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ゼロ【下】


 ……何処かで聞いた話だが、自分に似た者が少数だが世界に存在するらしい。


 世界の人口は80億人を超えている……その人間達の中に「思想・容姿・能力」いずれか自分に似ている者がいても、それほど不思議ではない。

 

 とはいえ、完全な複製(クローン)と呼べるほどの存在は「都市伝説(ドッペルゲンガー)」以外では聞いた事がない。

 

 生まれもった遺伝子が、ほぼ同じで容姿が瓜二つとなる場合が多い「一卵性双生児」でさえも、環境によって性格に違いが出る。


 個々(それぞれ)に異なる「個性」を持つ生物……それが人間だ。


 ……(ゼロ)が言うには、「発現者」の能力も同様だと言う。系統的に似た能力はあるが、同一と呼べる能力は存在しないらしい。


 【……これは重大な事だ。貴様は同胞(ゼロ)を【完全消滅】させる能力を発現した。この世界において、貴様以上に同胞(ゼロ)を恐怖させる者は存在しない。そして、(あやつ)の能力……】


 ……弟が発現した能力は、ゼロに感染した人間を血で浄化し、ゾンビ化を阻止する能力。

 今のところ、感染後の初期症状のみ浄化が可能だそうだが……さらに能力を向上させ、弟の血液の研究が進めば【免疫】を作る「抗体」を作る事も可能だ、と(ゼロ)は言った。


 【……「消滅と浄化」と言う「似た能力」を発現したのは、兄弟だからかもしれぬ。だが、その希少な能力ゆえに、お前達は人類にとって重要な存在となった】


 ……今後、人類とゼロの生き残りをかけた生存戦争(たたかい)が始まる。俺達の代役(かわり)が存在しない以上、死亡(ロスト)した場合……人類は絶望的な戦いを()いられる事となる。

 

 【……貴様は幾度も死戦を生き抜き、その度に強くなった。だが、我から言わせれば……まだ甘い。能力の覚醒はしたが、あまりに未熟だ。それは先ほどの戦い……貴様が身をもって理解したと思うがな】 


 ……(ゼロ)の言う通りだ。


 皆の助力があってこそ、高槻に勝利する事が出来た。決闘(サシ)()っていたら(バラ)されていたのは俺だろう。


 【……奴には天性の素質がある。だが、貴様にも天賦の才はあった。差が出たのは「練度」……我を拒み続けた貴様とは違い、奴は同胞(ゼロ)を早くに受け入れ、その能力を高めていたのだ】


 ……練度。未熟な扱い方で高槻の「血濡れの王国」にどうにか対抗出来たのは、対ゼロに特化した能力のおかげか。

 

 「すまない……無様な姿を晒すつもりはなかったが、だいぶ迷惑をかけた」

 

 俺が素直に謝るとは、つゆほども思っていなかったのか、()びの言葉を聞いた(ゼロ)は少々驚いていた。


 【フフッ……貴様が我に謝罪するとはな。ようやく厄介者の【寄生体】ではなく、自我を持つ【生命体】として認識してくれたようだ。これから貴様と生涯を共にする相方(パートナー)なのだ……その気遣い、忘れるでないぞ】


 よほど嬉しかったのか、横顔からでも口元が緩んでいるのが分かった。

 

 「…………あらためて聞きたい事がある。お前が俺に望む「調停者」とは、具体的に何をするんだ?」

 

 (ゼロ)は粛々と語った……今後、この世界には「発現者」となった者が跋扈(ばっこ)する世の中になる。その者達が人間に敵対した場合、ゼロウィルス以上に人類にとって脅威となりうる。

 

 その時、「調停者」が先頭に立って戦う……それが役割だと言った。


 【……とはいえ、脅威となる存在は同胞(ゼロ)だけではない。我らの力を利用した欲深い人間達が現れるやもしれぬ。以前に言ったはずだ……貴様は「バランサー」だと】


 相沢が属している「ライオットカンパニー」のようなものか。何者にも縛られず、ただ人類存在の為に戦うという…………だが、俺1人で出来るものだろうか?


 【案ずるな……闇夜にひとすじの光が差し込めば、おのずと光に惹かれる者が出てくる。貴様が正しき道を歩めば、必ず賛同する者が現れよう。その者達を率いればよい……貴様の師も「それ」を望んでいたはずだ】


 ………………


 高槻が去った後、俺達は直ぐに笹本さんの治療を開始した。

 傷の具合を診た親父いわく、再び息を吹き返したのが奇跡という状態だった。  

 

 「揺るがぬ信念を持って闘い、託せる者へ命のバトンを渡せ」 


 これが笹本さんの遺言……


 この言葉を残し、あの人は安らかに逝ってしまった。


 【……人の身でありながら良い戦士であった。あの者は命尽きる最後まで、貴様達を案じ、次代を託せる者達だと信じていた。その思い……無駄にしてはいかんぞ】


 「…………分かっている」 


 重苦しい沈黙が続いた後、(ゼロ)は急に立ち上がり、俺に向き合った。


 【最後に我から要求がある……聞いてくれるか?】 

 

 ……いったい何だ?と尋ねると、必ず承認してくれなければ「ソレ」は言えないと言う。

 ならば言わなくていい、と適当な態度をとっていたら、この精神世界から一生出さないと()ね始めた。


 ……これは要求ではなく、脅迫ではないだろうか?

 

 「……仕方ない。言ってみろ」


 この言葉を待っていたかのように、(ゼロ)は「要求(ソレ)」を話し始めた。 


 【単刀直入に言おう。要求は名前だ……貴様達が名付けた「ゼロイーター」は気に食わん。我に名前を決めさせて欲しい】 


 ……こちらが勝手に付けた名前だからな。

 変更は構わない、と伝えると(ゼロ)は思いもしない名を口にした。


 ……悪魔(ディアブロ)


 ゼロイーターの消滅能力を見て、高槻はそう呼んだ。悪魔とは、どういう存在なのか本当に分かっているのか?と俺は尋ねた。


 【……貴様の記憶から学んでいる。かつて神に仕えし使徒が堕落し、天界から追放された者を指すそうだな。まさに我に相応しい名だとは思わんか?】


 ……同胞(なかま)であるゼロを天と置き換えれば、能力的な意味合いでは間違ってはいない。

 ゼロのみを消滅させる能力とは、同胞(ゼロ)にとって「裏切りの能力」に他ならないからだ。 


 「……奴が呼んだ名を採用するのは、いささか抵抗があるが……まぁいい、好きにしろ」 


 自分が希望した名前をアッサリと承認された事が余程嬉しかったのか、その場で飛びはねて(ディアブロ)は喜んでいた。

 ……普段の物言いは堅苦しいが、どうやら子供っぽい所もあるようだ。

 喜びも束の間、急に飛びはねる事を止め、(ディアブロ)は空を見上げた。 


 【む……どうやら目的地についたようだ。もう少し貴様との会話に興じたかったが……残念だ】


 ……ミストの研究所に着いたのか。


 【葛城相馬……貴様には我がついている。これから先、どんな困難があろうともソレを忘れるな】


 ……そう言い残し、精神世界と共に(ディアブロ)は消え去った。  


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