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サイコヘッド


「…絶望的な現状は分かった…ところで、俺の「連れ」は無事なんだろうな?」


桜は一体どうなったのか?

…俺のような扱い方をされてはいないだろうが。


「あぁ…あの子?安心して…彼女は無事だわ。けど、会いに行くことは出来ないわよ。その理由は貴方自身がよく分かってると思うけどね」


…血液を採られたからな。

俺が「感染」していると、知られたようだ。


「元々、長居するつもりはなかった…俺は施設から出ていく。桜さえ無事なら俺はそれでいい…これで問題はないはずだが?」


この施設にいるなら桜は無事に回復するだろう…

どのみち、桜は俺とは一緒にいられない。

俺は「感染」している…いつ発症するか分からないからな。


「そういうことじゃないわ…私は貴方を「観察」したいのよ。その為に「この部屋」を用意したのだからね」


観察…?何故だ…?

俺を隔離するためじゃなかったのか?


マリアは続けて話してくる。


「ゼロに感染したものはアクトワンとなり、死ぬまで非感染者を襲うための化物になることは貴方も知っているでしょう?…でも、ごく僅かな人間だけはゼロに対して「同調」する人間がいるのよ」


「…同調?ゼロと共生するとでもいうのか?」


相沢が言っていた仮説のように「ゼロ」を体内に取り込むことを言っているのか。

あの化物(コレクター)のように…


「そうよ…私達(ロスト)は、それを「サイコヘッド」と呼んでいるわ。発症したものは、自分の心の奥底にある「欲望」に異常なまで固執するようになるの」


「…サイコヘッド」


欲望…あの化物(コレクター)は「自分の美」に対して、固執していたような感じだった。

奴はマリアの言う「サイコヘッド」だったのか。


「そしてサイコヘッドになったものは、ゼロの作用により脳のリミッターが外れるの。簡単に言うと…「痛み」を除く、感覚や筋力が何倍にもなるわ。人が脳を100%使っていない事は貴方も知っているでしょ?」


「あぁ…テレビでやっていたな。人間は無意識に脳を制御していると」


「先天的に痛みを感じない病気を持つ人間は、何かを行動するたびに自分の体を破壊してしまう…痛みとは、自分の肉体が傷ついてしまうまえに脳が出すサインのようなもの。サイコヘッドになった人間は、脳が出すサインをゼロが消してしまうのよ」


…常に火事場の馬鹿力を出している状態か。

それによって自分の肉体が破壊されつつも。


「貴方は嗅覚や聴力が、今の何倍にもなって普通に生活が出来ると思う?まず、無理だわ…痛みを感じないサイコヘッドなら別でしょうけど」


「その「欲望」に固執すると言うのは、具体的にどういった行動をするんだ?」


マリアは俺を観察しながら話しをしてくる。


「…ロンドン支部での「死刑囚」を使った人体実験では、被験者は「光る物」に異常に固執していたわ。彼は実験室のタイルを、自分の手が砕け折れるまで、むしっていたそうよ。そして最後は、自分の歯を使ってタイルを剥がそうとして、床に頭を叩きつけて死んだと聞いたわ」


「…人体実験?…死刑囚?サイコヘッドの行動は分かったが、ロストという組織はそんな事もやっていたのか?」


「倫理的に問題があると言いたげね。ロストは「ゼロ」を人体に有効に活用するために作られた組織よ。人間を「使う」のは当然だわ…ライオットカンパニーから「提供」もあったしね。捕虜を使った実験も行われていたわ」


ロストとライオットカンパニーは繋がりがあると言うことか…マリアがロストに出向したのも「そういう」訳のようだな。

とすれば…支部がある日本でも人体実験は行われていたようだな。


「…感染してから、どれくらいでサイコヘッドになるんだ?」


「そうね…早くて二週間。最長で一ヶ月ってとこかしらね」


二週間…俺は感染して一週間が経過している。

サイコヘッドになるのは早くて数日…


「サイコヘッドなる前には兆候があるの…それは鬱のように感情の起伏が激しくなるわ。貴方は、そういった事はないかしら?」


「いや…ない」


「貴方を観察したいと思ったのは「そこ」なのよ。今までの実験結果に無いものだわ。今のところ「ゼロ」とうまく適合しているからね」


宇宙から来た、得体の知れない物と仲良くしても嬉しくも何ともないがな…

分かったのは俺には時間が残されていない事だけだ。


「俺がサイコヘッドになるまで、この部屋に閉じ込めておくつもりか?」


マリアは笑顔になると、扉の外にいた兵士に声をかけた。

暫くすると、兵士が俺の目の前にボストンバッグを無造作に放り投げた。


「そこに貴方の装備品が全て入っているわ。施設から出してあげる…知りたい事は全部分かったしね。そうそう、あの子の事は心配しなくてもいいわ。私が責任を持って治療してあげる」


マリアを尻目に、俺は装備品を確認する。

確かに全部あるようだ…相沢の銃もある。


「この場で俺に銃を渡してもいいのか?」


マリアは笑顔のまま話してきた。


「 フフ…だからいったでしょ?その時は、私がパープルである事を分かってもらうだけってね」



俺は「蛇に睨まれた蛙」の気持ちが分かった。



「…逃がしてくれるのに、わざわざ騒ぎを起こす必要もない…桜の事を頼んだ」


マリアと兵士が見送る中、俺は公民館を出た。


相沢の銃と軍用ナイフを握りしめながら、俺は当てもなく歩き出す。



「ゼロ」が俺を支配する前に…どうしても終わらせなければならない事がある。



そう…俺が死ぬのは「その後」でいい。






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