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生存者・渡辺美佳【下】

なんとか予定の5話まできました。


正直、中と下の2部にしとけばよかったと後悔してます。


今回はサイコ的な話しになりますので…


とりあえず休憩しますzzz

彼女と行動を共にしてから何度目かの夜を迎えた。


あれから、多くの家に侵入し、それなりの収穫を得たが、消費する食料や飲料水の量は単純に倍になっている。


それにより、1人の時よりも家に侵入する回数は増え、感染者との戦闘の時には、余計な気づかいをしなければならなくなった。

女の腕力でも扱えそうな、軽い武器を渡してはみたが、「戦力」としては期待できそうもない。


生き残る事を第1に考えるなら、置き去りにした方が良かったのは言うまでもないだろう。


だが、彼女は今までの俺には無かった物を与えてくれた。



それは…人との会話だ。



アウトブレイク後、俺は単独行動を開始してから、「会話」と言うものをしていない。

1日の終わりに安全な場所を確保すると、眠りにつくまで彼女は積極的に俺に話しかけてきた。


最初はうっとおしいと感じていたが、今ではそれが悪くはないと感じつつあった。


俺は生きるために殺意で自分を塗り潰し、この狂気の世界を生き抜いてきたが、彼女との会話は平穏だった世界の事を思い出させてくれた。


この日の夜も収穫した食料を分配しながら雑談していたが、どこか彼女の様子がいつもと違っていた。


「ねぇ…ソーマ君。私達、ずっとこんな事をして生きていかなきゃならないのかな…?」


タバコをふかしながら食料を渡そうとした俺に、彼女は暗い調子で話しかけてくる。

俺はタバコの火を消し、彼女の問いに答えた。


「…助けが来るのが期待出来ない以上、自分達で何とかするしかない。奴等の餌食にはなりたくないしな」


缶詰の中身を食う俺を見つめながら、彼女は同じ調子で呟いていた。


「そう…そうよね。頑張らなくっちゃ…ね」


セーフハウスを毎日変え、感染者と戦いながら食料を調達する日々…あの家に隠れていた時とは精神的にも肉体的にも、桁違いの負荷がかかっているはずだ。


疲れているのだろう…俺は彼女に休むように指示すると、缶コーヒーの蓋を開け、布団にくるまって寝息をたてていた彼女を、タバコの火をつけながら黙って見ていた。



翌日、


俺達はバリケードで囲まれた大きな一軒屋を発見した。

ここなら収穫が期待出来るだろう…俺は侵入を試みようと合図を送ったが、疲れた顔をした彼女は黙って頷いていた。

言葉には出していなかったが、その表情は限界を示していた。


彼女は、この一軒屋に来る前に侵入した家で感染者に殺されかけたのだ。

これまで室内の検索は、2人で固まって行っていたが、別れて個室を検索した方が効率が良いとの、彼女の提案を俺は許可してしまった。


案の定、彼女は検索しようと入った部屋の中で隠れていた感染者に不意をつかれ、そのまま押し倒されてしまったのだ。

間一髪で噛まれる前に俺が感染者を始末したが…それ以来、彼女は襲われた恐怖で怯えきってしまっていた。


この状態で、また感染者に襲われでもしたら心身共に危険になる…俺は彼女を窓の外で待機させ、単独で侵入を試みる事にした。


窓のバリケードを外して窓ガラスに手をやると妙な事に気付づく。


…窓がロックされていない。


俺は錠付近のガラスを割ることなく、窓を開けて家へと侵入した。


手にいれた懐中電灯と包丁を構えながら室内全体を見回していると、ソファーの陰から小さな影が飛び出し、食器棚の陰に隠れた。



感染者じゃない…子供(ガキ)!?



俺が美佳の時のように呼び掛けると、子供は警戒しながら棚の陰から出てきた。


「お兄さん…ゾンビじゃないよね?」


「…そう見えるか?」


安心した子供は、その場で座りこむと溜め息をついて笑顔になった。

子供とはいえ、生存者がいるなら感染者はいないだろう、俺は美佳を呼び寄せると子供に彼女を紹介した。


「…俺は葛城相馬。この人は渡辺美佳だ」


「あ…初めまして。俺…川本祐也っていうんだ」


照れながら自己紹介をする子供の姿に美佳は、優しい目をしながら苦笑していた。

純真な子供の姿に癒されたのだろう…さっきまでの怯えた表情は無くなった。


「祐也って言ったな…表札が川本となっていたが、ここはお前の家なのか?」


「うん!そうだよ!父さんと母さんを待っているんだ」


話しを聞くと、アウトブレイクから少しした後に、父親の具合が悪くなった為、母親が父親を病院へと連れて行くと出ていったそうだ。


バリケードを二重三重に、家の周りに張り巡らしていたと言う事は、少なくとも感染者の存在を両親は知っていたはず…子供を一緒に連れていかなかったのは何故なのか?


…あるいは「父親」を子供から遠ざける為に母親が連れていったのかもしれないな。


「美佳…今夜はここで休むぞ。祐也…食料の手持ちは少ないが食うか?」


俺はリュックから差し出した缶詰を渡そうとするが…祐也は首を振り、手招きをしながら台所へと走っていった。

祐也に連られて台所に向かった俺達の目の前には、大量の保存食と水があった。


「…なるほど。これだけあれば缶詰なんかいらないな」


「へへ…父さんが一杯買ってきてくれたんだ。そこでお湯も沸かせるよ♪」


台所にはカセットコンロがあり、鍋の中からは湯気が立っていた…横には蓋を開けたカップラーメンが置いてある。


「沢山あるからさ、一緒に食べない?」


俺達は祐也の申し出を受け、インスタントとはいえラーメンをアウトブレイク後に初めて口にした。

普段、食べ慣れていたはずなのに、初めて口にしたかのような味わい…実に旨く感じた。


その後、俺達は剥がしたバリケードを修復すると、家に置いてあった保存食を使って、ささやかながら食事会を開いた。

美佳は祐也と意気投合し、笑いながら雑談を楽しんでいる。

俺はタバコを吸いながら、その光景を見て「ある決心」をした。


俺は寝るまえに2人に話す事があるとソファーに座らせた。


「単刀直入に言う…美佳。お前はここに残れ、俺は明日の朝に出ていく。祐也…かまわないか?」


美佳は唖然とした表情で俺を見ていたが、語気を強めて叫んできた。


「どうして!?何故、私を置いていくの!?」


「…その理由はお前が一番よく知っているはずだ。今のお前は、感染者がいる外で歩く事すら出来ないだろう…幸いここには滞在するだけの備蓄がある。祐也はどうなんだ?」


今にも泣き出しそうな美佳を見ながら祐也は答えた。


「いいよー♪姉ちゃん…ここで一緒に父さん逹を待とうよ」


手を差しのべながら近付いた祐也に、美佳はソファーにあったクッションを投げつけた。


「ソーマ君も残ればいいじゃない!なんで…なんで置いていくのよぉー!」


「…いい加減にしろ!いくらこの家に大量に食糧があるとはいえ、大人2人で消費すれば、すぐに無くなってしまう事ぐらい分かるだろう…それに俺は、まだ外で「やること」がある」


俺に怒鳴られ美佳は顔を伏せて泣き出してしまった。これ以上、刺激するのはマズイと思った俺は、祐也を連れて2階の寝室へと向かった。


「ソーマ兄ちゃん…姉ちゃん、どうしちゃったの?俺といるの…嫌なのかなぁ?」


ベットに入った祐也は、布団から顔を覗かせると、少し窓を開けてタバコの煙を吐いていた俺に質問してきた。


「そんな事はない…明日には元に戻っているさ。祐也…美佳の事、宜しく頼むぞ」


俺の言葉に答えるように布団から上半身を起こして敬礼する祐也の姿を見て、俺は久々に笑いたい気持ちになった。


俺はタバコを吸い終えると寝室の床に寝転がった。



翌朝、


俺は怠そうに起き上がると、タバコに火をつけて一服する…アウトブレイク後に、こんなに眠れたのは初めてかもしれない。

ふと、ベットに目をやると祐也がいない事に気付いた。


「フッ…アイツが起きた事にすら気付かないほど熟睡していたとはな」


苦笑しながら階段を降りると、美佳が歌を口ずさみながら鍋でパスタを茹でていた。

どうやら…吹っ切れたようだな。


「あら…ソーマ君♪おはよう。よく眠れた?」


「あぁ…久々に熟睡出来た。祐也はどこにいるんだ?」


「さぁ?…トイレに行ったんじゃない」


いつになく、上機嫌な美佳に違和感すら覚えたが、これならば安心して出ていけそうだ。

美佳は茹であがったパスタを皿に乗せて、俺が座ったソファーの前のテーブルに置く。

パスタにはツナがのっていて、ツナ缶を利用した「簡易的な和風パスタ」に仕上げていた。


「旨そうだな…祐也を待って食べるとするか」


俺が祐也を待とうとすると、美佳は不機嫌な顔をして答えた。


「…祐也君なら朝食はいらないって言ってたわ」


何か変だ…祐也の事に対しての美佳の反応がどこかおかしい。

そして、俺は美佳がしていたエプロンに、微かに赤い点が広がっている事に気が付いた。


「美佳…祐也はどうした?トイレにしては長すぎないか?…それにそのエプロン…どうして赤くなっているんだ?」


俺の質問に、台所に向かおうとしていた美佳は、振り返る事なく呟くように答えた。


「あの子…優しい子ね。夜中に私が心配で、わざわざ見に来てくれたんだもの…だからね、私も優しくしてあげたの…苦しめたら可哀想でしょ?」


肩で笑いながら振り向いた美佳の笑顔は、いつものように愛くるしい笑顔ではなく、邪悪に満ちていた。


「だからね…ソーマ君がくれたコレで力一杯強く殴ってあげたの。ふふ…簡単だったわ…あの子ったら痙攣しながら目を白黒させちゃって♪でも、しょうがないわよね?」


美佳は祐也を殺害したレンチをポケットから出して、うっとりと見つめている。

レンチについた血は固まっていて、暗い赤色に染まっていた。

俺は拳を力一杯握りしめ、美佳を睨み付けていた。


「…何故、祐也を殺した!」


叫んだ声に多少驚いていたが、美佳は直ぐに笑顔を作ると、こっちに向かって歩いてきた。

俺は手に持ったレンチに注意を払いながら、美佳とは一定の距離を保った。


「だって…ソーマ君が言っていたじゃない。3人いたら食糧が無くなるって…だから1人減らしたのよ?これで私達はここで暮らせるわ♪」


美佳は狂ったように笑いながら踊り始めた。


どうやら完全に頭がおかしくなったようだ…美佳は笑いながらレンチを振り回して遊んでいた。


俺は美佳と距離をとりながら、床に置いてあった自分のリュックを素早く拾うと、勢いよく美佳に投げつけた。


リュックが当たるのと同時に、俺はズボンの後ろに備えてあったバタフライナイフを取り出し、美佳に突っ込んでいく。


怯んだ美佳の喉仏に俺はナイフを突き刺すと、そのまま喉を上下に引き裂く… 美佳は声をあげる事も出来ずに喉を押さえながら倒れた。


「お別れの餞別だ…逝った先で祐也に謝ってこい」


大きく両目を開きながら俺を見る美佳に、俺は吐き捨てるように、そう言いはなった。


美佳はもがき苦しんでいたが、暫くすると動きを止めて死んでいった。


俺は自分のリュックを拾い、祐也の遺体を探す事にした。


…祐也は無造作にバスタブに投げ入れられていた。


俺は祐也の遺体を抱き抱えると寝室につれていき、見開いた祐也の両目を閉じさせると、祐也の顔に白い布を被せた。



「…すまない」



俺は一言いうと身支度を整え、美佳の死体を横目に家を後にする。



渡辺美佳…彼女は俺を失うことによる、極度の不安で常軌を逸してしまったのだと思う。


人は誰しも不安を抱えて生きている…彼女は、この狂気の世界で、常に誰かに依存しなければ生きていけなくなってしまったのだ。


あの時…俺が彼女を助けたりしなければ、こんな悲劇は起きずにすんだ。


祐也を殺したのは美佳だが、元をたどれば俺が祐也を殺したのも同然なのだ。


今の俺の中には後悔の念しかない。


目に涙を溜めながら俺は歩き出す。






ーアウトブレイクから4週後ー




俺の戦いは続いている…





























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