救援物資
化物と遭遇した家を出た俺は、そこから少し離れた場所にあった一軒家を「セーフハウス」とした。
化物に切り裂かれた傷口を治療するためだ。
…傷が無くなっている。
傷を確認した俺は驚いた…たしかに痛みは感じてはいなかったが、肩には傷痕が残っているものの、すでに治っていた。
「…ゼロが治したのか」
寄生したゼロが宿主である俺を治療したらしい。
これは…俺を生かそうとしているとみていいのだろうか?
あの化物の死体を見るかぎり、ゼロが俺の意識を奪い…おそらくは「サイコヘッド」にしたのだろう。
だが、一度ゼロに脳を支配されたにも関わらず、俺は自分の意識を取り戻した。
マリアが言っていた「サイコヘッドになる人間にしては兆候が少し違う事」と何か関係があるのだろうか…
お気に入りの煙草を吸いながら、先ほど起きた事を考えこんでいた。
「…この音は?」
外から騒がしいローター音が聞こえてきた。
急いで家の2階の窓から外の様子を伺う……ここから、そう遠くない場所にヘリがホバリングしているのが見えた。
…そのヘリはロープで大きな箱を吊るしていた。
ホバリングしながら地面に近づいたヘリは、ロープごと地面に箱を落とした。
「…自衛隊のヘリか?…いや、まさかな」
…この地域は政府によって隔離されているはず
今更、生存者のために救援物資など送るはずがない。
家の周りには、今のところ感染者が少ない。
すぐさま俺は装備を整え、落ちた物を確認するために家を出た。
感染者達に見つからないように慎重に行動し、俺はヘリが箱を落とした小さな公園へとたどり着いた。
幸いにも感染者は公園にはいなかった…俺は箱に近づき調べてみることにした。
犬小屋から一匹狼へ
定時報告は今まで通りに行なわれたし
次の物資はYー98 Xー45 Zー16に投下する
引き続き「適合者」への接触を試みよ
箱の上に貼り付けてあった紙には日本語で、そう書かれていた。
「このマークは…どこかで見た覚えがあるな」
箱の上部には、鷲のシルエットに2丁のライフル銃を中央で交差させたマークがあった。
自衛隊でもなく米軍でもない…あんなヘリを飛ばせられるものと言ったら?
さらに詳しく箱を調べようとした俺の背後から足音がした。
咄嗟に武器を構え、背後を警戒した俺は見知った顔を見た。
「ようっ!元気してたかぁ~?」
にこやかに敬礼しながら近づいてきた男は…「赤い狼」の相沢直樹だった。
「なるほど…このマークはライオットカンパニーのものか。そして、この箱はアンタへの支援物資というわけか」
「ま…そんなトコだ。色々とマリアから聞かされたようだなぁ~。どうだい?お前さんにも「分け前」をやるから箱の中身を運び出すのを手伝ってくれねぇか?」
コイツとは知らない仲ではないし、物資を分けてもらえるなら断る理由がない…俺は二つ返事で答えた。
「そうこなくちゃな!…さぁて、チョッチ待ってくれよ」
相沢は携帯電話のような機器を取りだし、箱に向けて操作する。
ガチリと音がすると、箱は自動的に開いた。
「セキュリティロック…か。よっぽど見られたくない代物が入ってそうだな」
「まぁな…無理に開けようとすると内部に仕掛けてある爆弾が作動して「おじゃんピー」になっちまう親切仕様なんだぜ?ハハハ」
笑い事じゃ済まないような仕掛けだと思うが…そうしなければならない程、この物資は重要な物が入っていると見たほうがいいだろう。
鼻歌を歌いながら物資を袋に詰め込んでいる相沢を尻目に、俺も物資の中身を袋に移し変えていた。
「……!? これは…回転式拳銃」
箱の中には水や食料の他に拳銃と銃弾も入っていた。
中でも俺の目を引いたのが、リボルバータイプの拳銃……昔見たアクション映画の主人公が使っていそうな大柄の拳銃だ。
「おっ!…ちゃんと要請通りに入れてくれたなぁ。さっすが、俺のマリーちゃん。仕事が出来る女は違うねぇ~」
相沢はリボルバーが入っていた事を喜んでいた。
「…なんだ。そのマリーちゃん…てのは」
「あら?マリアから色付き(カラーズ)の説明は受けてなかったのか。白い狐のマリーちゃんだよ」
「…聞いてはいないな」
「ま…後で説明してやるよ。…さてと、とりあえずは作業終了だな。あとは今夜の寝床だが…どうすっかなぁ」
すぐそこに俺が作ったセーフハウスがあると、俺は相沢に伝えた。
「いいねぇ!今夜は、そこでパーチーでも開くとしようぜ。そんじゃあ行くか…めんどくさい奴等が集まってくる前にな」
相沢と俺は袋を背負いセーフハウスへと向かった。
…そして俺は相沢の真の目的を知る事となる。




