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作戦

俺が目指している場所……


それは校舎の2階にある屋内体育館だ。


この建物が病院であった時に、入院患者用のリハビリ施設として作られた体育館で、それなりに設備も整っている。

もし、大学内で「生存者」がいた場合には「避難場所」として選択する可能性が高い。


体育館の入口は1つしかなく、化物(ゾンビ)に対して籠城を決め込むには最適の場所だからだ。


反面、そこから逃げだすには入口からの強行突破か、窓から飛び降りるかの2つしか残されていないが……


そこに行ってみる価値はあるだろう。


だが、そう簡単には通してくれないようだ。


ロビーで大きな音を立てた事によって大半の化物達(ゾンビ)は1階へと降りた。

奴等は音に反応し、その場所を確認しようとする。

だが、その原因を探ろうとする知性は、持ち合わせてはいないようだ。


何も無い事が分かると、その場をフラフラと徘徊したり、何をする事もなく呆然と天井を見つめていたりと暇をもて余していた。


おかげで、化物(ゾンビ)がいなくなった2階への階段を安全に上ることが出来た。


この階段を登りきると、すぐ先の廊下は十字路になっている。

真っ直ぐに進むと渡り廊下になっていて、その先のT字路の突き当たり右側が体育館の入口だ。



だが、その渡り廊下には3体の化物(ゾンビ)が徘徊していた。


鬱陶しい奴等だ……音に反応するのも個体差があるのだろうか?


左右の廊下に化物(ゾンビ)がいない事を確認し、十字路の曲がり角に隠れて様子を伺う。


どうやら奴等は移動する気はないようだ……


何をする事もなく、フラフラと渡り廊下を徘徊している。


手持ちの武器では、3体同時に殺る事は不可能だろう。

奴等に意思疏通する能力があるのかは分からないが、仲間を呼ばれたら1階に降りていった化物(ゾンビ)が2階へと引き返してくる事だろう。


そうなれば、俺は終わりだ。



さて、どうしたものか……



のんびり考えている余裕もないが。



……奴等は音に反応する。



まてよ……これを何かに使えないだろうか?



目線を床に移した……材質がフローリングか。


俺は財布から1円玉を取り出した。


咄嗟に考えた作戦はこうだ。


まず、手に持ったコンパスで軽く床を叩き、渡り廊下のゾンビ達を俺の方に歩み寄らせる。

勿論、その時には角に隠れて奴等に見つからないようにしておく。

奴等を十分に引き付けて、俺が隠れている所とは反対側の十字路の廊下に1円玉を投げる。


飛んでいく1円玉が化物達(ゾンビ)の視界に入るだろうが、奴等は「何故、硬貨が目の前を飛んでいくのか?」よりも硬貨が床に落ちた「音」に興味を示すはず。


その後、奴等に気付かれないように静かに後ろを通り抜けてしまえばいい。


だが、これは賭けだ。


奴等を引き付けすぎると俺が見つかってしまうし、音を立てる事によって、他のエリアにいる化物(ゾンビ)が寄ってきてしまうかもしれない。


なるべく小さな音を立てるために、最も小さい硬貨である1円玉を選んだが……このまま投げても音が小さすぎて渡り廊下にいる化物(ゾンビ)は反応しないだろう。


ある程度、こちらに引き付けなくては……。


渡り廊下の左右に化物(ゾンビ)がいないことを再確認した俺は、作戦を実行することにした。



カチッ……カチッ……!



コンパスで床を軽く叩いた音が鳴り響く…



その瞬間、渡り廊下の化物(ゾンビ)の足音が止んだ。


どうやら、目論見道理に音に反応したようだな。



ズルズルと何かを引きずるような足音を立て



一歩一歩……奴等は俺の方へと向かってきた。



1円玉を握りしめた手に熱がこもる。



早く投げよう……そんな欲求に支配されそうになる。


はやる気持ちを押さえながら、俺は息を殺してジッと待っていた。



奴等の足音が、すぐそばで聞こえた時……



俺は1円玉を反対側の廊下へと投げた。



キーンッ……!と小さな金属音を立てて1円玉は転がる。



化物(ゾンビ)の足音が止んだ……1円玉の音に反応したのか……?



今度は辺りに静寂が響く……



俺はナイフとコンパスを構えて戦闘態勢を維持していた。


1円玉の方に向かわなければ、確実に俺の方に来るだろう……そうなれば腹をくくるしかない。



だが、それは杞憂に終わった。



再び動き出した3体の化物(ゾンビ)は、1円玉を投げた反対側の廊下に進んでいく……俺の作戦は成功したようだ。



あとは、化物(ゾンビ)共に気付かれないように静かに進むだけ……


3体の化物(ゾンビ)が背を向けて、反対側の廊下に進んでいくのを確認した俺は、中腰のままで渡り廊下を静かに進んだ。



渡り廊下を半ばまで進み、ホッと一息をついた俺は唖然とした。



突き当たりのT字路から、さらに1体の化物(ゾンビ)が出てきたのだ。


こいつはT字路にいた為に、コンパスの音に反応しなかったのか……


それとも、小康状態になっていて他の化物(ゾンビ)の活動に反応したのか?


渡り廊下の先にいる化物(ゾンビ)は俺を「獲物」だと認識したようだ。


大きな呻き声を上げて、こちらへと歩み寄ってくる。


当然ながら、この声を聞いて先ほどの3体の化物(ゾンビ)も渡り廊下に引き返してくるだろう。



どうやら、最悪の結果になったようだ。



もう、消音殺人(サイレントキル)の意味はない……



俺は手に持った武器を持ち直し、渡り廊下の先にいる化物(ゾンビ)を殺るために走りだした……



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