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赤い狼の軌跡【下】

俺が傭兵になった理由……


常に死と隣り合わせの戦場が自分の居場所と分かったからだ。


俺は陸上自衛隊を除隊し、戦場を求めて傭兵会社(ライオットカンパニー)に入社した。

入社後は、毎日欠かさず厳しい訓練を自分に課してきた。


もともと才があったのか、会社(ライオットカンパニー)の兵士の中でも、抜きん出た能力を発揮するようになった。


特に至近距離(クロスレンジ)戦闘技術(コンバットスキル)は、会社の中の精鋭(エリート)であるカラーズ隊員よりも優れていると評価され、俺は「仮隊員」としてカラーズに編入され、任務をこなすようになった。


その後、カラーズの任務を何度かやり遂げたが…親父(ブラックパンサー)は、頑として俺にコードネームを与えなかった。



……何故なのか?



その時、俺は自分の年齢が若すぎるからだと勝手に決めつけていた。



だが、それは違った……親父は、俺が任務に対して非情になりきれていない事を見抜いていた。


非情になれない者……それは、いかに戦闘技術が高く優秀であっても兵士としては使い物にならない。



この任務は親父が俺に課した試練なのだろう。



そう理解した時、俺は銃の引き金を引いていた。



何が起こったのかを理解する間もなく、村人達は俺達が撃った銃弾で次々と死んでいく。



絶命する前に、大きな声で家族の名を叫びながら死んでいく者…


地雷によって失ったのか…片足しかない少年は、松葉杖をつきながら必死に逃げようとしていた。

その少年を逃がそうとする母親もろとも、俺達は容赦なく撃ち殺した。



何の罪もない無抵抗な人間達が次々に死んでいく……



……地獄とはこういう事を言うのだろう。



先導していたアレックスが銃撃を止め、片手を上げて俺達に合図を送ってくる。

村の外にいた人間を「始末」し終えた俺達は、民家の中の検索を開始する。


「…私達は中央と右側の家を制圧するわ。アナタは左側の家をお願いね」


マリアの指示に俺は黙って頷いた。


小屋に着いた俺は、銃を構えながら家の扉を蹴り破り、室内へと突入した。


家の中は質素なベッドが置いてあり、家具が散乱していた。

ベッドの横には震えながら立っている女がいた。


「…私達が一体何をしたっていうの!?この村には怪我をした子供や老人しかいないわ。皆、内戦で傷ついて……寄り添って生きていたのに」


俺は、女の話しを黙って聞いていた…手の爪が割れるほどに強く銃を握りしめながら。


「こんな事をするなんて…アナタ達は人の皮を被った悪魔よっ!!人殺しっ!!」


俺は無意識に涙を流していた。

銃の照準を女の眉間に向けた時、遠くから銃声が鳴り響いた。


マリア達が民家を制圧したのだろう…

とすれば、この女が最後の人間…



泣き叫ぶ女に、俺は引き金を引いた。



銃弾は女の額を貫き、糸が切れた人形のように女は倒れた。

せめて苦しまないように……そんな偽善的な考えをした自分に腹が立った。


亡骸の両目を閉じさせてやろうと近づいた時、妙

な気配を俺は感じた。



…まだ隠れている人間がいるのか?



再び銃を構えて部屋の中を見渡していると、ベッドの下から少女が出てきた。


その少女は、俺に見向きもせずに女の遺体に向かって歩きだした。


倒れた女の横に座り込み、遺体の肩を揺さぶっている……この女の娘なのか?


「おい……お前の母親なのか?」


少女は俺の方に振り向き、無表情のまま頷いた。


「…もう死んでる。こうなりたくなかったら、裏口から逃げろ…お前は見なかった事にしといてやる」


この子を逃がす事は、任務に反する事は分かっている。

…だが、俺はもう終わりにしたかった。


少女は何も言わずに無表情まま、俺をじっと見据えていた。


その目に「怒り」や「悲しみ」は込められていない…それどころか、俺に対して哀れんでいるようだった。


「なにを見ている!…はやくいけ!俺の言葉は分かるだろう!死にたいのか!」


語気を強めて銃を構える俺に、少女は物怖じせず、ゆっくりと近づいてきた。


俺の心をえぐり取るような「目」をしながら…


「なんなんだ…お前は。死ぬのが怖くねぇのか!?そんな目で俺を…見るんじゃねぇっ!!」


俺は威嚇射撃を行い、少女の足元付近に銃弾を撃ち込んだ。

だが…少女は変わらず歩を進めてくる。


俺は無意識の内に後退りをしていた。


無防備に近づいてくる少女に圧倒された俺は、全身に鳥肌が立ち、イヤな汗が吹き出していた。


…何故、こいつは向かってくるんだ?


…俺の心を見透かしているような目をしながら。



「く……来るなっ!来るんじゃねぇっ!た……頼む!…お願いだから……来ないでくれ!」



俺は銃を落とし、壁に寄りかかりながら後退していた。


少女は俺の目の前で止まり、何も言わずジッと見つめてくる。


俺は呼吸を乱しながら、頭を抱えこみ絶叫した。



声にならない叫び声を上げ、俺の視界は白くな

る。


…そこで俺の意識は無くなった。












この後の、エピローグを投稿します。


今後の話し(アウトブレイク)につながる部分があるので、もう少しお付き合いを。


近々、投稿出来るはずです。



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