再会
地獄絵図とは……こういう事を言うのか。
渡り廊下のT地路まで後退し、此方に迫ってくる大量の化物達を見ながら、そう思った。
廊下の両端まで隙間なく埋めつくし、数えきれないほどの化物達は、ゆっくりと押し寄せてくる。
奴等に「ゆずりあいの精神」などはない。
たとえ自分の前に歩いていた化物が転倒しても、その体を踏み潰しながら向かってくる。
一刻の猶予もない事態だが……肝心の体育館の入口が開く様子は依然としてなかった。
俺は急かすように扉を叩き、中の人間に状況を伝える。
「……スマないが急いでくれないか?化物に「ミンチ」にされてからでは遅いんだ。すでに奴等は、渡り廊下の3分の1は進んできている……あまり時間がない」
急かした俺に苛立ったのか、中にいる人間は切羽詰まった声で返答してきた。
「……分かってるよ!こっちも大変なんだ……もう少し待ってくれ……あと、ちょっとだから……クソっ!こいつが引っ掛かって……取れないんだ!」
体育館の中にいる人間が、俺を見捨てる事も考えてはいたが……どうやら、その心配はなさそうだ。
これが演技ならオスカー賞ものだ……
そう感じるくらいに必死な思いが伝わってきた。
だが、この間にも化物達は進んできている
…すでに廊下の半分を渡り終えているのが見えた。
自分の心臓の鼓動が早くなっていくのが分かる……
この扉が開かなければ、待つものは絶対の死。
あの数の化物に襲われれば、俺の身体は八つ裂きにされてしまうだろう。
五体満足に死ねるとは思えない……。
意識を失う直前まで、内臓を引きずりだされ……皮を剥がされ……手足を千切りとられる感触を楽しむ事になる。
映画で化物に喰われたくないがために、自決する人間が描かれていたシーンがあったが、その気持ちが理解できた。
……あいにく自決用の武器はない。
所持していたコンパスとペーパーナイフも化物に突き刺したままだ。
持っていたからといって、この状況を打開できる物ではないが、意味のない武器でも何か持っていた方が、多少の安心感は得られる事も同時に理解した。
そんな事を考えているうちに化物達は目前まで来てしまっていた。
先程倒した化物達は、迫り来る大量の化物達に踏み潰され、姿が見えなくなってしまっている。
「……終わりか……クソっ!」
最後の抵抗をしようと、一番先頭の奴に渾身の一撃を叩き込んでやろうと身構えた……
…………その時。
ガチャリと音がして、体育館の扉が開いた。
「おい!……早く来い!こっちだ!」
その声と同時に俺は入口へと駆け出していた。
扉から身をのりだして、手招きをする男に向かって全力で走り、扉に体当たりをするかのように開いた扉の隙間に身を滑らせて、中へと入った。
「……すまない」
中にいれてくれた男や生存者達の顔を見もせず、詫びを一言だけいれると、俺はすぐにバリケードの修復に取りかかった。
やるべき事を察知したのか、生存者達も挨拶はせずにバリケードの再構築の作業に取りかかる。
化物達は体育館の中へと入ろうと、唸り声をあげて扉を叩いていたが、この頑丈な扉を開ける事は出来ずに、恨めしそうな声をあげるのが精一杯だった。
頑丈なバリケードが出来上がった頃には、化物の声が聞こえなくなっていた。
諦めたのか……?
俺が扉をみながら、一息いれたとき……
「あ……あれ?……お前、相馬じゃないのか。何でここに……?」
横にいた男が驚いた声で話しかけてきた。
その男は、体育館の中にいれてくれた先程の奴だった。
俺も、その男の顔を見て驚く。
「……武志!? お前……生きていたのか」
……彼こそ俺が探していた「安藤武志」だった。




