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予感

すみません……遅くなりました

体育館の中には、武志の他にも20名ほどの生存者達がいた。


皆、俺の顔をいぶかしげな表情で見ている。


化物(ゾンビ)達が徘徊する校内をくぐり抜けて、どうやって此処まで来られたのか不思議がっているようだった。


「……武志……すまないな。扉が開くのが、もう少し遅かったら奴等に喰われていたところだった」


煙草に火をつけながら話していた俺の胸ぐらを掴み、武志は怒鳴りつけてきた。


「バカ野郎!お前……死ぬところだったんだぞ!何で大学に来たんだ!」


「お前は俺の友人だ。その友人を助けに来た……ただ、それだけの事だ」


平然とした顔で返答した俺を見ると、武志は呆れた顔をしながら溜め息をついた。


そんな俺と武志のやり取りを見ていた群衆の中から、おそるおそる1人の女が俺に話しかけてきた。


「あの……私……同じ学部の齋藤 恵っていうの。あなた……あの有名な暴走族、「アウトサイダー」の葛城相馬君でしょ?」


その質問に対して無言でいる俺の様子を見て、武志は間に入ってきた。


「な……何を言ってるんだ!?相馬が暴走族なわけないだろ!こいつは、ただのゲーマーだよ。言ってみればオタクってやつだ」


……オタク……か。


まぁ、そう言われても仕方のない生活はしていたが、面と向かって言われると気持ちのいいものではないな。


「でも……噂で聞いたことあるもの。有名な暴走族のリーダーがウチの大学に入ってきたって。それが相馬君じゃないかって……有名な噂だよ」


周りを取り囲んでいた群衆が一歩ずつ俺から離れていく。

どうやら皆の興味は、外にいる化物(ゾンビ)ではなく、俺の過去へと向いているようだ。


そんな皆の態度に苛立ったのか、武志は声をあらげながら言い返した。


「こんな時に何でそんな事を言うんだよ!もし仮にそうだったとしても、今は関係ないじゃないか!」


齋藤 恵と名乗った女は、皆に問いかけるように話し始めた。


「でも……これって凄く重要な事だと思うの。そんな危険な人が、ここで暴れられたら誰も止められないわ。外にいる化物と同じじゃない」


なるほど……一理ある。


俺が彼女の立場なら同じように考えていただろう。


化物(ゾンビ)が徘徊する外に出られず、強制的に籠城せざるをえない状況で「内からの脅威」に脅えてしまうのは仕方の無いことかもしれない。


たしかに、俺の噂話があるとは知ってはいたが誰も信じていないものだと思っていた。

だからこそ、大学では目立たないように過ごしてきたはずだったんだが……。



こうなった以上、全てを正直に話す他ない。



下手に言い訳をしようものなら、余計に不安を掻き立ててしまいそうだ。

何かを言いかけた武志を制して、俺は話し始めた。



「隠さずに言おう……俺がアウトサイダーの(リーダー)であった事は事実だ」



この言葉で群衆はザワツキはじめた。


俺の顔を見ながら、隣同士でヒソヒソと話しあっている。


やっぱりアイツだったのか……ろくな奴じゃなかったわけだ……そんな呟きが聞こえてきた。


「だが、俺は真っ当に生きる事を誓い……暴走族(アウトサイダー)を自らの手で解散させ、大学に入学した……その証拠は、俺が大学に在籍している事に他ならない」


群衆は俺の話しに聞き入っていた。


「噂話は俺の耳にも入ってはいた。自らの言うつもりは無かったが、素性が分かり色眼鏡で見られてしまっても仕方の無い事だとは思っていた……それだけの事をしてきたのだからな」


「だが……武志は、そんな俺の過去を知りつつも1人の友人として接してくれた。俺は、そんな友人が危険にさらされている状況を見過ごせなかった。ただ……助けたいと思っただけだ」


「……相馬、お前……」


話しを聞き終わった群衆達は、感動している武志の表情と、真剣な眼差しで話した俺の顔を見て困惑していた。


すると、群衆の輪から少し離れて座っていた男が拍手と共に立ち上がった。


「みんな……もういいだろう。彼は俺達に危害を加えない……さっきの話しを聞いて分かったろう?過去に何かしようとも、彼は純粋に友人を助けに来たんだよ」


皆、頷いてはいたが今一つ納得していない様子だった。


「おいおい……化物(ゾンビ)達が襲ってきた時、皆をここまで避難させたのは誰だい?そこにいる安藤武志君じゃないか。彼が信頼を置いている相馬君は、信頼に足る人物だと僕は思うがね」


その言葉で皆が納得したようだ。


皆、俺に対して誤解していたことを次々と謝罪してきた。


誤解を解いてくれた男は、群衆が散ったあとに俺のもとに駆け寄り、握手を求めてきた。



「自己紹介が遅れたね……僕は高槻 勇。君とは学部は違うが同じ2年だよ。宜しく」



高槻と名乗った男は、満面の笑みを浮かべて握手をしてきた。



だが、その笑みは……背筋が寒くなるほどの裏の顔を持つ人間を連想させるような「作り笑い」に俺は思えた。



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