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アウトブレイク

全ては、あの日から始まった…


アウトブレイク…このイカれた世界の始まり。


その日、俺は大学の講義をサボって家で寝ていた。



ー2020年5月20日ー東京都内ー



「相馬ー!いつまで寝てるの~もうお昼よー!」


お袋の声で、俺はベッドから怠そうに起きた。

昨日は、明け方までFPSのオンラインゲームをしていた。


正直、眠い…シカトして眠りについてもよかったが、腹が減っていたので家飯を食いたかった。


別に金に困っていたわけではない。

大学に入ってからは、バイトして金は家に入れている。炊事洗濯も自分でしている。


大学に入って1人暮しをしてもよかったが、借りる家を見つけるのが面倒だし…


なにより、近所で評判の「お袋の飯」を食えなくなるのが1番の理由だった。


お袋は、お料理教室の講師を主婦と兼任している、少し前に料理雑誌に取り上げられた程の腕前だ。


それからは、新しいレシピを思い付くたびに、俺や弟の「正平」を実験台にする。


こちらとしては食費が浮くので、有難い話ではあるが。


俺は、いつものように怠そうに起きると、テレビの台に置いてあるタバコを手に取り、火をつけた。


目覚めの一服…ライトスモーカーを自負している俺だが、この一服は止められない。

ベッドに腰掛けながらテレビの画面を見ると、昨日やっていたオンラインゲームが、つけっぱなしである事に気付いた。


「…そういや武器のカスタムをしようと思って、昨日は寝ちまったっけか」


テレビには、ゲーム上の俺のキャラが武器を構えていた。


ラストデイ……たいしてゲーマーでない俺がハマってしまったゲーム。


一人称の画面で、敵を倒すFPSと言われているシューティングゲーム。


このジャンルでは某戦争ゲームが主流だったが、この「ラストデイ」が発売されると、あっという間にこのジャンルが人気になった。

敵は人間ではなくウィルスに感染した「ゾンビ」… 世界背景は近代で、自分のキャラを多種多様にカスタム出来るのが魅力的だ。


対戦ではゾンビ側と人間側に別れて戦う事も出来るが…このゲームはキャンペーンと呼ばれるストーリーモードが非常によく出来ている。


オンラインでネット上の見知らぬ人と組んで、進めるモードが楽しいのだ。


…まるで本当に「ゾンビ」がいる世界に飛び込んでしまったと錯覚する程のリアリティー。


それが、俺ですらハマった「ラストデイ」の人気の1つなのだろう。


飯を食ったら続きをやろうと、ゲーム機の電源は消さずに画面を民放に変える。


…相も変わらずにやっている、くだらないワイドショーでも見てやるかと思っていたが…見た番組ではニュースキャスターが、神妙な顔付きでニュースを伝えていた。


「番組を変更しての放送になります。これから、首相官邸に繋ぎます…え?…埼玉で…かんせ」


突然、番組は官邸のライブ中継へと切り替わった。

報道陣がフラッシュをたく中で、名前も知らない大臣らしき人間が話そうとする。


「…どーせ。政治家の汚職暴露だろ?興味ねー…天気予報を見せろ」


見ていた番組のチャンネルを変えたが、皆同じに官邸のライブ中継になっていた。


「…チッ!…なんだよ。めんどくせぇな」


ふかしていたタバコを灰皿に押し付け、テレビの画面をゲーム画面に戻し、俺は台所へと向かった。


台所では、お袋と弟が真剣な眼差しでテレビを見ていた。


「兄ぃ!テレビ見たかよ!大変な事になってるぜ」


弟の正平がテレビの画面を指差しながら俺に話しかけてきた。

正平は今年、高校に入学した。中学では素行が悪く問題児として有名で、今の高校に入れたのが奇跡としか言いようがなかった。

元に平日の昼間というのに、当然のように家にいることが何よりの証拠だ。

その腕っぷしを買われて、絶滅危惧種と言われている「そのスジのチーム」にお誘いをかけられている事もあったらしい。


それでも俺には頭が上がらない…俺も「それなり」の人間だからだ。


その正平が真剣な眼差しでテレビを見つめている。


何かあったのだろう。

俺は冷蔵庫から昨日、買った麦茶を手に取ると台所のテレビに目をやった。


画面には日本地図が写し出され、千葉・埼玉・栃木等のいくつかの県が赤く光っていた。


「…感染情報?一体なんの病気だ?インフルか?」


番組のニュースキャスターは、該当区域の人は外出しないようにと、しきりに呼び掛けている。

幾つかの村や市は隔離されるとも言っている。


「…わかんねぇ。感染するとヤベェらしいぜ…まるで兄ぃがやってる「ラストデイ」みてーだな」


「馬鹿言うな。あれはゲームだ…しかし、さっきから聞いてると、肝心な事は何1つ言ってねーな。ただ、外出しないで下さいって言ってるだけじゃねーか」



ニュースキャスターも混乱しているのか、必死に紙に書かれた事を繰り返し言っているだけだ。

具体的に何をした方がいいのか、対処法も提示しないで同じ事をオウムのように喋っている。


「…なんなのかしら。怖いわねぇ…私達の23区は該当してないようだけど…」


お袋もテーブルに出した自分の創作料理に手をつけずに、テレビに釘付けになっている。


「…飯食ったら俺は部屋に戻るぞ。伝染病なんて、今時はやらねーよ」


日本人はチョットの事で大騒ぎする民族だ。

伝染病なんて風邪の延長みたいなもんだろ…お袋の手料理が冷める方が、俺とっては一大事だった。


素早く料理を食べるとサッサと部屋に戻り、ゲームの画面に目をやる。


そこには仲が良いオンラインフレンドからのメッセージとボイスメッセージが届いていた。


「…アイツも大学の講義をフケたな。まぁ…明け方まで一緒にやってたからな」


パットを手にとりメッセージを回覧してみると…案の定、さっきのテレビでやっていたニュースについて書かれていた。


俺のように冷ややかな態度でニュースに対しての批判が書かれており、それを見た俺も無意識に頷いていた。


「…考えている事は同じか。やっぱコイツとは気が合うな。…ん?…その後にボイスメッセージも入れてやがる。よっぽど言いたい事があったんだな」


メッセージから15分後に受信…再生時間は30秒?

随分、短いなと思いながら再生ボタンを押した。



「…た…助けてくれ!…あれは本当だったんだ!嘘じゃない!これは…ラストデイそのものだ!感染者が…俺の家の扉を叩いている!聞こえるだろう!…あっ!?…あっーーーいやだーっ!!やめ…」


耳をつんざくような叫び声の後に、ガラスが割れる音と激しく物が倒れる音がしてメッセージは途切れた…


「…なんだよ…これは」


全身から鳥肌が立つような寒気を感じて、俺はゲームの電源を切った。


そう…この時に俺はとんでもない事態に巻き込まれてしまった事を実感したのだ。
















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