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僕の愛しいご主人様  作者: ひかり
11/12

9*ハンナとタロー


 そのお屋敷に着いてから2日間、葵は暇をもて余していた。淡いピンクを基調とした、可愛らしいロココ調の広い部屋に異常にふかふかのベット。シャワーはないものの金銀が目に眩しい浴室に、着て良いのか如何にも高そうなドレスのような服。本当に一般人が使っていいのか心配になってくる。


「しっかし…暇だなぁ…」


 昨日はやはり疲れが出たのか1日寝込んでしまってハンナと虎鉄を心配させてしまったが、今日になったらすっかり元気になっていた。それはそれで良かったのだが。


「はぁ…外に出たいな…」


 虎鉄はカインデルに呼び出されここにはおらず、難しそうな本が置いてあるも文字は読めず、外には出るなと固く禁じられてしまい、先程までは屋敷中を探索していたが鍵の掛かった部屋ばかりですぐに飽きてしまって、今に至る。やることもなく、何となくぐるぐると部屋の中を歩き回っていると、扉がコンコンと控え目にノックされ、返事をするとハンナが入ってきた。


「まぁ、アオイ様どうなさいました?」


「あ、えっと…な、なんでもないです…」


 恥ずかしくなって慌ててソファーに腰かけた。するとハンナは葵の目の前に膝をつき、困ったような笑顔を浮かべた。


「何も出来なくて申し訳ありませんわ…本当なら案内でもしてあげたいところなのですが…」


「そ、そんな大丈夫ですよ!」


 葵は反射的にそう返したが、大丈夫とは言ってもこの軟禁状態が続くかと思うと、正直気が滅入ってくる。それにずっとここにいる訳にもいかないし、流石に家族のことが心配になってきた。折角の異世界だし、少しぐらいなら良いかなと浮かれていたが、よくよく考えれば突然行方不明になってしまったのだ。虎鉄1人を残しては帰れない。その気持ちに変わり無いが…。すると、懐かしい香りにつられて葵はゆっくり顔を上げた。


「良ければ召し上がって下さいな」


 目の前のローテーブルにいつの間にか、可愛らしい茶器と美味しそうな焼き菓子が置かれていた。


「桜の…紅茶?」


「えぇ、私の故郷の特産品です」


 手を伸ばしてカップを手に取り、一口含む。淡い桜の香りが鼻腔を満たし、上品な甘みが喉を滑り落ちた。気分がすっと落ち着いてくる。虎鉄もいないのに、そんなこと考えても仕方がないよね。ソファーの横に控えるハンナの顔を見上げると、ふわりと優しい笑顔を見せてくれた。すぐに心配してくれてたんだと葵は気付いた。


「あの…ありがとうございます」


 ちょっと照れながら葵が軽く頭を下げると、ハンナは嬉しそうにふふっと笑い声を溢した。


「本当におじいさまの言う通りでしたわ」


「えっ?」


 するとその時、バタンとノックも無しに突然扉が開いた。


「アオイ!遊びに来たぜっ…うわ!!」


 元気よくタローが飛び込んできたと思ったら、ハンナを見た途端すっとんきょうな声を上げた。


「…タロー?部屋に入るときはノックをしなさいと、耳にタコが出来るほど言っていたでしょう?」


 ハンナはにっこりと綺麗な笑顔をタローに向けると、彼は青ざめた表情でひきつった笑みを浮かべた。


「わ、悪かったって…!そんな恐い顔しなくたって良いじゃねーか!」


 ハンナの顔立ちはどちらかというとカインデルやジャックのような東欧人っぽく、濃いオレンジ色の髪以外あまり似た点は無さそうだが、何より、どう見てもこの二人の関係は…。


「もしかして…兄弟ですか?」


「ええ、こんな愚弟でお恥ずかしい限りですが」 


 片手を頬に当て、彼女は困ったように溜め息を付いた。葵は驚いて二人を見比べる。全然気付かなかった。


「そう言えば、あなた何しにきたの?」


「だから遊びにきたんだって、ほら、これやるよ」


 どさっとテーブルに置かれたのは、可愛い服を着た少女たちが表紙を飾るファッション雑誌のようなものだった。


「わぁ!可愛い!」


 早速一冊手にとってページをめくってみる。言葉は分からないものの、写真だけで内容は十分理解できた。


「これなら文字分かんなくても平気だからな」


「…誰かの入れ知恵でしょう?」


 喜ぶ葵を見て得意気なタローは、ハンナの鋭い一言にうっと表情を変えた。


「いやまぁ…確かにオレが思い付いた訳じゃないけど…」


「でもあなたにしては気が利いたと思うわ。私こんなの思い付かなかったもの」


「姉貴は若いのに枯れてっから」


「…もう一度言ってみなさい?」


「う、うそ嘘!オレ何も言ってねーって!」


 そんな兄弟のやり取りを見詰めていた葵は、ふと兄弟のことを思い出していた。私もよく兄弟喧嘩してたな…主に妹とだけど、そんな妹も、やっぱり私のこと心配してるかな…。


「どうしたんだ?なんか今日元気ねーな?」


 再び俯いてしまった葵に、タローがふと気付いて声をかけた。彼女ははっと顔を上げたが、弱々しく笑ってすぐに目を伏せ、ポツリと溢した。


「何だか、妹と兄のこと思い出しちゃって…早く帰らなくちゃなぁ…」


 すると、タローはえっと驚きの声を上げた。


「ずっといるんじゃないのか?」


「ううん、みんなに何も言わずに来ちゃったもの。きっと心配してると思うし」


 どうしようと小さい溜め息を付いた。


「うーん…先にアオイ1人で帰るのはどうだ?」


「…よく考えればそれが一番かもしれないけどさ、こて…アレスを1人残していくなんて私嫌なの」


「んじゃあ、一回帰ってもっかい戻って…あ、アオイ1人じゃこっちの世界に戻って来れねーな。えーっと…あ!」


 タローが何かひらめいたように、手をポンと叩いた。


「アレス様と一緒に帰って戻ってくれば良いんだよ!な、姉貴もそう思うよな?」


 名を呼ばれ神妙な表情をして何か考え込んでいたハンナは、はっと我に返った。


「どう…かしら?異世界に渡るということ自体あまりにも稀有なことだから…」


 言いかけたところで、ハンナは葵の視線に気付き、少々困ったような曖昧な笑顔を浮かべた。


「しかしアレス様なら、私たちには出来ないことを出来るかもしれませんわ」


「でもさー、姉貴テレポーションならできんだろ?異世界渡りだって同じようなもんじゃねーのか?」


「同じな訳ないじゃない。レベルが違い過ぎるのよ」 


 いつの間にか勝手に菓子を頬張っている適当な弟の発言に、ハンナは呆れ顔を返した。


「そーなのか?オレよくわかんねーよ。な、アオイ」


「う、うん…とにかくアレスと相談してみるよ」


「それが一番だと思いますわ」


 二人の励ましのおかげで、先程よりは元気が出てきた。


「ありがとう、ハンナさん、タロー」


 葵の元気な明るい笑顔に、タローは照れ臭そうな笑顔を浮かべ、ハンナはホッと安心したかのように微笑んだ。








展開が遅くてすみません…。

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