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リッパー【上】

人間とは「表の顔」と「裏の顔」を使い分けるものだ。


人前では善人のように振る舞っていても、腹の奥底では「負の感情」を必ず隠し持っている。


そういった感情が無い、本当の善人がいないとは言わないが、大抵の人間は「それ」に当てはまるだろう。



勿論、それは俺も例外ではない。



責任のある仕事に就いた人間であればあるほど、そうした二面性が強く浮き出てしまうらしい…



この狂気の世界では…



公民館から去って3日目の朝、俺は食料を求めて民家への侵入を数多く繰り返していた。


アウトブレイクが起こってから1ヶ月以上経過した今、1つの民家から得られる食料は僅かになってしまっていた。


生鮮食料は冷蔵庫に電力がきていない為、全て腐ってしまっている…肝心の保存食は、大概盗られた後だ。



何より危機を感じているのが……水だ。



ライフラインが無くなってしまった関係で、民家の蛇口をひねっても水は出てこない。


ペットボトルがあるコンビニやスーパーには感染者が多く、とてもじゃないが侵入を試みる事は出来ない。


サバイバルグッズである汚水などを「ろ過」する装置は手に入れたが、感染者達が水辺にいるために迂闊に近づく事が出来ない。


それに装置の信頼性も怪しいものだ…「ろ過」した水を飲んで腹痛になってしまったら、感染者の排除どころではない。


空腹は多少我慢は出来るが「渇き」は耐え難いものがある。


今まで蛇口をひねるだけで、綺麗な水が出てくる環境が、どんなに恵まれていたのか俺は身に染みて分かった。


民家に侵入する回数が増えたのも、食料よりも水を手に入れるためだった。



そして、俺は目についた民家へと侵入する。



普段通りなら、家の中に感染者がいない事を十分に確認してから室内に入る手筈だったが、焦っていた俺は確認を怠って侵入してしまった。



窓から降りた俺の足がイヤな手応えを感じた。



…俺の足が踏みつけた物は人間の手だった。


感染者がいるのか……?


俺は咄嗟にナイフと銃を構えた。


ようやく暗闇に目が慣れた俺が見たものは、辺りに無数に散らばった人間の足や手だった。


「チッ!…どうやらマズイ場所に来たようだな」


俺の独り言に反応するように足音が近づいてくる。



「おや……?患者さんが来たのかな。ようこそ…私の診療所へ」



部屋の奥から現れたのは、薄汚れた白衣を着たヤサ男だった。



手には血だらけのメスのようなものを持った男は、両手を広げながら、こちらに向かってくる。



「ここが…診療所?…悪い冗談だろ」



俺の返答に男はニタニタと笑っている。



「 フフ…ここは私の研究室及び診療所さ。今流行している病気を治すためのね」


医者のような服装をした男は自信満々に言いはなった。


「この病気は実に興味深い…今のところ治す手段が見つからない…だがっ!!!」


男は机の上に横たわっている死体にメスを突き刺し、恍惚の表情で肉を引き裂いていた。


「私は治してみせるぞ……そうっ!!そして学会に報告するのだ。医師会の馬鹿者どもめっ!いつもいつも私をコケにしやがってっ!今にみていろっ!」


男は夢中になって死体の腹部をメスで引き裂いてい

る。


まるで中世にいた切り裂き魔…ジャック・ザ・リッパーだ。

この異常な精神……マリアの言っていた「サイコヘッド」じゃないのか?


俺は男から離れるように後退する。

あの化物(コレクター)と同じなら、相沢もいない俺に勝ち目はない。



夢中で肉を裂いている男に気付かれないように、足音を立てずに窓へと後退していたが、部屋に散らばっていた死体の頭に足が当たってしまった。


男は「治療行為」を止め、俺に振り返る。


眼鏡をかけた瞳は真っ赤に充血していた。



間違いない…こいつは化物(サイコヘッド)だ。



「どこに行くのかね?…君も具合が悪そうだ。心配しなくていい…私が診てあげよう。あぁ…申し訳ないが麻酔が切れてしまっていてね。少し痛いが…なに…すぐに処置してあげるよ」



男はメスを逆手に持ち、ゆっくりと近づいてくる。



殺るしかない…俺は単独で化物(サイコヘッド)と戦う事となった。












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