赤い狼の軌跡【上】
本当はアウトブレイク直後の話しを投稿するつもりでしたが、番外編として相沢の話を投稿させてもらいます。
今までの話しを一部・アウトブレイク直後を二部とする為です。
ー2007年 アフリカ中部地方ー
広大な荒野をガタガタと揺れながら進む軍用トラックの中に俺はいた……
最新の突撃銃を肩に担ぎながら、手に持った煙草を吹かしていると、目の前に座っていた男が急に騒ぎだした。
「…チッ!何もかもがクソみてぇな場所だが、面子の中にもクソがいるぜ!……オイッ!ジャップ!親父のお気に入りだかしらんが、テメェみたいな新兵のお守りなんて、俺はやらねぇからな!」
胸糞悪くなる暴言を吐いたクソ野郎は、葉巻を取りだし、煙を俺の顔に浴びせてくる。
こいつはガーランド・コーツ……コードネームは緑の猫、なんでも、フランスのコマンド部隊の出身で、ゲリラ戦では右に出るものはいないらしい…西側では「死神」と呼ばれるほどの腕の立つ奴だ。
性格は、クソそのものだがな…
「あ?……「なまり」が酷くて、なに言ってるか分からねぇよ。ちゃんとした「人語」を話せ。フランスの貧乏白人は英語も喋れねぇのか?」
「…っ!!口の減らねぇ猿野郎だ!今日こそ決着をつけてやるぜ!」
トラックの中で勢いよく立ち上がったコーツの肩を、隣に座っていた男が掴んで無理矢理座らせる。
「キャット!……冷静になれ!作戦前に仲間割れしてどうする。相沢…お前も安い挑発にのるな。俺達の任務は仲違いではないだろう?」
コーツの横に座った大柄の黒人男性、アレックス・ガルシア…コードネームは茶色の熊…重火器に精通した元グリーンベレー隊員だ。
後輩思いで理知的な人物、俺も随分と助けられたもんだ。
アレックスの言葉を受けて俺は頷き、その場は収まった。
「まったく……いつもながら呆れるわね。少しは仲良くなさいな」
俺の横で、ぼやいていたのがマリア・イアン…コードネームは紫の蛇、最年少で博士号を取得したロシア人の女だ。
マリアは「ギフト」と呼ばれる天才児らしい……見た目は20代前半だが、実年齢は40才を超えているんだと。仲間内では「若返りの薬」を服用している、との噂が絶えない女だ。
「仲良くだと!?…ハッ!コードネームが無いのにカラーズを名乗る餓鬼と仲良く出来るはずがねぇぜ!所詮、こいつは半人前なんだよ」
気に入らない態度で、ふて腐れていたコーツに俺は言いはなった。
「その半人前に叩きのめされたのは、何処のどいつだ?カラーズが聞いて呆れるぜ」
コーツが再び立ち上がろうとした時、マリアの怒声が響いた。
「いい加減になさいっ!!…コーツ!模擬戦とはいえ、貴方がナオキに負けたのは事実なのよ!ナオキの実力は御父様も認めているわ。子供みたいに根に持つのはよしなさい!」
マリアに諭されたコーツは舌打ちをすると、黙って腕を組み、俺を睨み付けていた。
「やれやれ…マリアがいなければ、とんだ事態になる所だったな。二人とも、もう少し大人になれ…俺達はチームだ。お互いに信頼せねば作戦を遂行することも、ままならんぞ」
アレックスは頭に巻いたバンダナを取ると、溜め息をついた。
肩を落としたアレックスを見た俺は、申し訳なくなり、謝罪の言葉を口にした。
「悪かったよ…アレックス、マリア。今回の作戦に苛ついていたんだ。どうも、気乗りがしなくてな」
今回の作戦……それは、独裁国家に反乱するゲリラの村を襲撃する事。
この国の圧政は酷いもんだ……富めるのは首都に住む一部の人間だけ、半歩でも首都から出れば、明日の飯にも、ありつけないような貧民が腐る程いる。
反政府ゲリラは、この国に住むものにとって「希望」そのものなのだ。
そんな希望を俺達は摘み取ろうとしている。
金で雇われた傭兵といえど、気乗りがしないのは当然だ。
そんな沈んだ俺の様子を見たコーツは、トラックの床に唾を吐き捨てた。
「民の味方をするゲリラを討伐するのが、気に入らねぇってか!ハッ!…正義の味方気取りとはな!お前は何にも分かっちゃいねぇ。先を見てねぇ」
「先……?」
コーツは、それ以上何も言わなかった。
そして、暫くするとトラックが止まった。
運転手が作戦ポイントについた事を、俺達に知らせる。
俺は作戦に「必要」な物を運びだし、予定通りにゲリラが潜伏している村へと、歩きだした。
この後に起こる惨劇を知らずに……




