第七遭遇
さっきまで綺麗だった星たちは厚い雲に覆われて、月もまた雲に隠れてしまった。
「うそだよな…?」
「本当ですよ」
雄夜は少し、後退りしてしまう。雫はそれを見て悲しそうに下を向いて、涙目になった。
「もう、帰りますね。霧山さんには、体調が優れないので帰ったとでも言ってください」
少しだけ声を震わせながら、雫は雄夜に言った。
雄夜は後退りしたことを後悔して、一歩前にでようとするが、雫の言葉が頭に引っ掛かり、動くことができない。
それを見た雫は最後に涙を目頭にためながら雄夜に微笑んで、浅華公園の出口に走っていった。
走り去る雫をただただ雄夜は見ることしかできなかった。
「くそっ」
∇▲∇▲∇
雄夜は雫を追いかけずに、たたずんでいて五分後に怜奈が懐中電灯を片手に歩いてきた。
雄夜は雫について、言われた通りにしようと思った。怜奈にはいつも通りに雫と接してほしいという思いからだ。
「今日、雫は体調がわる―――」
パンッ!
「今度は雫ちゃんを泣かせたわね」
怜奈は浅華公園に来る前に、雫と会っていたのだ。しかし、雫は怜奈のことに気づかず、目を袖で拭いてるところをちょうど怜奈が目撃したのだ。
「え…あ、悪い」
「私に言う言葉じゃない!」
すると、怜奈はため息をして雄夜のことを見る。雄夜が見た怜奈の瞳は怒りが燃え上がっていた。
「何を話してたの?」
雄夜がいいよどんでいると、怜奈は雄夜の胸を思いっきり殴った。
雄夜はドスンッという音と共に、尻餅をつく。怜奈は仁王立ちをしながら雄夜を見下ろす。
「私はね、泣いてる友達をほっとけないたちなの」
雄夜は反抗もせずに、下を向いてるだけだった。
「早く言いなさい」
怜奈はこれでもかというほど、怖い顔をして雄夜を睨んだ。
「…分かった。雫はこう言ったんだ…「私は両親を殺した」って…」
「それで、終わり?はっ、ふざけないでよ。雫ちゃんはそんなことをする子じゃない」
あまりにも単純な理由で、怜奈は雄夜の言ったことを否定した。
「なんで、わかんだよ…」
「そりゃあ、私と雫ちゃんは友達だし、優しい子だもん」
「そんな理由で…」
「それじゃあ、あなたはその事についてしっかりと話を聞いた?」
「いや…聞いてねぇよ」
怜奈は微笑んで、雄夜の手を握って立ち上がらせた。
「それじゃあ、今から聞きに行くよ」
「え?…あ、おい!」
怜奈は走り出した。雄夜も怜奈に引っ張られて走り出す。
「お前、雫の家知ってんのかよ!?」
「もちろん!異星人をなめないで!」
「意味がわかんねぇよ」
しかし、怜奈は間違えずに前から知ってたかのように、道を走っていく。
何度も路地裏に入っては抜けての繰り返しで、雄夜は自分がどこにいるのかが分からなくなった。
「はぁ、はあ…ここよ」
二人が息をあげながら、ついたところは普通の一軒家だった。しかし、電気はついておらず真っ暗だった。
雄夜は膝から手を離して、玄関に向かう。
チャイムを押すと、すぐに扉が開かれた。
「どちら様でしょうか?」
一軒家から出てきたのは、仕事が終わってすぐに寝てしまったと思われる、女性がいた。
「すみません、雫はいますか?」
「隣ですけど…」
雄夜は勢いよく後ろを振り返ると、怜奈が舌をだしながら、頭をコツンと叩いていた。
「すみません、間違えました」
そういうと、女性は家のなかに消えていった。雄夜はすぐさま、怜奈のところに走っていった。
「てめぇ、なにがもちろん!だ」
「テヘペロ」
「うぜぇ」
雄夜は怜奈の額にデコピンをくらわす。怜奈は少しだけ頭をのけぞって、額をさすった。
「痛いな~、間違えは誰だってあるもんだよ」
「異星人でもか?」
「もちろん!」
雄夜はため息をつくと、視界の横に映ったのは雫だった。
「え、いや…あ…」
雫は方向転換をして、雄夜達から逃げていく。
「追いかけるわよ」
「当たり前だ」
雄夜と怜奈は一斉に走り出す。普通ならすぐに追いつけるはずなのだが、さっきまで走っていたせいか、すぐに息が切れていく。
「くそっ、駄目だ追いつかねぇ」
雄夜は横を見ると、怜奈が少し咳をしながら精一杯走っていた。怜奈が言ってた「友達はほっとけない」という言葉が雄夜の頭に響く。
「うおおおおおぉぉぉぉっっっ!!」
雄夜は叫びながら雫に向かって走るスピードを上げる。少しずつ、少しずつ、距離が縮まっていく。
雄夜の視界に交差点の信号の光が見える。
赤。
雫は下を向いて走っているので気づかない。
「くそがあああぁぁぁっ!!」
雄夜は雫の手を握って、雫を押し退け、雫は歩道に、雄夜は車道に放り出された。
雄夜は今までしてきた経験なのか、雫を助けたいとという思いからなのか、一切の迷いもなく行動を起こした。
交差点に一つの鈍い音が広がった。