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死闘


 奴が発現した能力【血濡れの王国】は、ゾンビとなった人間に、チェスの駒の役割に似た力を付与し、自分の手駒として使役する能力。

 ただでさえ、ゼロの作用によって身体能力を向上したゾンビに「さらに脅威的な力」を与える厄介な能力……だが、それだけではない。


 不安がよぎる……まだ、奴の能力には解明していない【謎】があるのでないか、と。


 「ともあれ、これまでの戦いを観させてもらったおかげで、君達の戦力は把握した。適材適所に駒を進めさせてもらうとしよう」

 

 高槻は騎士(ナイト)達に指示を出した。

 

 相沢に1人、そして俺を含む3人の前に1人。

 役割通りに女王(クイーン)は、奴の側から離れなかった。


 「……我々、相手に単独(ひとり)とは。随分と甘くみられたものだ」


 侮辱ともとれる「駒の配置」に、親父は目を細めながらナイフを構える。


 「若様……ここは長引かせると不利になります。小野様と私が(ナイト)の相手をしますので、その隙に「あの者」を始末して下さいませ。それでは…………行きますっ!」


 小声で俺に囁いた後、千月(ちづき)は親父と共に騎士(ナイト)に強襲する。

 同時に相沢も目の前の敵に仕掛けた。


 短期決戦……だが、それしか選択肢がないのも事実。


 息のあったコンビネーションをみせる親父と千月を尻目に、俺は皇帝護衛兵(インペリアルガード)となった女王(クイーン)の相手をする。 

 ライフルの弾丸すら弾く堅牢な皮膚を持っていようが、ゼロイーターが一滴でも体内に侵入すれば勝敗は決まる……俺は「野獣の爪」を模した両手で相対した。


 「フフフ……なるほど。一直線に(キング)()りにきたか。君達に選べる択が少ないとはいえ、無謀きわまりない。何の為に女王(クイーン)をここに配置しているか……その身をもって知るがいい」 


 ……様子見をする必要性はない。


 ゼロによって強化された筋力を使い、相沢に匹敵する速度で、女王(クイーン)の懐に真正面から踏み込んだ。

 

 …………だが、待っていたのは無情な反撃(カウンター)の一撃。

 高速で踏み込んだ分、反撃の衝撃は大きく……再び距離を離されてしまった。

 

 「…………ぐっ!? 今のは蹴りか。しかも、この射程(レンジ)とは」


 女王(クイーン)がとった行動は極めて単純(シンプル)。俺の踏み込みに合わせて、高速の前蹴りで反撃をした。 

 厄介なのは身長が2mを越える人間が放つ蹴りの射程距離。とてもじゃないが、俺の腕の長さでは「距離」で勝ち目がない。 

 

 ……何度も向かっていったが、鉄壁とも言える「蹴り」による防御で跳ね返されてしまった。


 「フフフ……無駄だよ、葛城君。キミの能力は脅威だが、その両手にさえ気を付けていれば「ただの人間」と変わらない。「踏み込み」も前後に高速に動くだけで、【左右】に動く事は出来ないようだしね」


 悔しいが……奴の言う通りだ。俺は相沢のように、巧みなフェイントを混ぜながら前後左右に高速で動く事が出来ない。  

 左右の動きを取り入れると、身体の動きに対して「自分の反応速度」が遅れてしまい、動きがギクシャクしてしまうのだ。 


 ……そして、この女王(クイーン)の闘い方。

 

 反撃を成功させても無理に追撃をしてこない。

 あくまで一定の距離を保持しようとする……この闘い方は。

 

 「フフフ、葛城君、後ろを見てみたまえっ!」


 俺は高槻に言われた通りに後ろに振り返る。


 そこには肩で息をする皆の疲弊した姿があった。


 騎士(ナイト)達も女王(クイーン)同様に無理に追撃はせず、かといって休ませる事なく散発的に攻撃を仕掛けていた。

 …………どうやら、高槻の狙いは俺達の「体力を削る事」のようだ。

 

 ゾンビ達は奴の能力により体力の低下は一切無い。一方、俺達の方は闘いが長引けば長引くほど体力を失う。 


 「ククク、ここからは全力でいかせてもらうと言ったはずだ。万が一が無いよう弱らせてから確実に殺す。この状況を打破出来るのは葛城君……君の頑張りにかかっているよ。フフフ……ハハハハハハ」 


 ……くそっ! 何とかしなければ…………っ!?


 突如、油断した高槻の後ろに回り込んだ何者かが、(たかつき)を羽交い締めした。

 

 「むっ!? な……なんだ貴様はっ!? お……お前はっ!」 


 「つ……捕まえたぞっ! 好き勝手しおってバカタレがっ! 今すぐ手錠(ワッパ)をかけてやる」


 ……あの声。さ、笹本さんかっ!


 「ええぃっ! 放せっ!人間(クズ)の分際で王に触れるなっ! この無礼者がァっ!」 


 高槻は羽交い締めを無理矢理振りほどき、手刀で笹本さんの胸を貫いた。

  

 「フフフ……老いぼれがっ! さっさと死ねぇっ! ……ムっ! な……なんだ、腕が抜けん。こ……この力はっ!?」


 「は……離すものか。お……俺は警察官だ。捕らえた犯人は……逃がすわけには……いかんのだっ!」 


 口から血を吐き出しながら、笹本さんは自分の胸を刺した高槻の腕を両手で抑え続けていた。

 その状況を見た、弟の正平が叫び声をあげて向かっていく。


 「……オッチャーーンっ!? テメェーっ! 許さねぇーーっ!!!」


 だが、弟の前に女王(クイーン)が立ち塞がり、完膚なきまでに叩きのめした。

 どうにか近寄ろうとするが、俺も弟と同様に地面に伏される事となる。


 「……チィっ! このくたばりぞこないがっ! 女王(クイーン)よっ! こいつを()れっ!」 


 女王(クイーン)は笹本さんの後ろに回り込み、手刀で背中を切り裂いた。

 真っ赤な血飛沫が舞うと、笹本さんは力なく地面へと倒れ込んだ。


 「うぅ…………オッチャン。……チクショウ」


 倒れながら涙を流す弟を見て、自分の無力感に【激しい怒り】を覚えた。

 

 このままでは全滅…………


 ここで奴に()られたら、何のために生き残ってきたのか。



 ……そう思った時、途端に目の前が暗くなり、次の瞬間には灰色の湖の水面に立っていた。


 灰色なのは湖だけではない、空も……流れる雲の色も灰色だった。


 灰色の世界……


 そして、見覚えがある若い女が簡素な木の椅子に座り、頬杖をつきながら話しかけてきた。


 

 【……また会ったな。葛城相馬よ】


 

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