カラーズ
セーフハウスに着いた俺と相沢は、公園から運んできた物資を確認していた。
かなりの重量があっただけに食料や医薬品…とりわけ弾丸は充分なほどにあった。
「……この箱は?」
大きさは弁当箱ほどの小さなアタッシュケース…中身を確認するために開けようとしたが、施錠されていて開かない。
相沢は、その様子を見ると慌てて俺の手から箱を取り上げた。
「おーっと!相馬…こいつは、チとヤバい代物だぜ。あー…それよりも預けておいた銃は、まだ持ってるか?」
俺は頷くと、太股に装着したホルスターから銃を抜き取り、相沢に手渡した。
「随分と汚したもんだなぁ~。さて…お前さんも色々と俺に質問したいこともあるだろうし、銃の点検がてら、楽しいトークタイムといこうぜ」
相沢は煙草を口にくわえながら腰をおろすと、手慣れた手つきで、渡した銃を次々と分解していく。
「銃の内部に血の塊がついちまってるぜ。こいつは動作不良を起こすだけの騒ぎじゃないぞ。ちゃんとフキフキしてやんなきゃなぁ~。そういや、お前さんには女はいないのか?」
相沢はニヤツキながら、小指を俺に向けて立てている。
「いや、いないが……」
「女も銃も常に愛情を持って接しないと駄目だぜ?そいつが、お互い長続きする秘訣だ」
「…とりあえず、その事は頭の隅に置いておく。そんな事より聞かせてもらいたい…アンタの目的をだ」
…大体の予想はついているが。
相沢の口から聞いておきたい事でもある。
「休暇で偶然、日本にいたと言うのは嘘なんだろう?…アンタはゼロを調査するために会社から送り込まれた人間じゃないのか?」
会社がヘリで支援物資を送った…そして、あの箱に置いてあった紙の内容…まず、間違いないだろう。
その気になれば、いつでも町から脱出することは出来たはずだ…相沢ほどの腕前があればな。
相沢は銃を整備しながら答えた。
「んー…まぁ、大方その通りだ。俺は諜報員として日本に送り込まれた…ゼロに対する「完璧な抗体」を持つ人間を確保するためにな。まぁ、ここまで言えば依頼主は誰だか分かるだろ?」
…依頼をしたのは、ゼロを研究していた組織…ロストであることは間違いないな。
だが、腑に落ちない点がある……アウトブレイクが起きてから抗体を持つ人間を探すとは、いくらなんでも対応としては遅すぎではないだろうか?
いや…マリアは「人間」を使った研究は、犯罪者や捕虜を使っていると言っていた。
いくらロストでも、全ての捕虜や犯罪者を「使う」ことは出来ないだろう。
限られた「人材」では満足な研究成果は上げられなかったとみえる。
そういう意味ではアウトブレイクは絶好の機会だ…「実験体」は何の制約も無しに確保出来るからな。
「ま…俺は土地勘や日本語も話せるし、日本に送り込まれたのは、当然っちゃあ当然だわな」
と言うことは、カラーズには相沢しか日本人はいないのか?
そもそも、カラーズとは何だ?…ライオットカンパニーの特殊部隊である事は、マリアから聞いてはいたが。
「他の色付き(カラーズ)の隊員も、それぞれ別の国にアンタと同じ目的で送り込まれているのか?」
「ま……そういうことだ。各々で頑張っているんじゃないの。ホレ、整備が終わったぜ」
再び組み立てられた銃を俺に渡してきた。
「なんだったら、色付き(カラーズ)の事を、もっと教えてやるが……興味あるかい?」
「あぁ…ぜひ聞かせてもらいたいな」
相沢は飲み終わったコーヒー缶を灰皿がわりにして、煙草の火を消した。
「カラーズはライオットカンパニーの兵士の中でも精鋭中の精鋭が集められた部隊だ。 カラーズになった兵士には特別なコードネームが与えられる。ま……名前の通りに「色」なんだけどな」
色……相沢は「赤い狼」、マリアは「紫色の蛇」だったか。
「相馬…色の三原色って知ってるか?」
「たしか…赤、青、緑だったな」
「そうだ…その3つの色を基本にして他の色が出来上がる。俺は三原色の1つの「赤」ってわけだ。他に「青い鮫」、「緑色の猫、そして……色付き(カラーズ)の隊長である、黒豹のライアン・マゴットがいる」
黒豹……ライアン・マゴット。
どこかで聞いた事がある名前だ…
「俺達のように戦場で飯を食ってる連中の中で、ライアン・マゴットを知らない人間はいないぜ。世界最高の兵士にして「生きる伝説」ってやつだ。カラーズの創設者、及び会社の軍事部門最高責任者…というわけさ」
思い出した……たしかFPSゲームで実際の兵士を元にした物語の作品があった。
日本では人気なかったが、欧州や米国で大人気だったゲームだ。
たしか……Callとか言うゲームだった気がするが、そのゲームの元ネタになったのがライアン・マゴットだったはず。
「ま…俺の恩師であり、親父とも呼べる存在だ。カラーズの全隊員からも父親と呼ばれている。まぁ…カラーズの産みの親だからな。そんでライアン隊長の娘が、俺の愛しのマリー・マゴットなのよ」
マリー…相沢が言っていた「白い狐」か
「世界最高の狙撃手にして、超がつくほどの美人だ。作戦にもよるんだが、狙撃を行うさいには観測手と狙撃手のツーマンでやるんだ。だが、マリーは単独狙撃で完璧に決めちまう……シビれるだろ?」
女の狙撃手……か。
「模擬戦とはいえ、隊長を負かしたのは、今のところマリーだけだ。ま……必殺の「天使の目」には敵無しってね」
「…なんだ、その必殺ってやつは」
相沢はニヤニヤしながら話しを続ける。
俺が質問した事を嬉しがっているようだ。
「実はな…カラーズの隊員には、それぞれ、自分の得意分野における必殺技があるんだよ。まぁ…それがカラーズになる最低条件と言ってもいい」
必殺技…? …まるでゲームのようだな。
「…という事は」
「特別サービスだ。今から見せてやるよ…ちょっとだけ目を閉じてろ、相馬♪」
俺は言われた通りに目を閉じた。
相沢は、一体何をするつもりなんだ?
…………!?
目を閉じて2秒程だろうか…背後から肩を叩かれた。
目を開けた俺の前に、座っていた相沢の姿は無い。
相沢は、いつの間にか俺の背後に回りこみ、肩を叩いたようだ。
俺達が座っていたのはフローリングの床…背後に回りこむにしても足音は聞こえるはず。
いや、そもそも立ち上がるだけでも、服が擦れる音や気配は感じるはずだ。
「どうだ……こいつが俺の必殺技「狩りの領域だ」。ビビったろ?相馬」
音や気配を殺して相手に近づく技か…
なるほど…使いようによっては恐ろしい技だ。
特に閉所での戦闘では、相手に気付かれずに殺ることも可能だろう。
「地味な特技だと思うけどよ。コレは中々に役立つのよ…特に室内での戦闘だとな。あ……ちなみに俺の得意技は軍隊格闘技だ。お察しの通り、脳筋馬鹿ってやつかな。ははは」
この特技を使って標的に近づき、音を立てずに一撃で仕留める…つまりは「暗殺」というわけか。
まさに獲物を仕留める「狼」だ。
「俺の自己紹介は、こんな感じだ。次はお前さんの番だぜ…相馬。そろそろ聞かせてもらえないか?探し物に、こだわる理由をよ」
「…あぁ。そういえば言ってはいなかったな」
…俺の目的は2つある。
一つは桜を見つける事……そして……
もう1つは弟である……正平を見つける事だ。
俺は相沢に話し始めた…
俺自身の罪を




