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決断


(……とりあえず、脱出の目処は立ったな)


車内で()った子供の遺体を車外に放り出し、再び大学の敷地内に降り立った俺は、木の陰に隠れながら心の中で呟いた。


体育館に戻る進路上には、地上に降りる時に陽動をかけた5体の化物(ゾンビ)が戻ってきている。

そして、他のエリアからやってきたのか、さらに4体の化物(ゾンビ)が追加されてしまった。


合計9体の化物(ゾンビ)……とてもじゃないが、全員を消音殺人(サイレントキル)()れる人数ではない。


わざと見つかり、こちらに誘き寄せてから全力疾走で振り切り、体育館へと戻る事は不可能ではないが……化物(ゾンビ)が俺を発見し叫び声をあげられてしまっては、多方面から化物(ゾンビ)達をさらに集めてしまう。


そうなれば、これからの脱出作業がさらに困難なものとなってしまうだろう。



見つからずに体育館に戻る事がベストではあるが……



息を殺しながら化物(ゾンビ)達の動向を伺っていた、その時……体育館の窓に人影が見えた。


窓際にいた人物は地面に「何か」を放り投げた。



辺りに「バウンド音」が鳴り響く……



その人物が投げた物は「バスケットボール」だった……


どうやら、誰かが体育館の窓から「足止め」を食らっている俺を確認し、化物(ゾンビ)に対して陽動をかけてくれたようだ。



(誰かは分からないが……ありがたい。)



先程のように化物(ゾンビ)達は「バウンド音」に反応して、転がったボールの方へと向かって行く。


進路が開けたのを確認し、はやる気持ちを押さえながら、俺は化物(ゾンビ)達の背後を通り抜けていった。


建物までたどり着いた俺は、垂れ下がったままのロープを急いで登り、何とか体育館まで戻る事が出来た。


無事に登りきった俺を出迎えてくれたのは、笑顔の武志と数名の生存者達だった。


「相馬!……無事で本当に良かった!」


笑顔の武志の後ろには高槻の姿があった。


「流石だね……葛城君。不意をついてきた化物(ゾンビ)を素早く処理する行動力と判断力。ああいった対処が出来る人間は、そうはいないね……もちろん殺害方法も含めてだけど」


バスケットボールを右脇に抱えながら、高槻は微笑んでいた。


どうやら、俺が体育館に戻る際に化物(ゾンビ)に阻まれる事を先読みして行動してくれたらしい。


「なるほど…あの陽動は、お前がやってくれたようだな。かなりマズイ状況だったからな…感謝する」


「フフ…いいってことさ。それで?あのバスは動きそうなのかい?…葛城君」


バスのエンジンをかけて試してはいないが、おそらく使用可能である事と、周りに化物(ゾンビ)達が徘徊していない事を2人に伝えた。

後は脱出の準備が整えば問題はないはずだが…武志の表情が暗かった。何かあったのだろうか…?


「葛城君…ちょっといいかな?向こうで話そう…武志君は脱出の準備をしてもらえるかな?」


高槻は会話が皆に聞こえないように体育館の隅へと俺を連れていった。


「勝手な事をして申し訳ないが、君がバスに向かった後に脱出に賛同する人間と体育館(ここ)に残る人間を「仕分け」させてもらったよ。残念ながら、ここに留まる人間が大多数ではあったけどね」


「……仕分け?」


武志の表情が暗かったのは、これが原因だったのか。


高槻が体育館(ここ)にいる生存者達に、どのような方をしたのかは分からないが、大体は予想がつく。


高槻(こいつ)は少人数での脱出を望んでいた…恐らく脱出する際に被害が出る事を前提にして皆に話しただろう。

閉鎖された空間で恐怖に怯えた人間に追い討ちをかけるかのように…


「可哀想だと思わないかい?…彼らは体育館(ここ)に残ったら、どのような末路を辿るのかを想像出来ないんだ。反対をしていた彼女…斎藤とか言ったっけ。あの子は悲惨な最後を遂げるだろうね」


……あまり考えたくはないが、最悪な状況になった場合…彼女は…


「君には分かっているんじゃないのかな?彼女はココに残った人から責められ、そして殺されてしまうことを」


今のところ、体育館は水道から水が出るが、ライフラインがいつまで持つか分からない。


人間は空腹には多少の抵抗が出来るが、「渇き」は耐え難いものがある…どこかの国の実験で、水と塩だけで人間は約1ヶ月は生きていける、との結果は出たらしいが…はたして人体に最も必要な水を断って、どれくらい耐えられるのだろうか?


体育館(ここ)に救助が来なかった場合には、残ると強く進言した彼女が矢面に立たされるのは容易に想像できる。

そして、その後に激しい言い争いになるだろう…極限の状況に追いやられた人間が最後に選択するのは……暴力となる。


「怖いと思わないかい…葛城君?人の裏切りと言うものが、彼女は自分を信じて残ってくれた人間に殺されてしまうんだよ。人間と外をうろついているゾンビ達…どっちが「本当の化物」なんだろうね」


「俺は人間に対して「仕分け」と、平然と言えるアンタも怖いと感じているがな……高槻、お前は「信用」出来るのか?」


「さて……ね。僕も人間ですから…フフ、冗談ですよ」


高槻は微笑を浮かべながら武志のいる方へと歩いていった。


正直、高槻は信用ならない事は分かっている…だが、アイツの力が無くては脱出する事は困難だ。


化物(ゾンビ)と対峙した際に学んだ事…それは良心が咎めたり躊躇いがあっては()る事が出来ない。


人を「モノ扱い」する高槻には「それ」が無い…アイツは躊躇なく()るだろう。


高槻に注意を払いながらも脱出をする決意を固めて、俺は武志と共に準備にとりかかった。



更新は遅いと思いますが、チョッとずつ進めていこうと思います

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