人喰い
限界まで追い詰められた人間は、究極とも言える2つの選択を迫られる。
1つは、絶望の中で全てを諦め「死」を望む。
もう1つは自分を追い詰めた状況を「消す」ために戦う事だ。
大抵の人間は前者を選び「死」を受け入れるだろう。人間とは、それほど強くない生き物だ。
そして、満たされた幸福の中で生きていた者ほど前者を選ぶ。
国の中で民族の争いも無く、銃や戦争とは無縁な平和な国で暮らしてきた日本人が、アウトブレイクに巻き込まれたら、一体どうなるのか?
俺は侵入した家で、首が無い遺体を何度も目にしてきた。
首を吊った人間は悲惨な死に方をする。
身体中の「汚物」を垂れ流し、血液が行き渡らない首はドス黒くなり…やがて自身の体重を支えきれなくなり千切れ落ちる。
首が千切れた遺体は、感染者として再び動き出す事は無い。
悲惨な死に方ではあるが、最後まで人間として死にたいと言うのであれば「有効」な方法だろう。
なに不自由なく「当たり前」に平和を貪ってきた国民が安易な死を選択するのは「当然」といえる。
一方で「死」を選ばずに「戦う」ことを選んだ者もいた。
感染者を排除し、街を取り戻そうとする者達…
奪還部隊と自らを名乗る武装市民集団は、街の中心にあった学校の校舎を強固な防衛拠点に作りあげ、感染者の排除を行っていた。
俺は侵入した家で、その武装集団のひとりと出会い、彼らの拠点へと招き入れられた。
人喰い(マンイーター)…
これは人を食べる動物を指す言葉だが、後に彼らに対して感じた言葉だった。




