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第21話 初対面

 久しぶりに本を読むと疲れる。だけどその分だけ満足感を得られた。

 築は本を読むのは嫌いではないのだが、本を読むより優先したい事柄が多いせいで無意識に読書は後回しになってしまうのだ。

 モテようと本を知的アピールに利用する輩も多々存在するが、築はそれが無駄な装いだと知っていたのでやらない。

 知的ではない者が偽の知的さなど醸し出してもすぐにバレてしまう。そもそもそんな薄っぺらい偽装を考えつく時点で知的には程遠い。


「あぁー、疲れた……」


 全身の骨をポキポキ鳴らし大きく息を吐いた。


「『王』ってバレないようにしろ、『駒』を集めろ、殺られる前に殺れ、か……」


 家訓や格言のように、半紙に墨で書いて額縁に入れて壁にでも飾っておいたほうがいいか。そうしろと言われても全力で拒否するが。


「……」


 部屋を見渡す。家具の位置も照明の明るさもいつもと何も変わらない。

 そんなどうでもいいことに安堵した。

 次の日、『駒』の『王』になって、承諾してないが勝手に祭り上げられてしまってから3日目の朝だ。


「おはようございます!」


 今朝も元気に玄関先で待っていた日名が言った。


「おはよう、ヒナちゃん。 今日も暑いね」


 ボタンを失っただらしのないワイシャツをふぁさふぁさしながら言った。

 シャツを買わないといけないのを忘れていた。シャツってこんな激しく消耗する物なのだろうか。

 豊田みたいに意図的に胸元を解放しているのなら格好いいかもしれないがそれとは違う。


「きずき、これを持っていけ」


 庭に立っていた黎が築に向かって何かを投げた。


「うわっと!」


 築は手をかざしてそれをキャッチした。ずっしりとした重量感、それは黒塗り聖柄の日本刀だった。

 築は恐る恐る刀を抜いてみた。

 曇天に似た色の刀身が姿を見せた。


「ばあちゃん! 何だよこれ!」


「日本刀じゃ。 といっても、切れ味など殆ど無い模造刀のような物。 こんなんでも無いよりマシじゃろて」


「そんなの見ればわかるわっ! 捕まる、絶対捕まるよ!」


「その刀は異世界で製造された物。 普通の人間には何の違和感も覚えさせないから安心しろ」


 異世界人が突如家族になっても気付かないように、異世界関連の言葉に靄がかかるように、異世界の産物も正しくは認識されない、そういう理屈だ。


「ではな」


 黎は家に入った。


「きずきくん、あの方が」


「俺のばあちゃんだ、異世界出身のな」


 そして2人は学校に向かった。

 教室では頭に包帯を巻いた刈谷がクラスメイトに囲まれていた。

 ちらほら聞こえるのは昨日の事件の話だ。

 そりゃあいきなりクラスメイトが頭に包帯を巻きつけて登校していたら興味も湧く。


「大人気だな、梨華」


 築は机に鞄と刀を置いて刈谷に言った。


「あ、ちっくん! それでねみんなー、ちっくんと光ちゃんが助けてくれたんだよね。 死ぬかと思ったよ、あっはっはー」


「無事で良かったよ。 てかお前は頭を強打して気絶してたろ」


 刈谷は笑いながら頭を掻いた。


「そうなんだよね、ちょっと記憶がおかしくなったのかわかんないんだけどさー、朝起きたらね、家族が増えてたんだよね」


「あ? 何言ってんだ梨華?」


「あたしってさ、お父さん死んじゃってるじゃん? だけどさ、普通に朝お父さんが居たんだよね」


 刈谷の父は刈谷が幼い頃に他界していた。そんな話を築も聞かされた記憶があったのだが。

 築は今の刈谷と同じ体験を数日前にしていた、まさかと思った。

 日名も目を丸くしている。


「ヒナちゃん……、刈谷は、まさか……」


「……はい」


 築と日名はお互いの丸くなった目を見合わせる。


「なんだ、刈谷もか? 俺もさ、今朝死んだじいちゃんにいってらっしゃって言われた。 ……何言ってんだ俺」


 自分の席で優雅に読書していた豊田が、視線は文字の羅列から離すことなく言った。

 築と日名はますます驚く。驚きのあまりに眼球がぽろっと落ちてしまうのではと思うくらいに築は目を見開いた。


「きずき、お前なんちゅう顔してんだ。 ギョク……、ちゃんとしまえよ」


「お、おう悪い。 ……人の目玉を卵扱いすんなよ」


 築はギュッと目を瞑る。


「意味不明な話をしたけどな、そこまで驚くことか?」


「いや、そうじゃないんだ……、そうじゃないんだがちょっとな」


 これは2人のところにも異世界人が現れたということなのか。

 しかし早合点するには情報が少ない。変に鎌をかけてもややこしくなりそうだし、ここは聞き流しておいた方のがよいのだろうか。


「おはよう」


 そんなことを考えていると教室の扉が開き1人の女の子が入ってきた。

 背丈は刈谷より少し低くて短めの髪をツインテールにしている。顔立ちは少しつり目で少々キツさを感じさせる印象だがとても可愛らしい。剣道部にでも所属しているのだろうか手には竹刀ケースを持っていた。

 しかしそんな彼女の名前を築は知らなかった。


「おはよう、名古屋さん」


「おっはよう、瑞穂!」


「お嬢、おはー」


 どうやら名前は名古屋ナゴヤ 瑞穂ミズホでニックネームはお嬢らしい。

 それでも築にはピンとこない。

 クラスにこんな女子いなかったはずだ。

 流石に全学年の女子を暗記しているわけでなくとも、クラスメイトの顔や名前くらい築でも覚えているはずだ。


「誰だろ、あの子」


「さあ?」


 本を閉じた豊田も首をかしげていた。

 築だけでなく豊田や刈谷、日名も名古屋という女の子が誰なのかわからないようだった。

 とんでもなく嫌な予感がした築であった。

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