第十遭遇
雫はビルの路地裏であった出来事をこと細かく警察官に話した。
最初は信じられないような表情で雫のことを見ていたが、雫の一生懸命さに警察官は信じてみることにした。
もともと、警察官は正義感が強い人がなるものである。わざわざ事件に巻き込まれに行って、死ぬようなことをすることもある職業なのだ。普通なら、いや、どんな人にでも助けを求められたら助けにいくような人じゃなければ警察官はやっていけない。
「一応、信じてみるが…ここに待っていなさい」
そう言って、警察官は雫が話したビルの裏側に向かっていった。
雫は一つため息をしたあと、警察官に言われた通りに待ってることにした。警察署に入って、角のところに膝を抱えて座り込む。
雫の視界がぼやけてくる。そして、雫は首を上下に少し動かしたあと、目をつぶって寝た。
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「ほらっ!早くきなさい!」
警察官のどなり声に体をビクッと反応させつつ雫は目を開いた。
雫が見た光景は、警察官が雫が言っていた男の制服の袖をつかんで引っ張っていた。
「俺はなにも知らねぇよっ!」
男の方も負けじと反抗しつつ逃げようとしていた。
しかし、中学生と大人の力では当然大人が勝つ。大人が警察官なのでなおさらだ。
「くそっ」
男がそう言いながら反抗をやめて、諦めたかのように、警察署に入ってきた。
男が警察官に引っ張られながら警察署に入ってきた。男が雫のことを見つけると、最初は驚いたあと、すぐに嘲笑うような顔で雫を見た。
「こんなとこにいたのかよ、忌み子」
雫のあだ名だ。そして、最初にいい始めたのがこの男だ。
「な、何?」
雫はよりいっそう体を丸めて、男のことを見た。
「このごろ来てねぇと思ってたら、こんなとこにいたのかよ。んじゃあ…てめぇの両親が死んだってことも知らねぇのか?」
「………え?」
「もう一回言おうか?てめぇの両親は死んだんだよ」
「う…嘘だ……」
雫はフラフラと立ち上がり、男のことを睨む。そして、雫は男に近づき警察官に引っ張られている手の逆の手を握る。
「嘘だよね……」
雫はこの五日間ほとんどなにも飲まず食わずで体力が限界に近づいており、冷静な判断ができなくなっていた。
「きもちわりぃな」
男が雫を突き飛ばす。雫はどうすることもできずに、尻餅をついた。
「嘘…でしょ……」
雫はすぐさま立ち上がって、警察官と男を押し退けて走りだした。
目的の場所は自分の家だ。
雫は曖昧な記憶をたよりに歩いてきた道を走って引き返していた。
雫の瞳は光を失って絶望のみの色で、目の下には大きなくまができて、髪もボサボサで中学生の制服もボロボロ。
そんな姿で雫は自分の家に走っていった。
「どうか嘘でありますように…」
雫は男の手を握ったときに、男の心を読んだのだ。そして、男の心はすべて本当のことと教えてくれた。
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雫は二十分間走ったが、いまだに雫の見覚えがあるところにはでない。
雫は汗と涙を一緒にぬぐいつつ、体力のあるがぎり走った。
もう、雫の体は傷だらけになっていた。走ってる途中に転んだり、山道を走ったからだ。
雫は走り続ける。
十分後、見覚えのある駅にたどり着いた。
すぐさま雫は現在地を確認した。雫の居場所は雫の家がある駅の二つ隣だった。走っても時間がかかりすぎる。
雫は崩れていくように座り込み、泣き始めた。誰にも聞こえないうに最低限度の音をだしつつ。
周りの人は、雫が泣いてるのに気づいてるのだが、関わらないように遠ざかっている。傷だらけで涙を流して、制服もボロボロ、人間は直感的に関わると面倒なことになる、という想像をしてしまう。
「危なーいっ!」
雫の右方向から男の大きな声が聞こえたが、雫は顔を上げずに下を向いていた。
「くそがああぁぁぁ!」
雫は明らかに二言目の方が自分に近いと思い、顔を声のある方向に向けてみると、転びそうになりながら、ジャンプをして雫を飛び越えようとする男がいた。
雫の頭の上をギリギリ飛び越えたあと、その男は盛大に転んだ。
「いってぇぇっ!」
男は中学生のようで、叫んだあと雫を見た。
「どこにも、怪我はない?………げっ」
男はすぐさま雫にかけより、雫の腕を肩にのせた。
「な、何するの…」
「そんなに怪我してたらほっとけねぇだろ」
雫はふいに男の心を読んだ。
『助けねぇと』
雫は少し安心をしたが、すぐに男から腕を外して座り込んだ。
「どうした?」
「私はいいよ…」
「なんだそれ?怪我してんだから、早く診てもらわねぇと」
「私はもうダメなの」
雫は前に病院で拒否をされたことがあった。といっても直接拒否をされたのではなく、たらい回しをされたのだ。
「あぁ!めんどくせぇ!お前の家はどこにあるんだ?」
「家………私の家はこっから二つとなりの駅なの」
「おっ、俺と同じ方向じゃん」
「でも、私はお金がないからいけない」
「それなら俺がだすよ」
「………え?」
「だから、俺がかわりにお金をだすっつてんだ」
「迷惑だよ……」
「あぁ、もう!行くぞ!こんなところでぐずぐずしてたら時間の無駄だ。その時間でどれだけ楽しいことができるか考えてみろっ!」
そう言いながら、男は雫を背負った。
「な、何するの?」
「だ~か~ら、行くぞ!」
男は券売機で雫の分を買って、駅のホームに走っていった。男は定期券だった。
とまっていた地下鉄に乗り込み、男は雫を椅子に座らせた。
「なんでそんなにボロボロなんだ?」
「教えられない」
正直に言えるはずがない。
「ん~、お前の名前は?」
「教えられない」
雫はもしも、この男が自分の名前を知っていて、変な能力を持ってる人だとと思われたくないから、あえて話さなかった。
「あなたはどうしてこんな時間なのに学校に行ってないの?」
「………リハビリ…かな?」
雫はすぐに男が嘘をついたと分かった。男も言いたくないことなのか、ただたんに遅刻しただけなのか。どっちか雫は分からなかったが、少しだけ笑えたような気がした。
「それじゃあ、あなたの名前は?」
「ん?俺は雄夜っつうんだ」