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狩る者【上】

招き入れられた防衛拠点の学校は、それほど敷地は広くなく、申し訳程度に校庭があるだけの小規模の学校だった。


学校を囲む塀の上には、いくつも有刺鉄線が張り巡らされ、校門には感染者が登ってこれない程のバリケードが築かれている。


無駄に広い敷地だと感染者に対しての監視が疎かになる箇所が出てくる。

それを考えれば、小規模な建物であった方が防衛線は張りやすい。


小さな校庭ではあるが、ヘリが着陸するスペースはくらいはある…もはや期待は出来ないが、軍が救助に来た時の為に、この場所を防衛拠点として選んだのだろう。


俺は案内役の男と共に、建物の2階にある「教員室」へと向かった。


「君には私達の部隊の隊長に会ってもらう…くれぐれも失礼のないようにな」


教員室の入口の扉の前に立った案内役の男は、俺に対して注意をした後、急に背筋を伸ばすと、あらんかぎりの大きな声で叫んだ。


「調達班っ!!坂木!入りますっ!」


部屋からは何の返事もなかったが、坂木と名乗った男は扉を開けると、俺を部屋の中に招き入れた。


教員室の中は、棚や机が驚くほど綺麗に整頓されていた。

部屋の中心には、この町の簡単な地図が描かれたホワイトボードが置いてあり、それを背に座った初老の男性が、鋭い眼差しで俺を睨みつけていた。


「ごくろう…さがれ」


初老の男性に促され、坂木は敬礼して部屋を出ていった。

隊長と思われる男性の机には、アメリカ軍の突撃銃(アサルトライフル)であるM16と思われる銃が置いてあった。

「ラストデイ」では俺の愛銃だったから形は覚えている。しかし、あんなものをどこで手に入れたのか…


「話は部下から聞いている…食料と医薬品を分けて欲しいそうだな?」


「ああ…そうだ。ここにはそれなりの備蓄があると聞いた。もっとも、あんた達のやる事に少しばかり協力をする交換条件付きらしいがな」


俺の返答に少しばかり笑うと、この拠点の意味と「交換条件」の説明を話し始めた。


奪還部隊と名乗ってはいるが、隊長と呼ばれているこの初老の男性…川本を含め、20人程度の武装集団だということ。

そして、この拠点は軍の助けを待つものではなく、軍が街に来た際に「前線基地」として運用するものであると説明した。


…この部隊は感染者から街を奪還する為の尖兵である…と。


正直、この人数で街を奪還出来るとは到底思えないが、感染者を排除して生存者を助ける行為は正しい行いではある。

実際に助けだされた生存者は、この部隊の理念に賛同し、兵士になって活動している者もいるとの事だ。


この部隊の兵士として活躍する気が無い事を伝えると、「雇われ兵士」…いわゆる「傭兵」として俺は部隊に一時的に加わる事となった。


「君には優秀な部下とツーマンセルで動いてもらう事とする…相沢!入れっ!」


川本が呼び掛けると、教員室の入口から気の無い返事と共に男が入ってきた。

相沢と呼ばれた男は、川本に向かって敬礼をすると、そそくさと俺の横に並んだ。


「相沢…明日の斥候は葛城君と行ってもらう。サポートを頼むぞ」


「ありゃりゃ…隊長さんよ。まーた、俺が新人担当ですかい?教育係じゃないんだけどなぁ…」


相沢と呼ばれた男は、面倒くさそうに頭を掻きながら、ヤル気のない態度で答えた。

…どうみても優秀な兵士には見えない男だが。


「相沢…部隊には規律と言うものがある。部下がいる前では形だけでも「それらしく」してもらいたいものだな」


「へいへい…わーりやしたよ。えーっと…葛城君だったっけ?俺は相沢直樹だ。ヨロシクな」


にこやかに俺に向かって敬礼をする相沢に、俺はそっけなく答える。

これから長い付き合いになるわけじゃない…報酬を貰えば俺はここから立ち去るつもりだからだ。


「あららら…ずいぶんと無愛想な奴なんだな。まぁ…若い時には、そういう時期もあるよな」


「相沢!…すまないが葛城君。席を外してくれないかな?明日の予定は坂木から伝えよう。私は相沢と話しがあるのでね」


俺は軽く2人に会釈をし、教員室から出ていった。

部屋の外で待っていた坂木に、食堂へと案内されたが…そこで俺は「懐かしい」ものに出会う事となる。


「…電気がついている?」


外は夕暮れになり、学校内は薄暗くなっていたが、食堂だけは明かりが灯っていた。

アウトブレイク以後に目にした事がない「電気」による光…ここには発電施設があるのか?


「驚いただろう?この学校の地下には自家発電する施設があるんだ。作り上げる電力は大したものではないから限定的にしか使えないけどね」


坂木は自慢気に、そのことを話してきた。

電気があれば冷蔵庫で食料を保存する事や、それなりの調理も出来る。

まして、ここは学校の食堂だ。

業務用の巨大な冷蔵庫や調理器具も、ひと通り揃っている。


俺は久しぶりに「暖かい米」と「味噌汁」を口にした。


十分に食事を堪能した俺に、坂木は「ここで自分達と共に戦わないか?」と提案してきたが、俺は丁重に断りをいれた。


確かにここにいれば、感染者と絶えず戦わなければならないが衣食住には困らないだろう…


それでも俺が留まれない理由は2つある。


1つは俺には外で「やらなければいけない」事があると言うこと。


もう1つは…俺の中にある「感染」だ。


安西が俺と同じく感染に対して「抗体」があったのにもかかわらず、「発病」してしまった。


映画やゲームの中とは違い、この「抗体」は「免疫」ではなく発病を遅らせるだけなのだろう。


いわば俺は「時限爆弾」のようなものだ。


いつ発病して感染者となってしまうかは俺自身にも分からない。


生存者がいる所に長く留まりたくはないのが、俺の正直な気持ちだ。




そう…俺には「安住の地」など無いのだから












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