第23話 乱入
名古屋めがけて振り下ろした日名の一撃。
だが名古屋はそれを短刀で受け止め、日名を蹴り飛ばし起き上がる。
話術で日名の意識を自分に集中させ、その影で短刀を負傷していない方の左手に持ちかえていたのだ。
「くぅっ!」
「あなたが優勢? それはそれは違う!」
名古屋は追い撃ちをかけ日名はそれを防ぐ。
鋼と鋼がぶつかり合う音が林に溶けていく。
「っ……」
思った以上に深く傷つけられた脚は動く度に力を込める度に激痛が走る。
「脚、痛いでしょ? すぐにすぐに痛みも何も感じない身体にしてあげる」
一方名古屋は軽快なステップを踏んでいる。
「……」
「何を考えてるの? 助けなんかなんか来ないよ。 『駒』同士の殺し合いなんて一般人にはごく普通の出来事のように見える」
「助けなんて……」
日名は短刀を下段で構える。その方が他の構えに比べ脚への負担が少ないと思った。
名古屋は斬りかかっては下がり斬りかかっては下がるヒットアンドアウェイを繰り返す。
日名は自ら深く攻め込めない上にカウンターをするにも名古屋が素早く後退してしまうので撃てない。
戦況は両者手負いながらも一方的に攻める名古屋の優勢だ。
「守ってるだけじゃ勝てないよ! でもでも関係ないけどね。 あなたは誰の記憶にも残らずひっそりここで死ぬんだよ?」
「……!」
再び日名に斬りかかろうと名古屋が動き出したその時だった。
もう授業が始まっている時間にも関わらず林に人の気配がした。
「誰かな? 体育の授業をしてる人かな? 用務員さんかな? どっちでもどっちでもいいけど。 絶対に首なんか突っ込んでこないんだから。 ゲームと似てるね、街中でいくら戦闘してもNPCは止めもしない」
名古屋はその場で屈伸運動や伸脚運動をしている。
「お前ら何してんの? 授業始まってるよ」
木の影から男の声がした。
「珍しい珍しい。 『駒』の殺し合いに干渉してくる一般人も稀にいるらしいからね。 それでもそんな光景に疑問すら浮かべないけど」
その声の主が徐々に近づいてくるのを感じる。
「ヒナちゃん!? どうしたの!?」
姿を現したのは築だった。
「きずきくん……」
「何者なの、あなた」
「あ? 矢作橋築だよ、お前こそ誰だよ?」
「あなたの名前なんてどうでもどうでもいいの、知ってるし。 あ、瑞穂は名古屋瑞穂」
「ヒナちゃんに怪我させたのお前だな。 どうして喧嘩なんか……、……、喧嘩なんかじゃねえな……」
「あなたも『駒』ね」
「もってことはあんたも『駒』か」
「そうだよそうだよ」
教室で感じた名古屋に対する違和感。それは名古屋瑞穂が『駒』であったから感じた物なのか。 早朝テストの日に『駒』である日名と出会った時には何も感じなかったのに、何故そんな物を名古屋に対しては感じたのであろうか。あの時は勝手に『駒』にされてそれに合意してなかったが、日名桜子の存在は以前から認識していた。
名古屋瑞穂は日名のケースとは全く違う。
「てかお前のこと初めて見る。 クラスメイトなのに何でだ?」
築は名古屋に聞く。
「瑞穂はあんたのこと知ってたよ。 普通にお話しとかもしてたし」
「おかしいだろ。 俺は今までクラスメイトであるお前の存在を知らなかったんだぞ?」
「そんなことそんなこと瑞穂に聞かれても困るよ」
名古屋なら知っていると思ったが見当違いだったようだ。
日名に聞いてみようと思ったが、例え空気を読めない人でも流石に今聞く状況ではないことくらい分かる。
「きずきくん、離れてて。 彼女は敵だよ」
「離れててって……、ヒナちゃんが離れてて」
「だって彼女はっ。 わたしが消さないときずきくんを」
「そんなのいいから」
築は日名の前に立ち名古屋と対峙した。
「お話しは終わった? あなたが先に死んでくれるんだね」
「まだ終わってない。 だから後で話す」
築は武器も策も持たなかったが名古屋に向かって全速力で走った。
「バカなのバカなの?」
名古屋は短刀でヒュッと空を斬ると切っ先を築に向けて構えた。
「うおぉぉぉ!」
それでも築は速度を緩めない。
築は一気に距離を詰め素手で短刀の刃を掴むとそのまま名古屋を押し倒す。
「なん……なの……」
築は名古屋の短刀を奪い林の中に放り投げた。
生命線が前より深くなった手を築はまじまじと見つめる。
血が泉のようにこんこんと湧き出ていた。尋常じゃないくらい痛い。
「あーあ。 ……早く早く殺しなさいよ」
名古屋は涙を浮かべている。
「断る。 クラスメイトを殺すとか嫌だよ」
「はは、殺しておいた方がいいよ? でなきゃでなきゃまた日名桜子を襲う」
「俺が『王』だ」
「っ!」
名古屋は涙が浮かんだ眼を見開き驚いた。
「ヒナちゃんじゃなくて俺を狙えばいいさ。 でも今日は勘弁な、手痛いし」
「ダメだよ……」
築の背後によろよろと近づきながら日名が言った。
「え?」
「ここで殺しておかないと……」
日名は短刀を振り上げた。