感染
需要があるかどうか分かりませんが、5話までは連続投稿していこうと思います。
俺はゲーム機の電源を切り、真っ黒なテレビ画面を見つめながら呆然としていた。
今、騒いでいる伝染病と「ラストデイ」を元ネタにした、たちの悪い悪戯なのか?
ネット上で「悪ふざけ」をする輩は腐るほどいる…下らない動画や画像を撮って「共有サイト」に投稿する奴は後を絶たない。
メッセージを送ってきたフレンドは、俺と歳が近い事もあって、何かと話しが合う奴だった。
実際に会って話しをした事は無いが、餓鬼臭い悪戯をするような奴とは思えないし…あれが演技とは。
「そういえば…たしか「千葉県」に住んでいるって言っていたな」
オンラインゲームのボイスチャットのやり取りの中、お互いの住んでいる県を言いあった事を、ふと思い出した。
「…千葉県?…たしか、感染区域に指定されていた…」
頭の中を整理しようとした時、ベッドに置いてあったスマートフォンの着信メロディが、鳴り響いた。
大学の友人からの着信…俺はスマートフォンの画面を操作し電話を繋いだ。
「おいっ!相馬!無事かよ? 大学に出てこないから心配したぜ!今どこだ?」
安藤武志…通っている大学の中では数少ない、話せる友人だ。普段は人当たりが良く、ヘラヘラとしている奴だが、電話越しの今日はいつもと違う真剣な声で叫んでいた。
「…家だ。そっちは大学にいるのか? 随分と騒がしそうだな」
休日の繁華街の真っ只中で電話しているような耳障りな雑音が入ってくる。誰かが叫び声をあげているようにも聞こえなくもないが…
「ハァっ!?そりゃー騒がしくもなるぜ!お前、ニュース見てないのかよ!こっちは大学から出れないんだぜ?自宅や公共の施設から出るな!…だってよ」
友人の言葉は東京23区が感染区域に指定された事を示していた。
これから一体どうなるのか?…俺は某ホラーサバイバルゲームの結末を思い出していた。
主人公達が感染者と戦い、街から脱出するのだが… 感染区域は国の決断による、空爆により「殺菌消毒」される結末だ。
「まぁ何にせよ無事で安心したぜ!あんな化け物が本当にいるかどうか分からないけど、お前が襲われてないかと心配したからな」
「…化け物?…一体、何の事を言ってるんだ?」
「おいおい…今、ネットで騒がれている動画だよ!見てないのか?こっちはその話題で騒ぎになってるんだぜ?後で見てみろよ。じゃあな!」
安藤はそう言うと電話を切った。
ネットで話題の動画とは何の事だろうか?
俺は直ぐ様、スマートフォンで大手動画投稿サイトにアクセスしてみる事にした。
キーワードは「感染」
すると、恐ろしいまでの回覧回数がある2分足らずの動画が幾つもヒットした。
どれもスマートフォンの動画機能を使った手撮りと思われる動画だ。
…その中で俺はタイトル名が「感染者」と記載されている動画を再生する事にした。
動画を再生するやいなや、画面が激しく上下している…画面酔いする奴なら気持ちが悪くなるだろう。
どうやらスマートフォンを手に持って走っているようだった。
やっとの事で画面の上下が収まると、投稿者の顔が画面一杯に写っていた。
日本人で成人男性だったが、酷くやつれているように見えた。
顔には所々に傷跡があり、髪の毛は血でベッタリと濡れている。
路地裏に入ったのだろうか?画面が先程とは違い暗くなっている。
「…俺は今、現実と思えない光景を見ている。感染者が…人を襲っているんだ。アイツらは…人間じゃなくなっちまってる。まるで…スプラッタームービーのように人間を食べようとしてくるんだ」
息も絶え絶えな投稿者は涙を流しながら訴えている。涙を拭いたその手は真っ赤に染まっていた。
不意に画面が投稿者の顔から切り替わると、大通りの景色が写しだされた。
車が横転している横で4人の大人が這いつくばってゴソゴソと何かをしている。
投稿者がスマートフォンのズーム機能を使い、這いつくばっている4人をアップすると…
そこには全員、顔を血だらけにしながら、倒れている人間を貪り喰っている狂気の姿がうつしだされていた。
あるものは遺体の顔をかじり、手で顔の皮膚をはいで食べており、あるものはハラワタの内臓を引きずり出しハムスターのように頬に溜めながら食べていた。
「これが証拠だ!政府の言っている事なんて何もかも嘘だ!もう隔離なんか間に合わない…この動画を見てくれた人にいいたい。早く逃げるんだ!」
動画はそこで止まっていた。
この動画投稿者が、このあとにどうなったかは想像出来るだろう。
フレンドのボイスメッセージ…動画投稿…
ゲームの中でしかなかった「ラストデイ」の内容が実際、起こっている。
ただ1つ違うのは生き残りをかけた戦いをするのはゲームのキャラクターではなく、プレイヤーであった俺と言う事だけだ。
ーアウトブレイクから3週間後ー
俺の戦いはまだ続いている…