第十一遭遇
「ありがとうございます」
「気にすんなって」
そのあと、二人はなにも話さずに時間を過ごしていった。
若い男の人の声が電車にこだます。
『次は浅華町~浅華町~』
独特のなまりが車掌だとうらづける。
「ここで降りるんだったな」
「はい」
雫は大きく頭を下げて、お礼をした。雄夜は「どういたしまして」と言いながら手を振った。それにこたえるように、雫は頭を下げた。
雫は電車から降りた瞬間走り出す。少しでも早く自分の目で確かめたかったからだ。
雫は心のなかで何度も何度も「お母さん、お父さん」と叫んでいた。
∇▲∇▲∇
十分は走っただろうか、雫は息があがり過呼吸のように上手く息ができなくなっていた。
「うっ…はぁはぁ…ひっく、うっ、は…」
手を膝にのせながら、少しずつ玄関に向かって歩いた。
やはり、玄関には赤いペンキで「死ね、消えろ、いなくなれ」などが書かれていた。その周りには生ゴミなどもあり、鼻に突き刺すような臭いが充満していた。
雫は鼻をつまみながら玄関のドアノブに手をかけた。ゆっくりドアを開けていく、少しの隙間から体を横にしながら入っていく。
入った瞬間雫は寒気に襲われた。他と隔絶されたかのような空間に入り込んだと錯覚させるほどの異様な雰囲気が漂っていた。
雫は吐き気もして、口を手で塞いだ。走ってかいた汗が冷や汗に変わっていくことも雫は分かった。
雫は一歩、また一歩とリビングの方に歩いていく。
リビングのドアをゆっくり開けていく。
「キャアアアァァァッッ!」
つんざくような悲鳴が雫の家に響き渡る。
なんと、雫の両親が首を吊っていたのだ。身体中の穴という穴から液体がでていた。冷や汗が毛穴から吹き出し、眼からは涙がでて、鼻からは鼻水が、口からはゲロににているものがでていた。
雫は光景と臭いからその場にうずくまり、嘔吐をした。
なぜ、死体がそのままであるかは、周りの人には通報をしてあげようと思う人はいなく、警察でも死体の臭いは生ゴミ山の臭いにかきけされていた。
雫は三十分近く泣いては嘔吐の繰り返しをしていると、雫の視界に机の上にある一枚の紙が写った。
雫は恐る恐る四つ折りにされていた紙を開いていく。
紙にはこう書かれていた。
雫へ
ごめんね、私とお父さんはもう耐えら
れなくなりました。でもね、私達の保
健があるからそれで生活しなさい。
浅華公園にいる、お婆ちゃんにお世話
になってください。許してくれるそう
でしたよ。
最後に…雫は死んじゃダメよ。
母さんより
∇▲∇▲∇
そのあと、雫は浅華公園にいるホームレスのお婆さんのところにいって、苦しい生活をしながら住んでいた。
雫が高校に行こうと決めたのは、お婆さん迷惑をかけたくないからである。人一倍努力をした雫はなんとか合格することができた。
雫の家はお婆さんが掃除をしてくれた。両親の死体も土に埋めた。
▲∇▲∇▲
「これが、いままでのいきさつです」
「ねぇ…その話って本当?」
怜奈が真剣な目で雫をみながら言った。雫は首をたてに降った。
「それじゃあ雫ちゃんは………私の双子じゃないの~?」
怜奈がガックリと肩を落としてため息をついた。
「そういや、双子がいるとかどうとかって言ってたな。雫は本当に助けてくれた男の人の名前を覚えてねぇの?」
雫は電車の所で助けたくれた男の名前は忘れたと言っていた。
「なんで、そんなに知りたいんですか?」
「ん~…いやなんでもない」
「嘘だ~嘘だ~、なんで雫ちゃんじゃないの~」
怜奈は頬を膨らませながら言っていた。
雫は驚いていた。普通なら暗い雰囲気になるはずなのに、この二人と話してると暗い雰囲気になるのが想像つかなかった。
「あと………緑神さん」
「ん?…なんだ?」
雫は少し頬を朱色に染めたあと、下を向いてしまった。
「心を読む能力は…いいものですね」
「そりゃあそうだよ。だって、カンニングとかできそうじゃん」
「そっちですか…」
雫は次に肩を落とした。
実は雄夜が雫を助けるために、手を引っ張ったときに雫は雄夜の心のなかを読むことができ、その内容が『俺が、絶対に雫を助ける!』という単純だが雫の心が暖かくなったのだ。
つまり、雫は雄夜のことが好きになったのだ。