第十三遭遇
昼休みの終わりを告げる予鈴の音が浅華高校全体に響き渡る。
「雫、早く行くぞ」
「分かってます」
雄夜は焦りながら小走りをして、中庭をあとにしようとする。雫も雄夜のあとをついっていった。
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放課後になった。教室には喋り声がこだましていた。
雄夜はカバンを持ちながら、雫のもとに歩いていく。雫はカバンに教科書類をしまっているようだ。
「準備はできたか?」
「大丈夫です」
雫はカバンに教科書類をしまい終えて、立ち上がりながらカバンを肩にかけた。
「それでは、行きましょう」
二人は日常会話をしながら教室を出ていった。
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二人が来たのは浅華公園より、少しだけ遠いところに位置するショッピングモールだった。
このショッピングモールは五階建てで品揃えもよく、食品からおもちゃやゲーム、服、アニメのグッズなどとにかくたくさんの商品があるのだ。
二人は服や雑貨が並ぶ三階に来ていた。
「緑神くんのお母さんはどんな趣味というか…好きなものってなんですか?」
「ん~、可愛いものとかかな」
「それでは、予算ってどのくらいですか?」
「今持ってる有り金全部だから…三千円ぐらい」
雫が元気よく「分かりました」と言って、雄夜をある雑貨店に連れて行った。
店内の広さは結構あり、見た目はピンクを大胆に使っていて、置いてる商品も可愛らしい動物のストラップやビーズのアクセサリー、文房具などがあった。
雄夜は仕方なく中に入っていった。
中では雫が色々なものを雄夜に持ってきた。しかし、雄夜はどれも気に入らなかった。少しずつ雫が商品を持ってくる時間が遅くなってきたので、雄夜もぶらぶらと店内をあてもなく歩き始めた。
「プレゼント、プレゼント」と雄夜が思いながらストラップが並ぶ陳列台を歩いていると、一つだけ妙なストラップがあった。
鎖に繋がれた黒い玉だった。なぜか雄夜は黒い玉に目をひかれ、手に取ってみた。黒い玉の中心は赤く光っており、不思議な雰囲気をかもしだしていた。
「なにかいいストラップでも見つけましたか?」
疲れ気味の雫が言った。
「いや…なんでもない」
雄夜が黒い玉をもとあったところに戻そうとした瞬間、雫の「ひっ…」という何かを怖がっているような声が雄夜に聞こえた。雄夜が雫の方を見ると、ある男が立っていた。
「ぞくにいう、ナンパってやつか?」とボーと雄夜は見ていたが、あきらかに雫の表情がただ事ではないと雄夜に知らせた。
「まじかよ、雫に男ができたのかよ。ありえねぇ」
雄夜の目の前には男女ペアになって手を繋いでいる金髪の男と茶髪の男と女二人がいた。
「ち、ち、ちがいます」
雄夜は話しかけてきた金髪の男を知り合いだと認識し、雫にとって嫌な男だと思い、雫を自分の後ろに隠した。
雄夜の背中のワイシャツが雫に握られていた。恐怖からくるものなのか、それとも悔しさからくるものか雄夜には分からなかったが雫の手が震えたいた。
「ん?なんだよ、そんな怖い顔すんなって、ただおしゃべりしたいだけだよ」
雄夜が凄い剣幕で金髪の男を見ていた。
「お前ってさ、その女の秘密わかってんのか?」
「心を読めることか…?」
「なんだよつまんねぇな、知ってたのかよ」
男が笑う。そして、最後に口元が横に大きく開いた。
「両親が死んだってことは?」
「知ってる」
「こいつのせいだってことは?」
「知ってる」
「あぁ、そうだ。思い出した、そこの女のせいでさ警察に捕まりそうだったんだよね。まぁ親父が金で助けてくれたけどよ」
「最低だな」
雄夜の一言に金髪の男は眉が少しだけ動いた。
「最低なのはそっちじゃねぇのか?」
「何がだ」
「そこの女は一人で逃げたしたんだぜ。両親を置いてよ。首をつって死んだ両親のことを考えてみろよ」
「な、なんで知ってるの?」
雄夜の後ろから怯えた声で雫が言った。
「死ぬところを見たからに決まってんだろ」
「つまりてめぇは見ていたのに止めなかったのか?」
すると、男が笑いながら「当たり前だろ」と言った。
「まぁ、言っておいてやろうか。周りの奴等に命令をして、お前らをいじめてきたんだよ。とても楽しかったぜ。どんどん壊れていくお前の両親を見るのがな」
雄夜の頭の中で何かが切れる音がした。歯を食い縛り、雄夜は拳に力を込めた。
「止めてください」
雫が雄夜の力を込めた拳を握りながら言った。雫は雄夜の次の行動を読みとったのだ。
「くそっ…」
雄夜はゆっくりと拳の力を緩めた。
「あーぁ、お前も死んでくれた方が良かったのに」
「ふざけんなっっ!!!」
雄夜は雫の手を振り払い、一歩前に踏み出しながら、男の顔面を肩の位置で拳にあてる。そのまま伸びきっていない腕を地面に叩きつけるように振る。
一つの鈍い音が店内に響き渡る。
「てめぇのせいでどれだけ雫が傷ついたのかわかんねぇのかっ!」
雄夜が肩で息をしながら言った。
「緑神くん…どうするの?」
雫が言った。金髪の男と一緒にいた茶髪の男はすでに喧嘩の体勢に入っていた。周りの人は逃げだし、店員は警察を電話でよんでいた。
「逃げるぞっ」
雄夜は雫の手を握って、走り出した。店をぬけて、とにかく走る。
茶髪の男と金髪の男は女二人を置いて、雄夜と雫を捕まえるために走ってきた。
「とにかく、外に出るぞ」
「はぁ…はぁ…はい」
雄夜と雫は階段で一気に一階まで降りていき、外にでた。
雄夜が後ろを向くと、男たちはまだ来ていた。
雄夜は雫が一緒にいるから走って巻くのはきついと考え、ビルの路地裏に入って曲がり角を何回も曲がった。
しかし、男二人は路地裏の道を覚えており、すぐに雄夜と雫は捕まってしまった。
「おいおい、よくも殴ってくれたな」
金髪の男が指の間接を鳴らしながら雄夜に近寄る。雄夜の後ろには壁があり、逃げることができない。
「はぁ、はぁ…くそが」
「んだと!?」
金髪の男が拳を振り上げて雄夜の頭めがけて殴る。
店内と同じく鈍い音が広がった。
「あぶねぇな」
雄夜は紙一重で首を傾けて、金髪の男の拳を避けていた。
「ここでなら、喧嘩上等」
雄夜は金髪の男の殴ってきた腕を握り、腹に蹴りをくらわす。金髪の男が頭を下げた瞬間、頭を掴んで自分の膝とぶつける。金髪の男の頭から赤い血が流れる。何回かしていると金髪の男は力が抜けて、ぐったりと地面に倒れた。
茶髪の男は舌打ちをしたあと、内ポケットからサバイバルナイフを取り出した。
「おぉ、そんなもん持ってんのかよ」
茶髪の男は雄夜に向かって走り出した。男はサバイバルナイフを雄夜の腹に突き刺すように前かがみで突進してきた。
雄夜はギリギリで体をひねり、サバイバルナイフを避けると、サバイバルナイフを持ってる茶髪の男の手首を握って、腕の間接にもう一本の手で殴り、あきらかにおかしな方に曲げる。そのまま、壁のほうに突き飛ばす。
茶髪の男の悲痛の叫び声が上がる。
「おいおい、もっと楽しませてくれよ」
雄夜はゆっくり歩きながら、茶髪の男に近づいた。
「や、やめてくれ、俺の敗けだ」
茶髪の男にはもう戦意はなかった。
「足りねぇ…」
雄夜は歩みを止めなかった。