第二遭遇
「―――っああぁぁぁぁっっっ!!!」
雄夜が悲痛の叫び声を上げ、怜奈は仁王立ちをしながら雄夜のことをみていた。
「てめぇ、よくもしてくれたな」
雄夜は両手を蹴られたところにあてながら内股で言った。
「体は丈夫じゃなかったの?」
怜奈はにんまりと口の両端をあげつつ鼻で笑った。
「限度があるに決まってんだろ!…くそ」
雄夜はまるでトイレを我慢してるように少しずつ歩いて、ビルの路地裏から出ようとしていた。
「もう笑わないよね!?」
謝ることよりそっちの方が心配か、と雄夜は思って無視をしながら路地裏を出た。
一人になった怜奈は一つため息をしたあと、雄夜と逆方向の通路から路地裏を出て飛び交う車や人のなかに紛れ込んでいった。
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「なんだよ、あの女」
少し苛立たしさを覚えながら、雄夜は一本道のアスファルトの帰宅路を通り、自宅へと足を運ぶ。
普通なら雄夜は午前中に帰ってこれたが、蹴られたところをかばいながら歩いてきたので、太陽は真上にあった。
「もう少しだ…」
誰に言うのでもなく、ただの一人言を言った。その声すらも周りの雑音によってかき消された。
家の前にまで来るとさすがに痛みもひいてきたので雄夜はいつも通りに玄関へと入った。
「ただいまー。っつても、俺一人だけど」
雄夜の家系は父と母と雄夜の三人家族だが、雄夜の父は死んでしまい、母はパートで家には遅くならないと帰ってこれない。
「昼飯でも食べるか」
雄夜は台所へと向かい、カップヌードルを取りだしてヤカンに水を汲んで、お湯を沸かした。
ヤカンの口から白い湯気がたちのぼると、雄夜は火を止めてカップヌードルにお湯を入れる。
カップヌードルの上に箸をのせて、おさえつつリビングに向かった。テレビをなんとなくつけて見てみるとニュースが流れていた。
『今朝に見つかったミステリーサークルについての続報です』
雄夜は頭に怜奈の顔が一瞬浮かんだが、すぐに振り払った。
『場所は千葉県の浅華町の中央部にある、浅華公園にできました。中継が繋がっています』
そのあとにリポーターの名前を呼び、浅華公園が映し出された。
『見てください、昼休みということか浅華公園には大勢の見物人が来ています』
リポーターの女性は大勢の人にもまれながら、周りの人に質問をしていたり、ミステリーサークルの大きさや情報を話していた。肝心のミステリーサークルは映っていなかった。
『こちらからの情報でした』
リポーターの女性がにっこり笑いながら言うと、画面が切り替わりスタジオに戻ってきた。
スタジオでは、さもかもカメラにミステリーサークルが映っていたかのように話していた。
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「これだわ!早速いくっきゃない」
怜奈はテーブルを叩いて、立ちながら言った。
「あ…でも…、よしっ!明日の夜に出発よ!」
怜奈はアパートの一室で一人、テンションをあげていた。
怜奈がした最初の迷いは雄夜を連れていくかどうかについてである。連れていき、証拠を見せつければ信じてくれると怜奈は思ったからである。今日の内に行っておきたいが浅華公園は人が沢山いるのでしっかりと見ることができない、それに雄夜のメルアドなんて怜奈は知らない。という理由から怜奈は明日の夜に浅華公園に向かうのだった。
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「ついてきてもらいたいところがあります!」
雄夜が眠そうに首を前後に動かしてると、怜奈の声が雄夜の頭に響き眠気がとぶ。
「なんだよ…」
雄夜は嫌な顔をしながら聞くが、怜奈は気にせず話し始める。
「浅華公園にミステリーサークルがあるのは分かってるわよね?」
怜奈の目は爛々としていて、雄夜はその黒い瞳を見ながら一つため息をする。
「ああ、見たけど」
「学校が終わったらすぐに行くわよ」
「嫌だ」
雄夜の返答に少し戸惑いながらも怜奈は話し始める。
「ほ、ほら。行けば、私が異星人っていう証拠を見せられるから」
「嫌だ」
怜奈は雄夜の意外な行動に驚いていた。
実際、怜奈が中学生の時は男子にお誘いをすれば絶対、成功なのに雄夜は違った。
「な、なんで?」
「そりゃあ、めんどくさ―――」
雄夜は話すのを途中で止めてしまった。怜奈の目に涙が浮かんでたからである。
「そんなについてきてほしいのかよ…。分かった分かった、俺もついてくよ」
「本当?」
「絶対にだ」
すると、怜奈は制服の袖で涙を拭き取った。
「あっりがとね~。それじゃあ放課後待ってるから」
「え…あ…お、おい!」
雄夜が話しかけたときにはもう怜奈は走ってどっかにいってしまった。
その後、雄夜は怜奈にいっぱいくわされたことに気がついた。怜奈の泣きの演技に。