第三遭遇
チャイムが授業終了の知らせをする。時刻は昼の二時。
怜奈はすぐさま雄夜の方に目を輝かせながら見たが、雄夜はいなかった。
怜奈は周りを見てみるが雄夜の影はなかった。
「………え?」
怜奈は口をあんぐり開けて、雄夜のいない机を見ていた。
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「騙した方が悪い」
そう言って雄夜は電車のつり革に掴んで、揺られながら自宅へと向かっていた。
雄夜は電車を出ると、突然携帯が鳴りだした。雄夜は少し驚いた後電話にでた。
「もしもし」
『もしもし~。雄ちゃん』
雄夜は嫌な顔をしながら電話に対応をした。
「なんだよ、母さん」
『久しぶりの雄ちゃんの声だ~。録音しちゃいたいな~」
雄夜の母、緑神 洋子 は四十歳なのに二十代に見えてもおかしくないほど綺麗な顔立ちとプロポーションであり、パートの他に新聞の会社に送る写真を撮っている。
「用件は?」
『雄ちゃんに会いに行っていい?』
「仕事はいいのかよ」
『もちろん!雄ちゃんのためならいくらでも頑張れるもん!』
「いい加減その口調と雄ちゃんって言うの止めてくれ」
『いやだ~、雄ちゃんは可愛いんだもん』
「はぁ~、好きにしろ」
『分かった!それじゃあね雄ちゃん』
「じゃ」
雄夜は電話を耳から遠ざけて切った瞬間、後ろから二つの柔らかい山が雄夜の頭にのっかった。
「早すぎるって」
「だって~、待てないんだもん」
雄夜がその人から遠ざかる。雄夜の後ろにいたのは雄夜の母である洋子だった。
ロングの黒い髪を後ろに束ねており、眼鏡をかけていて大人の魅力が溢れていた。
雄夜は見た目と性格を統一してほしいと願っているのだが、洋子と会えるのは少ないので忘れていることが多い。
「なんで、こんな時間に帰ってこれたんだよ」
「それはね、ミステリーサークルについて調べるため、というより写真を撮って新聞社に売るつもりなの」
「またかよ…」
雄夜はため息をした後、久しぶりに会った洋子とのお話を楽しみながら自宅へと向かった。
十五分後、雄夜達は自宅についた。玄関に入り、リビングへと向かった後二人はカバンをソファーに置いた。
「今日は俺が昼飯を作るから休んでな」
雄夜が言うと、またもや洋子が抱きついた。
「やっぱり、雄ちゃんは可愛くて優しい~」
「なんで、可愛いが入るんだよ」
「もう~、雄ちゃんったら照れちゃって」
「照れてねぇ」
雄夜は洋子を押し退け、台所へと向かった。
リビングにこおばしい匂いが充満してきたとき、洋子がソファーにくつろぎながら言った。
「今日の夜九時にでもいくからね」
「なんで、そんな遅くなんだよ」
「だって大勢の見物人がいるなかで良い写真なんて撮れないもん」
「そう……だな」
雄夜は今日の昼休みに怜奈と打ち合わせをした。と、いっても雄夜は怜奈の考えてたスケジュールを無理矢理に聞かされただけだ。そのなかに洋子と同じことをいっていたのだ。「大勢の見物人がいたら、ゆっくり調べられないから」と。
「雄ちゃん、どうかしたの?」
洋子は手が止まっている雄夜に言った。
「お、おお。なんでもない」
「それなら良かった」
雄夜は少しだけ怜奈の事が心配になってきた。しかし、雄夜は怜奈の事を考えないようにした。
雄夜が作った昼飯の野菜炒飯を洋子は美味しそうにほおばるのだった。
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「そろそろ行くね」
洋子は肩に一眼レフのカメラをかけて、身動きがとりやすい服を着ていた。
時刻は八時三十五分。
「いってらっしゃい」
「うん、いってくる。帰るのは十時ぐらいになるから」
「分かった」
洋子は手を振りながら、玄関へと向かった。
「することもないし、勉強でもするか」
浅華高校は有名な進学校であり、雄夜はギリギリ合格できたのだ。なので、雄夜も勉学を怠ればすぐに赤点をとったりして留年という可能性もあるのだ。
雄夜は二階の自室に入って、机に向かって教科書を開くが時間がたつにつれてゆっくりとベッドに寝転がりながら漫画を読み始めた。
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「雄ちゃん、起きて~。起きないと抱きつくぞ~」
その言葉に雄夜はとっさにベッドから飛び降りた。眠い目を擦り、警戒しながら洋子を見ていた。
「もう~、そんなに警戒しなくてもいいのに」
結局、洋子は雄夜に抱きついたのだった。
「止めてくれ」
雄夜は洋子を押し退けて、話を続ける
「それで、良い写真は撮れた?」
「ん~、微妙」
洋子は肩を落としながら言って、とった写真八枚を雄夜に渡した。
雄夜は写真を取って、八枚の写真をゆっくりと見た。五枚目の写真を見たとき、雄夜はため息をした。
「あの、馬鹿」
五枚目の写真に怜奈が映っていたのだ。