここまで深く刺さっていたら、抜けば大出血になる。悪いが固定して布で圧迫する他ないぞ。 とはいえ、聞きかじった程度の応急処置だが……」


本来なら緊急搬送される傷だが、病院はアテには出来ない。


大学に転がっていた救急車が全てを物語っている。


感染していると知らずに運び込まれた大量の元人間達(ゾンビ)が病院内で発症し、地獄のような有様になっているだろう。


「武志……たしか、お前のお袋は看護師だったな?今日は仕事に行っているのか?」


「き……今日は非番のはずだけど……お、お前……まさか」


俺は肩を貸して武志を立ち上がらさせた。


「い……痛てぇ!む……無理だよ。この足じゃ家まで行けっこない。もういい……俺を置いて行ってくれ。このままじゃ……お前までやられちまう」


「正門の前に俺のバイクがある。そこまで辛抱してくれ……ここからなら俺の家より、お前の家の方が近い。武志……諦めるなよ」


肩を貸した状態でも、一歩進む事に武志は苦痛の声を上げていた。

呼吸は乱れ、額からは大量の汗をかいている……本来なら動かしてはいけない状態だが、事は一刻を争う。


簡易的に出血を抑える処置はしたものの、このままでは出血多量で死ぬ可能性が高い。

看護師である武志のお袋さんに診てもらうのが最良(ベスト)だ。


幸いにも正門には化物(ゾンビ)はいなかった。



いや……いた、と言うべきだろうか?



高槻達が乗ったバスが轢き殺したであろう残骸が大量に転がっていた。


一部、死にきれなかった奴等(ゾンビ)が苦悶の声をあげながら俺達を恨めしそうに凝視している。

手足を潰されて動く事も出来ない状態だが、必死に上半身を起こそうと芋虫のように蠢いていた。


俺は死にかけの化物達(ゾンビ)をうまく避けながらバイクにたどり着き、タンデムシートに武志を座らせてエンジンをかけた。


「武志……俺の胴体に手を回して振り落とされないようにしろ。チト荒っぽい運転になるかもしれないからな」


「お……お手柔らかに頼むよ……頼んだぜ……相馬」



俺がバイクに乗って大学に来てから随分と時間がたったような気がする……理想とは違うが、俺は武志を連れて大学を脱出する事に成功した。


そして、この後……地獄のような光景を目にする事となる。


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