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恐怖

大学の正面入口にたどり着いたが、俺の目の前には凄惨な光景が広がっていた。


入口のガラス扉は粉々に破壊され、あたりにガラスの破片が散乱している……その付近には、おびただしいほどの血の跡とタイヤ痕があった。


……車が入口に突っ込んだのか?


だが、のんびりと考えこんでいる暇はない。



警戒棒を持ち直し、ガラスの破片を踏み潰しながら建物内へと入った。



俺の通っていた大学は、使われなくなった病院の施設を改修して作られたものらしい。

その名残なのか、正面入口から入ると病院の受付ロビーのような大きな空間がある。


普段は学生が談話の為に使っていたテーブルやソファーが置かれていた場所だ。


だが、そこにあった全てをなぎ倒し……一台の救急車が横倒しになって倒れていた。



「何故、救急車が…」



救急車の後部扉は衝撃によって外れ、車内にあったと思われる医療器具が外に飛び出している。


あたりの様子をうかがってみたが、このロビーに人のいる気配はなさそうだ。


俺は警戒をしながら救急車の後部へと近づいた。


車内にあった負傷者を乗せる担架の周りには、おびただしい血痕が残されている。

当然、そこには救急隊員の姿はない…



「……こんな事は考えたくはないが」


……予想を立てるなら、こうなるだろう。


感染者とは知らずに救急車で「患者」を緊急搬送した際、車内で発病…錯乱した救急車は大学内へ突っ込み、建物内に感染が広がった。


正門で見た感染者……あれは、この辺りの住民だろう。


それにしても、ここにいた大学の人間は逃げたしたのか?

…あるいは隠れているのか。



不気味なほど静かだ……。



携帯で武志に連絡をとりたいが、感染者が何をもって人間を探し出しているのかが分からない。


……音か? ……匂いか?


殺した大学の講師は、俺の独り言に反応した。


物音や話し声などは立てない方が良さそうだ…


俺は横倒しになった救急車の運転席を確認するために、車体の前部へと周りこんだ。


車のフロントガラスは粉々に破壊され、運転席が丸見えになっている。

運転席の中には、救急隊員が運転席と助手席にいた。


車が横倒しになっていたが、隊員の体はシートベルトで固定されているため、ベルトで釣り下がっている状態だった。


……事故の衝撃で気絶したのか?


二人とも白いヘルメットを被り、うつむいているために顔が確認出来ない。


生死を確認する意味も含めて、警戒棒で隊員の体を揺さぶった、その時……



隊員の首が落ち、音を立てて地面に転がった。



転がった救急隊員の顔は、眼球・鼻・耳が無くなり、頬の肉は野犬にでも喰われたかのようにスダズタになっていた。


気絶している間に襲われたのか……


俺が救急隊員の死体に驚いてすぐ、遠くの方から「何が」を引きずるような音がした。


隊員の首が落ちた時に、地面にヘルメットが当たり大きな音を立てた。


……やはり奴らは音に反応する。


このままここに居続けたら、俺もこの救急隊員のようになってしまうだろう。


俺は細心の注意をはらいながら、更に大学の奥へと進んでいく……



感染者がうろつく建物内で、生死不明な「武志」を見つけて脱出する……そんな途方もない事が、はたして俺に出来るのだろうか?



それ以前に、俺は恐怖に押し潰されそうになっている。



恐怖を克服する……



言葉で言うのは簡単だ。



頭で理解しようとしても、本能が拒否している。



一歩進もうとすると死の恐怖が、次々と俺に襲いかかる。



ゲームで味わうモノとは違う……



……本物の恐怖がここにあった。










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