0*僕の愛しいご主人様
4/10追加しました。プロローグのようなものです。
ー…あなたの全てを犠牲にしてでも、叶えたい願いってある?
いつ見たのか覚えていない、たまたま目にしたありふれた陳腐なドラマの一片。テレビの中の真っ赤な唇の女が、男を抱き寄せそう問うていた。
何をしてでも叶えたい願い。いや、そんな可愛らしい言葉じゃ物足りない。欲望、妄執、獣性…そんな言葉がお似合いの僕のたったひとつの願い。普通では絶対に無理だったけれど、僕は少々特別だったから、簡単にそれを叶えることが本当は出来たんだ。
でも、すぐには選ばなかった。何故なら僕ではなく、彼女がとても大きな犠牲を払うことになると知っていたから。だから悩んでいた。二年間、彼女に出逢ってからずっと。
だけど、日が増す事に彼女のことが好きになっていって、彼女とずっと一緒にいたくて、誰にも渡したくなくて、そして、
「…決めた。やっぱり君たちの世界へ行くことにしたよ」
「…そうですか…そのご決断、本当に良かったと安堵してます。ただ…まさか無条件で、という訳がありませんよね?」
「ははっ、君は勘が良いなぁ」
「…本当に胃が痛くなります。その条件というのがあの彼女のことなのも丸分かりですから」
「そこまで分かってるなら話が早いや。次の満月の時までに色々と準備しといてね。僕と、僕の愛しいご主人さまのために」
「考え直して頂きたいところですが、俺の立場では『はい』としか言えないのが本当に残念でなりません」
「流石王国騎士団の隊長さん。何をしてでも連れてこいって言われてるだろうから、しょうがないよ。じゃあ、多分ベル平原にいると思うから、よろしくね」
そうして面白味の一欠片もない始終仏頂面の彼との短い夢から醒め、僕は朝が苦手な彼女を起こすために、その愛らしい頬を舐めた。