赤い狼の軌跡【中】
「……村の外周に歩哨無し。民家の窓に狙撃兵も見当たらねぇ。この村にゲリラが潜伏しているとは思えねぇが…」
手に持った双眼鏡を覗きこみ、俺は村の様子を探っていた。
ごく平凡な村だ……いや、それどころか住んでいるのは、子供や老人ばかり……反政府組織が起こした内戦から逃れた難民に見えた。
「当たり前だ……あんな村にゲリラなんかいるはずねぇだろ。俺達の任務は「これから」なんだからな」
コーツは俺を見ながら葉巻を吸っていた。
気味の悪い笑顔を浮かべながら。
「これからだと……?ゲリラが潜伏していないのなら作戦は終了だ。とんだ無駄骨って奴じゃないのか?」
「なら、あの独裁者の作戦本部(HQ)に連絡してみるんだな…ククク」
……コイツは、何をほざいているんだ?
俺は無線機を使い、作戦本部へ現状を報告した。
「…こちら、エコーチーム。対象の村に鷹は認められない。指示をくれ」
「エコーチーム…了解した。だが、指示とは何だ?直ちに作戦を遂行しろ。交信を終わる」
作戦……だと?
俺達の任務は、ゲリラの殲滅では無かったのか?
……一体これは。
戸惑う俺の顔を見て、コーツは笑いを堪えきれなくなっていた。
「ハハハハっ!ここまで鈍いと騙す方も気分がいいぜ!…ジャップ!オメーは一杯食わされたんだよ!…マリア…説明してやんな」
マリアは申し訳なさそうな顔をして話してきた。
「ナオキ……隠していたのは謝るわ。アナタに伝えた作戦内容はデタラメなの。私達の本当の任務は……あの村にいる人達を始末する事なのよ。これを着ながらね」
青い鷹の刺繍……この国のゲリラが着ている戦闘服をマリアは渡してきた。
まさか……俺達の本当の任務ってやつは。
「バカも休み休みに言えっ!あの村にいるのは何の罪もねぇ民間人だろっ!殺す理由がねぇ!」
俺はマリアの胸ぐらを掴んで怒鳴り付けた。
怒りに震える俺の目を、マリアは真っ直ぐに見つめながら、子供を諭すように話しを続けた。
「ナオキ…落ち着いて聞きなさい。何故、私達がゲリラに扮して、あの村を襲わなければならないのか…今から、それを説明するわ」
マリアは俺に話した……
この国の周辺の国々も貧困に苦しんでいる。
もし、この国で革命が成功したら、周りの国の中で、次々と革命が起こりかねない。
いまや、民衆の希望となっている反政府組織の評判を落とし、革命を挫くには、これは有効な方法だということを。
「くっ……!!だったら……俺達がゲリラを潰せばいいだろ!そうすれば、革命は終わる。村の人間が死ぬ事はねぇ!」
「駄目よ……それでは反政府組織は、祖国に殉じた英雄になってしまう。また、第2・第3の反政府組織が生まれてきてしまうわ。民衆の期待を摘み取らなければ、意味がないの」
理屈は解る……だが俺には。
地面に両膝をつき、うなだれる俺の前にアレックスが立っていた。
「相沢…気持ちは解る。誰も、こんな任務を喜んでやろうとは思わない。だが、我々(ライオットカンパニー)は世界のバランスを守るのが仕事だ」
「そう……誰かが、やらなければならない事なの。ナオキ…アナタに黙っていたのは、こうなる事が分かっていたからなのよ」
誰かが…やらなければならない。
……革命が次々に起これば、それにより死者や難民が著しく増える。
これが、結果的に民衆を救う事になる…のか?
コーツは、俺の髪を掴んで吐き捨てるように言い放った。
「だからテメェは半人前だって言ったんだ。カラーズの仕事は博愛主義者気取りで出来る仕事じゃねぇ。今までテメェが、こなしてきた任務は予行演習にすぎねぇ。これが本来のカラーズの任務だ!」
コーツに突き飛ばされて地面に仰向けになった。
「カラーズの……本来の……任務……」
よろけながら立ち上がった俺は、マリアから戦闘服を受けとる。
俺達はゲリラの戦闘服に着替えて村へと向かった。
そして、この後……
…俺は生涯忘れられない出来事と遭遇する事となる。




