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斥候【上】

「理想と現実」……か。


夢みたいな理想を語るのは簡単な事。


だが、実際に行動すると語った「理想」の半分も達成出来ないのが「現実」だ。


この体育館にいる生存者達を、一人残さず連れ出せば、最低でも……その内の3割が犠牲となるだろう。


当然の事だ……俺達は訓練を受けた兵士でもなく、ただの学生なのだから。


ご都合主義よろしく、脱出の際に化物(ゾンビ)と出会いませんでした……とはいかない。

奴等(ゾンビ)との戦闘は避けられないと断言できる。


ざっとみ、生存者の男女の比率は半分くらいか……高槻や武志を含め、俺ほどの戦力となりえる人間はいないと言える。


自分の命だけを守りながら戦う事と、他人を守りながら戦うのは勝手が違う。

俺個人で守りきれるのは三人……いや、四人が限界といったところか。


厳しい言い方をすれば、それ以外は個々で対処してもらう他ない。



……高槻が囁いた言葉が脳裏をよぎる。



全員を助ける必要は無いのではないか、と



「……おいおい、相馬。お前は今何を考えている?」



俺は自分に言い聞かせるように呟くと、武志がいる倉庫の扉を開けた。


武志は額に汗をかきながら、倉庫の中にある道具の仕分けをしていた。


「ふぅ……使えそうな物は、こんなとこかな。あとは……あれっ!?もう来たのかよっ?」


自分の予想よりも早く来た俺を見て、武志は驚いた顔をしていた。


「すまん……まだ脱出の算段は出来上がってはいないんだが、何があるのか確認したくてな」


申し訳なさそうに謝った俺に、武志は手に持った物を見せてきた。


「いい物を見つけたぜ!ちょっと重いけど化物(ゾンビ)を倒せそうなやつをなっ!」


武志が両手で持っていたのは「除雪用のスコップ」だった。


最近のは爪の部分がプラスチック製の物が多いが、武志が持っていたのは鉄製の頑丈な物だ。

持ってみると柄の部分は木製だが、太くて丈夫な事が分かる。


だが、かなりの重量がある。


俺が扱うなら問題は無いが、他の人間が武器として振り回すには、それなりの腕力が必要だ。


「除雪用のスコップが3本……いいものを見つけたな。だが、使える人間は絞られてくる武器だ。なにか軽くて扱いやすい物はないか?」


待ってました、とばかりに武志は見つけた物を俺の前に並べはじめる。


「えーと……まだ使えそうな金属バットが3本と……工具箱から色んな物を見つけたぜ」


プラスドライバーやレンチ……塗装用のヘラ。この辺りなら、腕力の無い人間にも使えそうだな。

俺が使っていた「コンパス」や「ペーパーナイフ」よりは、頼りになる事は間違いない。


「悪くない……これだけあれば何とかなるだろう。……ん?武志……あれは何だ?」


俺は倉庫の隅に積み重なっていた物が気になった。


「あぁ……あれか?もう廃部になっちまった体操部が使っていた床マットだよ。邪魔くさくて移動させたんだ」


触ってみると、そうとうに分厚い床マットだ。


まてよ……これならば何とかなるかもしれない。


「床マットか……使えるぞ」


「え……?あんな物どうやって使うんだ?」


床マットを地面に広く何枚も積み重ねて置けば、簡易的なクッションにする事が出来るのではないだろうか?


そうすれば、地面まで直接飛び降りる事が可能になる。


カーテンを繋ぎあわせた疑似ロープで地面に降りるよりも短時間で脱出作業が行える。


だが、一つ問題がある。


床マットを、そのまま無造作に地面に投げただけではクッションとして機能しない。

誰かが一度地面に降りて、床マットを積み重ねてクッションのように並べなければならない。


俺は倉庫の中を再度物色し「使える物」をさらに見つけた。


「……どうやら、これならいけそうだ。武志……俺が描いたプランを今から話す。よく聞いてくれ」


俺が考えた体育館からの脱出方法……


それは、この分厚い床マットを一枚ずつトイレットペーパーのように丸くまとめ、倉庫の中にあった紐テープで、きつく縛る。


それを横に5個並べて、さらに一束にする。

乾電池が横に並んでいるものを想像してもらえばいい。


これを2束作り、窓ガラスを外した所から地面へ投げ捨てる。


カーテンから作ったロープで、あらかじめ地面に降りた者が、投げ捨てられた束を飛び降りやすいようにセッティングする。


除雪用のスコップや金属バットは、丸めた床マットの中心部分に差し込んでおけば、飛び降りる際に不慮の事故がなくていいかもしれん。


これで地面に到達する事は可能だ。



「……ここからが重要になる」



学校の塀を越えると、すぐ国道がある。


俺が何気なく外を見ていた時に、都営バスが止まっていた事に気付いた。


おそらくは化物(ゾンビ)に襲われたのだろう。


バスは、その場所から動いていなかった。


エンジンキーが抜かれていなければ、それを使って環状線まで行くことが出来る。


「で……でも、襲われたんじゃ。バスの中にも化物(ゾンビ)がいるんじゃないのか?バス自体も動くかどうか分からないし」


「……確かに。それを確認しに行かなくてはならない。つまり……斥候のような事をせざるをえないと言うことだ。もちろん……俺がやる」


武志は危険すぎる、と反対したが立案したのは俺自身だ。

そして、この生存者達の中では俺以外に適任者がいない事も事実。


俺は武志を説き伏せ、バスを使った脱出の算段が整うまで、皆にこの話はするなと警告した。


「あぁ……分かったよ。でも……気を付けろよ。死んじまったら元も子もないぜ……俺はカーテンを外してロープを作るとするよ」


「頼む……持っていく武器を選んだら、俺もロープ作りを手伝うからな」



俺達は次なる行動に移った。



この場所から脱出するために。


次なる更新は活動報告にて行います


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