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真実【下】

ゼロ……これは一体何を指す言葉なのか?


マリアは眉間にシワをよせて考えていた俺に続けて話してきた。


「…今から8年程前に、大量の流星群が地球に接近したのを覚えているかしら?」


8年前…俺が中学生くらいの時か、たしかにそんなニュースが流れていたな。

夜に近所の公園で、お袋や正平と共に流星群を見に行った覚えがある。


「…えらくニュースに取り上げられたのを覚えている。中には地球に流星群が、ぶつかって地球そのものが無くなってしまうなんて騒いでいた学者もいたな…翌年には病気で死んだらしいが」


ワイドショーでしきりに熱弁していた学者だ。

周りから狂人扱いされて「良い笑い者」にされていた奴がいたのを覚えている。

学校では、その学者のモノマネが流行していたからな。


「それって…草薙博士の事?あぁ…日本では「そういう」扱い方をされていたわね。残念だけど彼が言っていた事は本当のことよ。流星群…メギドは、たしかに地球にぶつかるハズだったわ」


何だと…?あの流星群はぶつかるハズだった…?


「当時、米国を主導に各国が総力をあげて、メギドに対する案を出したわ。そして作戦名(オペレーション)アルテミスが立案されたの。何機ものスペースシャトルに「核」を搭載し、少しでも被害を食い止めようとね」


核を搭載したスペースシャトルを弾道にみたて、流星群を迎え撃とうとしたのか。

そんな大規模なものなら、マスコミが黙っているハズがない。

少しは報道されていても可笑しくはないはずだが


「草薙博士は宇宙物理学の権威だったの。彼はプロジェクトの一員だったわ。けど…アルテミスは突如、中止されたの」


「…一体何故だ?」


「流星群が地球にぶつかるコースを外れたの…まるで流星群が意思を持ったようにね。博士はそれでも地球に危機が訪れると必死に訴えていたわ。結果…各国が出したカバーストーリーに不具合をきたすとの事で死んでもらったのよ」


博士は病気で死んだのではなく、殺されたのか…

どうやら、ライオットカンパニーが関係していそうな案件だが…


「…それで?流星群と、このアウトブレイクの関係は何だ?」


「貴方も見たでしょうけど、流星群は世界中に爪跡を残していったわ。いわゆる「隕石」と言うやつね。メギドから分離した石が各国に落ちていったの。そして、それを回収した学者達は驚愕したわ」


まさか…その中に「ゼロ」と呼ばれるものが含まれていたのか?

そうなれば…このアウトブレイクは異星からの病原菌が原因?


「それは隕石ではなく…生命体だった。つまり石の形をした生命だったのよ。鉱石生命体と言うべきなのかしら…我々のように脳があるわけではなく、喋る事もできないけどね」


「…喋る事が出来ない「石ころ」を、よく生命体と呼べたもんだな?第一、何故生きていると分かったんだ?」


「ゼロは話しかけたり、人が近づいた時に「反応」するからよ。体積が膨張したり色が変わったりする事で答えてくれたわ。そして、あの事件が起きたの」


マリアは一呼吸おくと、天井を見上げながら呟くように話しを続けた。


「ロシアの研究者が誤って、傷口からゼロの侵入を許してしまった…彼は嘔吐を繰り返し、アクトワン…つまりは「ゾンビ」と呼ばれるものに変化してしまったのよ」


アクトワン…人間が「ゾンビ」と呼ばれるものに変化した名称というわけか


「何とか研究所内で蔓延は防いだのだけれど、その後の研究でゼロを危険な物と断定せず、人類の希望と見なしたわ。何故だか分かる?」


「…いや。分からないが」


「アクトワンになった人間は、この地球上のどんな悪性の病気にも対抗できる存在になるからよ。恐らくは体内にあるゼロが、侵入してきた悪性の病原菌を死滅させる作用があると報告書には書かれていたわ」


エボラやエイズ…癌などの特効薬になる存在だと仮定したのか。

どう考えてもデメリットの方が大きすぎるような気がするがな。


「…医療目的というやつか」


「そう…そしてゼロを研究する機関が立ち上げられたわ。それが私が所属していたロストという機関よ。私は日本支部の研究主任…ライオットカンパニーから出向した形になるわけね」


「なるほど…だから相沢は元同僚と言ったのか。それで?結果は今見ての通りってやつか?」


マリアは困った顔をしながら、こちらを見ている。

実際、皮肉の一つも言いたくもなる。

その「人類の希望」とやらのお蔭で、俺達はこんな思いをしているのだからな。


「まぁ…責められてもしょうがないわね。ゼロは人類が制御出来るものではなかったのだから」


「傷口から感染と言ったな?空気感染はしないのか?これだけ爆発的に感染が広がったのは何故だ?」


「ゼロは地球の大気にとても弱いの。外気に触れたら2秒も持たずに死滅するわ…だからこそアクトワンとなったものは、他の人間に襲いかかり傷口から感染させようとする。体内に入ったゼロは血液の中で爆発的に増殖し、やがて脳を支配するのよ」


そうか…奴等が噛みついたり爪で引っ掻いてくる理由はそこなのか。

傷口から感染させる事で仲間を増やそうと…


「この騒ぎが起きる数日前…各国で保管されていたゼロに異変が起きたの。ゼロが膨張し弾け飛んだのよ…そして近くにいた研究者は次々とアクトワンになっていったわ…空気感染はしないとタカをくっていた我々の意表をつく形になったの」


「…ゼロは空気感染するようになったのか?」


「いえ…弾け飛んだ研究所内という限られた場所だけだけどね…そして研究所にいた人間は全てアクトワンとなったわ。私はたまたま休暇をとっていたから、その場にはいなかったのだけど」


各国で保管していたゼロが互いに呼吸を合わせるように弾け飛んだのか…まるで時が満ちたように。



「なら…世界は…」



「えぇ…貴方の思っている通りよ。ゼロは世界中に広がり、感染は拡大しているわ」



日本だけではなく…世界中に…



助けはこない…この世界はゼロという「死が迫り来る世界」となったのを俺は感じた。







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