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生存者・渡辺美佳【上】


ここでプロローグ後の話しに戻ります。


ちなみにゾンビに対しての無双の予定はございません


主人公の相馬は、思想はともかく…普通の大学生なのですから

俺が逃げ込んだ2階建ての一軒家を取り囲んでいた「感染者」は家の扉や窓を叩きながら、呻き声をあげていた。

2階にいた俺は、窓ガラスを開けて屋根に出ると、家の塀を飛び越えて隣の家の敷地へと降りた。


密集した住宅が数多くある、日本ならではの脱出方法…しかも石の塀があるために「感染者」は隣の敷地へ直ぐに向かってはこれない。


とはいえ、道路に出れば感染者が徘徊している。


手に持ったバットで感染者達を殴り倒しながら、俺は包囲網を突破した。


どうにか振り切る事に成功した俺は、バリケードで囲まれた一軒家を見つける。

ここまで来る為に、手に持ったバットは折れてしまった。

隠れていた一軒屋から拝借した包丁を手に、窓に打ち付けられたバリケードを外して家へと侵入しようとする。


アウトブレイクから学んだ事…


それは食料を求めるなら、スーパーやコンビニではなく、民家から調達する方が効率が良いと言う事だ。


東京23区が感染区域に指定されて間もなく、生存者達は、我先にと食料や医療品を店から「強奪」した。


そこに倫理や道徳は存在しない…俺が見たのは他人を押し退けてでも店から品物を奪っていく人々の姿だった。


それでも真面目な日本人の性なのか…「強奪」した品物を持って逃げ出した者も多かったが、大半は政府が発表した「救援」を信じて家に籠城する者が多かった。


だが、その多くは「強奪」したさなかに「感染者」に接触し、籠城を決めた家の中で発病してしまっていた。


アウトブレイクから3週間がたった今、いくつもの家に侵入したが「人間と呼べる者」は誰1人としていなかった。


とはいえ、1人…または3人程の感染者を始末するだけで、大概の食料は手に入る。

リスクを侵して、多くの感染者がいると思われるスーパーやデパートに行く必要はない。


ましてや、このようにバリケードを作っているのなら十中八九、籠城すると決めた住民がいたに違いないだろう。


窓に打ち付けられた木の板のバリケードを外して家の中に入る…まだ日は暮れていなかったが、家の中は薄暗く、いつ感染者が飛び出してきても、対処出来るように慎重に進んでいく必要があった。


「ラストデイ」で必要だったクリアニング技術…実際に自分がやるとは、アウトブレイク前には考えもしなかったことだろう。


包丁を構えながらキッチンへと進んだが、感染者が襲ってくる気配がない。それどころか、キッチンには開封されたばかりと思われる「チルド食品」が転がっていた。


まさか…生存者がいるのか?


「…誰かいるのか?俺は感染者じゃねぇ…いるなら出てこい!」


俺の問いに答えるようにキッチンの奥から物音がした。

万が一、感染者であった時の為に手に持った包丁を構えて、物音がしたキッチンの奥へと進んでいく。


そこには両手を上げて震えている女の姿があった。


「やめて!…私は感染してないわ!…アナタは誰なの!?」


髪を茶髪に染めたOL姿の女は、俺の顔を強張った表情で見ていた。

構えた包丁を降ろし、俺は震えている女に手を差しのべた。


「…まだ生き残っている人間がいたとはな。俺は葛城相馬…大学生だ」


女は俺の手を掴んで立ち上がると、安堵した表情を浮かべた。


「よかった…窓から入ってきたからアイツらかと思っちゃった。でも…なんで玄関から入ってこなかったの?」


この女…頭が膿んでいるのか?

こんな状況で玄関に鍵を掛けていないアホはいないだろう。

俺は女の問いを無視してキッチンで食料を探す事にした。


乱雑に散らばったゴミを払いのけて探していたが、非常食として有効な缶詰は無く、湯を沸かさなければ食えた物じゃない「カップラーメン」が山のように積み上げられていた。


「クソっ!…何もねぇ!…おい!食料は、もう無いのか?」


苛つきながら睨む俺に、女は俯きながら開封された「チルドハンバーグ」を指差した。


「…ないわ。それで最後…私が全部食べちゃったから」


俺は舌打ちをしながら、開封されたハンバーグを口の中に入れた。

女は黙って俺を見ていたが、水筒を出した途端に立ち上がり哀願してきた。


「水!…あなた、水を持っているの!?ねぇ!一口でいいから頂戴!もう喉が渇いてしょうがなかったの!」


腕に組み付いてきた女を払いのけようと思ったが、この女の最後の食料を食ったのは俺だ。

リュックには水筒がまだ残っているし、なにか情報を知っていたとしたら、この女に恩を売っておいた方がいい…俺は水筒を黙って女に渡した。


かなり喉が渇いていたようだ、女は夢中になって水筒の水を飲んでいた。


「はぁ…助かったわ。もう2日も水分取ってなかったの。ありがとう…えーっと…相馬君だったっけ?」


「そうだ…礼はいい。この家はアンタの家なのか?」


俺は胸ポケットからお気に入りのタバコを取り出して、火をつけた。


暫くの沈黙の後…女は俺に全てを話した。


アウトブレイク直後に会社の同僚とはぐれ、この街に流れ着いた事。

感染者が街を徘徊する中で逃げ惑い、食料や飲料水を探し回っていた事。


そして、他の生存者から聞いた話…


感染地区は政府によって「見捨てられた」事を



「…たよりの米軍、政府主導の自衛隊は非感染地区で防衛線を張り、今日も頑張ってます…か。いよいよもってゲームの世界が現実となっちまったようだな」


「…ゲーム?なにそれ?」


「いや…なんでもねぇよ」


「ラストデイ」での操作キャラクターは軍の特殊部隊の兵士でもなく、民間人の設定だ。

今の俺のように、感染地区に取り残された生存者が感染者を相手に生き抜く…まぁ、FPSゲームであるがゆえに、銃などの「重火器」で武装しているのが違う点ではあるが。


「…これからどうするの?」


女は、しきりに俺を見つめてくる。

他に頼るべき者がいない今、コイツが俺を頼ってくるのは分かる。

だが、俺にとっては「足手まとい」でしかない。

このまま置いていくのが正しい選択だろう。


だが、一方でこのまま置き去りにしていくという「非情」な選択が出来ない俺もいた。


「とりあえずは食料と水を手に入れる。ここにいても餓死するのを待つだけだからな」


案の定、女は家から出ていこうとする俺を呼び止めると、ついて行きたいと願い出た。


「フン…勝手にしろ!足手まといになるなら置いていくからな」


素っ気ない返事をした俺に、女は満面の笑みを作りながら後についてきた。


「私、渡辺美佳っていうの。ヨロシクね!ソーマ君♪」




…渡辺美佳。人懐っこい笑顔でついてきた、この女を、俺はどうして置き去りにしなかったのだろう。


俺はこの後に激しく後悔する事になった。


追い詰められた人間は「ゾンビ」等より醜悪な化け物になる事を見せつけられたのだから…

















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