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マットに降下した武志は、高槻が殺った遺体(かのじょ)を見て動揺していた。


「そ……そんなっ!?……何故……どうしてっ?!」


武志は「現場」を見ていない……ロープから「手応え」が無くなったのは、彼女が意を決してマットに飛び降りたのだ、と思っていたのだろう。

俺は武志を見ながら、無言で首を横に振るしか出来なかった。


この場で真実(あのこと)を伝えても武志は高槻を責めるだけだ……


俺達は内輪揉めをする余裕も時間もない、武志が合流したのならバスに向かって進むだけだ。


「葛城君、僕と武志君で先頭を務めよう。君は殿(しんがり)を頼めるか?」


あの高槻が、危険が伴う先頭に志願した事に違和感を感じたが、奴が皆を率いるのに異存はなかった。


バスのもとに辿り着くには高い塀を登らなくてはならない……ゆえに殿(しんがり)は塀を皆が越えるまで、奴等(ゾンビ)から守らなくてはならないからだ。


正直な所、俺以外には務まりそうにはない。


俺は二つ返事で了承し、高槻は皆を率いてバスに向かって走りだした。


先頭の高槻は、進路を塞ぐ化物(ゾンビ)を上手く処理しながら進んでいく……俺達は難なく塀まで辿り着いた。


「武志……お前は高槻と一緒に先に登れ。くれぐれも奴に気を許すなよ」


高槻達が塀を登る前に、俺は武志の耳元で忠告をした。


奴は「人間(ひと)」として信用出来ない……1人で先に塀を越えさせたら、単独で逃げ出す恐れがある。

人間を「利用するモノ」として認識している(たかつき)なら、この辺りで「行動」を起こすはずだ。


脱出メンバー達は1人……また1人と塀を越えていく。


最後の1人が登り終えた時、塀の向こうから叫び声が聞こえた。


「……っ!? あの声は武志っ!……まさかっ!?」


俺は先端がガタついていた鈍器(スコップ)を放り出し、急いで塀を越えた。



目の前には、右足を押さえて倒れている武志と……それを笑顔で眺めている高槻の姿があった。



武志の右足には「バタフライナイフ」が根元まで刺さっていた。


周りに化物(ゾンビ)はおらず……脱出メンバーはバスの中から俺達を見ていた。


「高槻……これはどういう事だっ!」


俺の問いに高槻はメガネを外しながら答えた。


「葛城君……悪く思わないでくれよ。僕は君達の「これまで行動」を見ていて「疑惑」が「確信」に変わったのさ。このまま君らと一緒に行動していたら我々も殺されてしまうとね」


なるほど……高槻は俺達2人だけを見捨てるつもりか。

我々と言ったな……他のメンバー達も「コレ」には同意している、と言う事か。


「まずは武志君……君は優しく信頼される人間ではあるが、周りが見えていない。この先、出会った人間を全員助けよう、なんて戯言を言い出しかねない。非常に迷惑なんだよ……君はね」


これが高槻の「考え方」か……コイツは誰によって命を助けて貰ったと思っているのか。

いや……高槻にとって武志は利用できる存在だっただけか。


「笑わせるぜ……高槻。お前は、その武志の「戯言」に助けられた人間だろう?武志が、お前達を体育館に誘導しなければ、今頃はゾンビとなって徘徊していていたと思うがな」


「フフフ……そうかもね。だからこそ命までは取らなかったよ。それは武志君が僕を助けてくれた事への感謝の気持ちさ。そして、葛城君……君は素晴らしい力があるにもかかわらず「情」に流され冷静な判断が出来ない。先程の彼女への対応が物語っていたね」


「……俺は他人を殺してまでも自分が助かりたいとは思わん。貴様のようにはなっ!」


俺は高槻を睨み付け、武志の傷の様子を見た。

出血が酷い……武志の履いていたカーゴパンツを赤く染めるほどに。


「フフ……葛城君。それこそが強者の理論だよ。君が強い人間だから言える言葉さ……人は皆、弱い生き物だからね。1つ忠告をさせてもらうよ。君の「情け」は、いつか人を殺してしまうとね」


「知ったふうな事をぬかしやがって!今すぐ黙らせてやる!」


怒りに震える俺は、握りしめた拳を見せながら高槻に詰め寄った。


「葛城君……感情に流されるのもいいけど、この状況は把握していた方がいい。いくら君でも武装した我々を相手にする事は出来ないだろう?ましてや、傷を負った武志君を庇いながらね」


「…………くっ!」


なるほど……武志を殺さなかった本当の理由(わけ)はコレか。

武志を殺してしまえば、俺がここで踏み止まる理由がなくなる。


「それでは僕達は、ここらで失礼するよ。今度、会った時には友人として会いたいね」


高槻……つくづく外道な奴だ。俺には分かっているぞ。


何故、お前のような人間がバスの中にいる奴等を助けたのかを。


「高槻……せいぜい餌に噛みつかれないようにするんだな。今度、会う時を楽しみにしている」


高槻はバスの入口に乗り込もうとしたが、俺の言葉で立ち止まり、冷徹な目をしながら振り向いた。


「やはり……君はやりずらい。会った時からそう感じた。同族嫌悪と言う言葉を初めて理解できたよ。願わくはココで死んでくれると嬉しい」


高槻は薄気味悪い笑顔を見せると、バスに乗り込み去って行った。



俺と武志は助け出そうとした人間に裏切られ残された……。

二部も終盤になりました


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