狩る者【下】その2
一階の探索を終えた相沢と俺は、2階へと続く唯一の階段近くの教室の中に入り、さらなる探索の準備を整えていた。
「…本当に生き残った人間がいるのか?」
隊員達の死体が散乱する中で笑顔を絶やさない相沢は、ボソリと言った俺の独り言を聞き、上機嫌に答えた。
「こっからが本番だぜ?相馬。たぶん坂木は2階にいるだろうよ。1階を捜索したのは「残党」に背後から撃たれないようにするためだからなぁ~」
2階…川本が指揮をしていた「校長室」や倉庫を改装した「武器庫」がある。
相沢が懸念していたのは、学校の屋上に固定機銃として設置していた「軽機関銃」が持ち出された場合、2階に上がったとたんに狙い撃ちされてしまう事だった。
「ミリが違うからなぁ~。あんなのに撃たれたら手足の末端くらい、軽くふっ飛んじまうぜ?かといってよ、学校の外壁を登るわけにもいかねぇしな」
調達部隊の人間に待ち伏せされているなら、俺達に勝ち目はない…だが、相沢はそんな状況を楽しむかのように嬉しそうな顔をしていた。
これはゲームとは違う、被弾したら終わりだ。
某戦争FPSゲームのように被弾しても回復等はしない…当たり前だが。
「スタングレネードはもう無いんだろう?手詰まりじゃあないのか?」
相沢は俺の問いに教室の中にあった「あるもの」を指差して答えた。
これは…消火器?
「今、使われている消火器は加圧式だけどな。うまく内部のボンベに当たってくれりゃー消火剤が吹き出してくれるのよ。ま…即席の「スモークグレネード」ってやつだ」
煙幕をはるつもりなのか?
それなら手動で噴霧した方が確実だと思ったが…相沢が言うには、より相手の近くで破裂させた方が効果があるとの事だった。
俺達は消火器を互いに持ち、2階へ上がる階段を音を出さないように伏せながら登った。
相沢は2階へ上がる直前で止まり、伏せながら
ナイフの先に手鏡を引っかけ、2階の様子を伺う。
相沢は笑顔なると手鏡を引っかけたナイフを俺に渡してきた。
俺は相沢の横に仰向けになり伏せながら、手鏡を見てみる。
校内は薄暗くなっていたが、階段を上がった正面に机や椅子などで築き上げたバリケードが設置してあるのが見えた。
そして、バリケードの隙間から伸びている銃身も…
相沢の予想は当たっていた。
警戒もせずに2階に登っていたら、俺達は蜂の巣にされていたことだろう。
手筈通りに俺達は消火器を投げた。
消火器が地面に当たり、甲高い音を立てるのと同時に機関銃が撃ちならされた。
消火器に弾があたり消火剤が辺り一面に飛び散る…射手はパニック状態になったのか機関銃を狂ったように撃ちまくっていた。
俺達は機関銃の弾切れを待ち、階段で伏せながら息を殺していた。
全ては手筈通り…弾切れを起こした時を狙い、飛び出す作戦だ。
暫くすると機関銃の音が止まった…俺は手にもった拳銃をバリケードに向け、数度発砲する。
当たらなくてもいい…弾切れを起こした人間の再装填を邪魔をするだけでいいと相沢は言った。
素人なら弾切れを起こして、なおかつ銃弾が飛んできたら恐怖で、すくみあがってしまうだろう…そこを狙って相沢は制圧すると言った。
相沢は素早く短機関銃を構え、消火剤が舞っている中に突っ込んでいった。
直後、銃声が数度鳴り響く…そして何かが倒れるような音がした。
暫く無音が続いていたが、舞い上がる消火剤から現れたのは、笑顔の相沢だった。
「相馬。いい援護だったぜ?学生させとくには惜しいなぁ~。お前さんも傭兵やってみるか?」
伏せていた俺に相沢は手を差しのべた。
俺は相沢の手を握り返して立ち上がる。
「やめとくよ…もっともアンタとなら生き残れそうな気はするがな」
相沢は俺の返答に対して嬉しそうに軽く肩を叩いてきた。
俺達は装備を整え「校長室」へとたどり着いた。
2階の捜索は、ここで最後…川本と坂木がいると思われる部屋は不気味なほど静かだった。
俺達は校長室の扉の両側に立ち、相沢を先頭に突入する。
そこには椅子に座って、こちらに銃を構える坂木と、床に仰向けに倒れて血を流している川本がいた…




