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僕の愛しいご主人様  作者: ひかり
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8*王都ウーラノス


 堅牢な外門をくぐり葵を待ち受けていたのは、整然と立ち並ぶ東欧風のシックな建物と、夕刻だというのに人々が大勢行き交うルーフェン村とはえらい違いの賑かな光景だった。虎鉄たちのような獣耳と尻尾をもつ『獸牙族』が一番多いが、中には背に翼をもつ『鳥翼族』、背丈が2、3メートルほどありそうな『巨獸族』、出っ歯で子ども背丈ぐらいしかない『小獸族』などなど…ポカンと呆気にとられている葵に、タローが得意気そうに教えてくれた。


「他にも滅多に見かけない『竜人族』とか『人魚族』とか…まぁ、本当にたくさんの種族がいるんだ。えっと後は…ああ、『魔族』だな」


 タローが心底嫌そうに顔を曇らせた。そう言えば、あの心臓に矢を射られても倒れすらしなかったスーパー超人が魔族らしいが、今現在その彼らが暮らす魔獸国といつ戦争になってもおかしくないらしい。昨日ジャックがそう溢していた。平成生まれの葵にとってイマイチ現実味が無さすぎるのだが、やはり戦争なんかして欲しくない。そのために虎鉄がこの世界に喚ばれたのだろうか。


「魔族と言っても色んな種族の総称、魔獸国に棲んでる種族をまとめて言うんだ」


「私が最初に会った…オズワルトって人も魔族って言ってた」


「あいつは魔族の中でも特に厄介な蛇眼族つって、数は少ないものの狡猾で争い事を好み、特異な魔術を操る魔族の頂点に君臨する種族なんだ。首をはねるしか弱点もない。魔獸王も蛇眼族って噂もあるぐらいだし…」


「まじゅうおう?」


 似たような名前に思わず葵が虎鉄に振り返ると、ばっちり視線が合ってにこりと微笑まれた。


「僕と対をなす者って言った方が良いのかな。同じく魂を受け継ぐ者同士だからね」


「その人も虎鉄と同じ生まれ変わりで向こうの世界から来たの?」


「そうみたいだね」


 虎鉄は同意を求めるようにカインデルに視線を移すと、彼は黙ったまま頷いた。もう少し色々と聞いてみたかったが、車輪が立てる音が変わったため葵は窓の外を見た。すると、ここは大きな堀に渡った木製の橋の上で、斜めを見ると天を穿つように聳える城が目に入った。首が痛くなるほど高い。


「ああ、やっと帰ってきた」


 風呂に入れると喜ぶタローを尻目に、葵はふと思案した。私も着いてきちゃったけど…本当に良かったのかなぁ。虎鉄は聖獸王の生まれ変わりだったから喚ばれたんだろうけど、私は…。


「ご主人」


 突然虎鉄に呼ばれ、知らぬ間に目を伏せていた葵はハッと視線を上げた。


「心配しないで、貴女は僕が護るから」


 頬を彼の大きな両手で優しく包まれ、綺麗なダークブルーの瞳に一瞬見惚れていたら、額にキスをされた。途端に葵は真っ赤になって、危うく座席から落ちそうになった。


「だから何でいちいちキスすんの?!」


「大切な人にはキスをするって、テレビでやってたから」


「いったい何見てたの?!そんなこと初耳だから!」


 ドラマでも見てたのだろうか。それより向かいの席に座る二人の、主にタローの視線が痛くて葵は穴掘って埋まりたい気分だった。あれまたデジャウ?



 それからジャックとタローと別れ、カインデルに連れられてひっそりと静まり返った裏口から城内に入った。そして赤い絨毯が敷かれただだっぴろい廊下を歩き、これまた広い噴水付きの中庭を突っ切ると、林の中の建物に到着した。薄暗くて少々分かりづらいが、二階建ての金と白亜の大理石で造られたゴージャスなお屋敷なのだ。城の敷地内にこんなものがあるなんて…葵が間抜け面を晒していると、質素なメイド服を着た一人の妙齢の女性が出迎えてくれた。タローに良く似た濃いオレンジ色の長い髪と獣耳をもつ彼女は、三人に軽く会釈をし、そして葵を見るや否や顔をぱあっと輝かせた。


「長旅ご苦労様です。馬車とはいえ女性の身でベル平原からなんてさぞ大変でしたでしょう?」


 その予想外の暖かい歓迎に葵は面食らった。てっきり人間=珍獣の上に嫌われていると思っていたからだ。フードを目深に被っているため、人間だとバレていないからだろうか。


「心配しないで下さい。彼女にはあなたのことを伝えてありますので」


 話しかけられどうしようとオドオドしていた葵に、見かねたカインデルが助け船を出してくれた。そうなんだ、良かったと安堵した。


「ええ、お二人のお世話をさせて頂きますハンナと申します」


 スカートの両端をつまみ上げ、軽くハンナは礼をした。葵もつられてペコッと頭を下げる。


「さぁ、お疲れでしょうからお部屋でお休みになってください。お風呂も沸かしてありますから」


 えっと…私だけ?葵はちらっと虎鉄に視線を向けると、彼は安心させるように頷いた。


「勿論僕も一緒に行くよ」


 ほっと葵は胸を撫で下ろした。親切で優しそうな女性が一緒でも、こんなよく分からない場所で一人にされるのは正直嫌だった。


「しばらくここで疲れを癒して下さい。後生ですから外には出ないで下さいね?」


「分かってるよ。僕の存在はまだ機密事項なんだろ?」


「ええ、その通りです。二人とも何かあれば彼女に申し付けて下さい」


 では、失礼しますとカインデルは足早に去っていった。なんだか忙しそうだなと、葵は後ろ姿を見つめていたら、にこやかなハンナに促され虎鉄と共にお屋敷に足を踏み入れた。



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