第十四遭遇
「う、わ…うわああぁぁっっ!」
「ちっ、つまんねぇな」
雄夜はため息をついて、雫のもとへと歩き手をさしのべた。茶髪の男は叫びながら路地裏から出ていった。
「怪我は無いか?」
雄夜が雫に安否の確認をするが雫は反応しなかった。
雄夜の手には金髪の男の血が付着しており、ジーパンにも血が付着していた。
「な、なんで…」
雫は腰を抜かしつつ震える声で言った。
「そりゃあ、あいつが雫のことを―――」
「その事じゃありません」
「そんじゃあなんなんだよ」
「なんで、喧嘩してるとき笑ってたんですか?」
すると、雄夜は自信満々に言い放つ。
「喧嘩って危険だから、面白いじゃん」
雫の目に少しずつ涙が込み上げてくる。
雫にとって雄夜は初めて、恋をした人。優しく能力を認めてくれた人。命を守ってくれた人。もっともっと雫が恋をした理由がある。そんな人が危ないことをして怪我をするところだったのだ。
「お、おい、なんで泣いてんだよ」
「う、嬉しかったの…私を、うっ、守ったり…私のためにぃ…喧嘩、ひっく、したり…でも、でも一番は…雄夜くんが、怪我を、う、しなかったこと」
すると、雫は込み上げてきた感情を吐き出すように泣き声と涙を流した。
雄夜はただ、雫の正面で両膝をついて、血のついていない方の手で背中をさすった。すると、雫は雄夜の胸に顔を埋めて、泣いていた。
「悪かったな、心配かけて」
この言葉に雫は首を振るのだった。雫は涙でくしゃくしゃになった顔で雄夜を見ながら「ありがとうございます」と少し微笑みながら言った。
そのあと二人はしばらく動かなかった。
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「すみません、私のせいでプレゼント買えなくなってしまって…」
時刻は六時をまわろうとしていた。四月の後半に入ってるので外は少しだが明るい。しかし、二人はさすがにショッピングモールに戻ることはできなかった。
「大丈夫だよ、帰り道に酒屋があるからそこで、買っていくよ」
雫が肩を落として、ため息をしながら「本当にすみません」と言った。
「それより…あそこにいるのは誰だ?」
二人は丁度浅華公園を通っていた時に雄夜が言った。
「もしかして、怜奈さんじゃないですか?」
「はぁ~あるかもな」
雄夜が人影に向かって歩き出す。雫も隣を歩く。
雄夜が近くに来ると、女のようだった。髪はセミロングで雄夜は怜奈だと確信した。
「こんなとこでなにしてんだよ、怜奈!」
雄夜が怜奈にげんこつをくらわす。
「てめぇ!なにしやがるんだっ!」
一瞬と言ってもいいほど、その女はものすごいスピードで雄夜の胸ぐらをつかんだ。
「いや~、すみません。間違いでした~」
女の怒りの眼差しを受け流すように雄夜は両手をあげ、戦意がないことを示す。
「ふざけんなよっ、いきなり殴りやがって!」
「だから~、間違いでしたって」
女のことをよく見ると、金髪のセミロングでカラーコンタクトをしているのか瞳が赤色だった。近くで見ないと怜奈と見間違えてしまう程似ていた。
女は雄夜の態度になにかが切れた。胸ぐらをつかんでる手に力を込めて、逃げ出さないようにつかんだあと、もう一方の手で腹を殴る。
「うっ」
雄夜は一つの呻き声と一緒に飛んでいった。
「緑神くん!」
雫が倒れた雄夜に向かって走り出す。
「てめぇ、わざと殴られただろ。くそっ、やる気失せたわ」
そのまま女は金髪をなびかせながら消えていった。
そんな女を気にすること無く雫は雄夜のことを心配していた。雫が雄夜の顔を覗きこむと、雄夜は笑顔だった。
「わざと殴られたつもりはねぇよ」
そう雄夜は一言呟くのだった。
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「雄ちゃんお帰り~、今日は遅かったわね………隣にいる子は誰!?」
「いや………友達だよ」
「嘘だ!…夜、一緒に遊んでいる男女はいるもんですか。雄ちゃんに彼女ができちゃったんだ~。ふっ、親離れの時期かな…」
雄夜の母こと洋子は一人言をぶつぶつと言っていた。
本当は雄夜一人で帰ってこれたのだが、雫が雄夜のことを心配して、ついてきたのだ。
「私はこれで、帰ります」
「なんだよ、ここまできたんだからあがっとけよ。付き合ってくれたお礼もしてねぇし」
「付き合ったですって!」
「母さんは静かにしてくれ」
「もう、充分過ぎるくらいお礼はもらいました」
雄夜はなんのことかよくわからなかったが無理にひきとめるわけにもいかず、そのまま雄夜は雫と別れたのだった。
雫は雄夜の家から出て、少し歩いたところで、壁に寄りかかった。
「ふぅー」
雫は一つため息を漏らした。そして、今日あった出来事を思いだし、すこしだけ微笑んだ。