決着【下】
……これから行う最終策とは、形状変化させた血武器を右手の掌から高速で射出する事。
一見、単純な策のようだが……成功する確信はある。
だが、問題がないわけではない……察知した手駒が身を挺して射線上に入った際、駒ごと奴を撃ち抜く必要がある。それには「質量」を確保し、貫通力を高めなければならない。
それには大量の血液が必要……問題なのは血液を一気に放出する為、【出血死】を引き起こす可能性があると言う事だ……無論、ゼロが生命維持に尽力するだろうが、この満身創痍の身体では、命の保証はない。
つまり、最終策とは「自己犠牲」……自身の命を捧げるに等しい行為。
……奴のような利己主義の人間には「そんな馬鹿げた真似をするはずがない」と思うだろう。
……だからこそ「やる価値」がある。
そして【より迅く・より鋭く・より硬く】
この条件を満たし、適切な形状に血液を変化させれば……必ず奴を消滅させる事が出来る。
形状は【馬上槍】がいい……あとは発射後の空気抵抗によるブレを「ジャイロ効果」で抑える必要がある為、飛翔体を施条された弾丸のように螺旋状に回転させる。
これで全ての準備は整った……
掌に意識を集中させ、血武器が俺の望んだ形状へと変化する。
……使用出来る血液の量が少なかったのか、想像していたほど「馬上槍」は大きくはならなかったが、その分は「速度」で補えばいい。
馬上槍はゆっくりと……そして、力強く回転し始めた。
「……もう力は残っていないはず。あんな遠くで一体、何を? ……いや、まさかとは思うが」
高槻は俺を注視していたが、回避行動をとらず、様子を窺っているだけだった。
……今から、騎士や女王を俺に向かわせても間に合わない。事前に「十分な距離」で戦うように指示してある。
よしんば、駒を俺の方に動かした時は、即座に王を殺るように打ち合わせ済みだ。
……高槻、お前の敗因は明確。
それは【驕り】だ。
これまでの戦いの中、俺達を確実に殺る機会はあった。
俺ならば「それ」を見逃さない……お前は優越感に浸り、あえて自分の能力を試すような戦いをした……それが敗因だ。
「な……なんだっ!? 葛城君から発せられる、この得も知れない威圧感はっ! ま……まずい。本当に「アレ」をやるつもりか…………っ!? 女王っ!」
回避行動をとろうとした高槻の動きが急に止まった。
右足の大腿部には、俺が投げつけた「バタフライナイフ」が突き刺さっている……刺したのは絶命したはずの「笹本さん」だった。
「……バカタレがっ…………そ……相馬……後は……頼ん……だ……ぞ……」
「……チィっ!!! こ……この老いぼれっ!ま……まだ生きてっ!? しまったっ!回避が間に合わ……」
……因果応報と言うべきだろうか? ナイフが刺さった箇所は、奇しくも高槻が武志に刺した場所だった。
【……奴の動きが止まったっ! 放てっ! 葛城相馬っ!】
ゼロの叫びと同時に、俺は「馬上槍」を撃ち出した。
女王が射線上に割り込んできたが、その胴体を簡単に貫き、高槻の右肘に当たった。
「馬上槍」は、そのまま施設の壁をも突き破り、外へと飛び出していく。
「ば……馬鹿なっ! この僕がっ! こんな人間どもに殺られるハズがっ!? な……なんだっ? 熱い……右腕が溶ける……これが葛城君の悪魔の能力っ!?」
女王の堅牢な皮膚のおかげで、胴体に直撃はしなかったが、右肘でも十分だ。
いずれ全身に侵食し、内側から細胞を全て喰い尽くす……それが【ゼロイーター】。
「……俺の……勝ちだ。消滅しろ……高槻」
かすれた声で勝利宣言をした。