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第18話 仲間とともに

 アイスカフェオレの水面は、テーブルに振動を与えた為に小刻みな波紋が広がっている。

 波紋が薄れて平穏な水面に戻っていくのを築は放心気味に眺めていた。

 先ほどの事件は、ただの『駒』による争いなんかではない、紛れもない殺人事件だ。しかも異世界人や『駒』と繋がりを持たない一般人であり女子高生であり親友を、訳の分からない存在達の勝手な都合で失いかけた。

 だが自分も『駒』であり、『駒』の中心的存在である『王』なのだ。

 溢れる感情を自己処理できない。築は怒りを通り越して悲しくなり、顔を伏せた。

 泣いているわけではないが、なんとなくそうした。


「きずきくん……」


 日名は築にかけるべき適当な言葉が見つからず、口をつぐむ。


「ヒナちゃん」


「はい」


「俺を『駒』にした異世界人が言ってた。 俺は『駒』の『王』なんだって」


「っっ!!」


 築はカフェオレのカップに書かれたロゴを穴が開くほど凝視しながら言った。

 日名は吃驚仰天という言葉がぴったりな表情を浮かべている。

 呼吸を整えた日名が口を開く。


「きずきくんが『王』だったなんて……。 きずきくん、『王』についてどこまで知ってるの?」


「とりあえず迷惑な連中ってことはわかる」


 吐き出すように築は言った。


「『王』というのは、この世界に幾人と存在する『駒』の頂点。 いわばそれぞれの『駒』が所属する異世界の勢力の王将。 最後まで生き残っていた『王』を従えている異世界勢力が、この世界の統治権を獲得すると言われているの」


「……」


 築は心此処に在らずといった感じで日名の話をただ聞いていた。

 昨日同じような話を黎から聞いていたが、口を挟んだってどうにもならないことは築も知っていたからだ。

 日名は築を気にかけながらも説明を続ける。


「そして『王』は、異世界人・『駒』を含む敵勢力から狙われないように存在を隠したり自分の周りを『駒』で固めたりしています。 当然敵勢力の者は『王』を引きずり出す為に『駒』に攻撃を仕掛けます。 わたしがきずきくんを狙ったのもその為……」


「『駒』は『駒』を殺す。 それが『駒』でなくても『駒』だと思っただけで殺す……」


「はい……。 『駒』は『駒』を殺すことを本能に位置付けています。 一種の呪いのようなそんな感じで……」


 それならばなぜ日名は本能に忠実に築を狙うのではなく、全く逆の行為である築を守ることにしたのか。そんな簡単な疑問すらも今の築には思いつかない。


「てことはヒナちゃんも狙われるよね、刈谷も豊田も俺の家族とかも……」


「無いとは言い切れません……」


「だったら俺が死ねばいいのかな? そうすればヒナちゃん達が狙われることもないし……。 『駒』とかの抗争とかどうでもいい、俺が生きてるせいで周りの人間が死ぬなんて耐えられない」


 己の死の恐怖より、周囲の人間が傷つけられることのが築にとっては恐ろしかった。

 築はそんな極論を目を潤ませて言った。そうするのがベストだと思った。


「……」


 日名は、そんなのダメ、と声を大にして言いたかったが、言った後に傷心極まる築を立ち直らせる言葉が見つからなかった。


「きずき? どうした?」


 さっきまで蚊帳の外にいた豊田が不穏な空気を察知して不意に口を開いた。


「いやさ……、俺の存在がみんなをね、危険にさらしてるからさ、そんなの嫌だし耐えられないからさ……、俺死んだ方がいいかなーって……」


「お前バカじゃねえの? いきなり何言ってんだ?」


「あ?」


「どうしてそんなこと言い出してるのかは知らんが、自分だけ楽しようとするな。 もっとも、死ぬことが楽への最短経路だと思ってる奴なんてクズだがな」


 先ほどまでは築と日名を気遣って音楽を爆音で聞いていたり狸寝入りをしていた豊田であったが、まるで全ての状況を把握しているかのようだ。


「……」


「おい、なんとか言えよきずき!」


 豊田は築の胸ぐらをおもいっきり引っ張り自分の方へ寄せた。シャツのボタンが弾け飛ぶ。

 再び3人が座るスペースに奇異な物を見る視線が集まる。

 カフェテリアの従業員も怪訝な表情を浮かべこちらの様子を窺っている。

 追い出されるのも時間の問題だろうが、そんなことに対する危機感など頭の一片でも覚えずに築と豊田はヒートアップする。


「俺のせいでお前が死ぬかもしれないんだよ! そんなの嫌だ……、だったら俺が死んだ方がマシだろうが!」


「俺だって嫌だ、きずきが死ぬとか耐えられない。 残される方のが辛いことだってあんだよ!」


「わかった。 それなら俺と絶交してくれ。 俺と関わらない方が身の為だ。 ヒナちゃんもだ、俺なんかと仲良くしない方がいい、確実に不幸になる」


 掴まれた手を払い除けると築は声を低くしてそう言った。


「ほんっとにバカだなお前。 なんでそう極論に持っていくんだよ。 死ぬことが恐くてお前と友達なんかやってられるかっての。 一緒にそういうのを乗り越えてこその友情だろうが」


「バカはお前だ豊田。 そんな口先だけで簡単に言えることじゃないんだよ現実は。 冗談なんかじゃないんだよ」


「お前の言ってることが冗談に聞こえたら俺は普通に死ねよって答えてる。 なんでこんな話に発展したかよくわからんが、お前が自ら命を絶ったならば漏れなく俺も死んでやるよ。 本末転倒ざまあみろってな」


「こいつダメだ……。 ヒナちゃんからも言ってやってよ」


「きずきくんがわたしを突き放すなら、漏れなくわたしも寂しくて死んじゃいますよ?」


「もう知らね、豊田もバカ、ヒナちゃんもバカだっ、ついでに俺もバカだよ! お前ら死んだら絶対許さないからな。 周りの人間が死ぬことも許さんからな。 冗談とか冗談じゃないとか関係ない、とりあえず傷つくな、死ぬな、以上」


「安心しろ。 俺は年金の元を取れるまでは死なないって決めてるんだ。 お前も俺より先に死ぬなよ?」


「わたしも運は良いんだよっ! だから大丈夫な気がする!」


 状況を把握していないくせにノリだけでこの場を丸く収めた豊田。どっちかというと楕円だったが、空気を読んで気配を消したり、急に話しに入ってきてノリだけで対処してしまう豊田がモテる理由がわかる気がする。


「ありがとう、豊田、ヒナちゃん」


「わたしこそ頼りにならないけど……」


「気にするな、きずき。 メシおごってもらったしな!」


「……誰がおごるって言ったよ? しばくぞ」


「上等だ」


「ちょ、ちょっと!!」


 漏れなく3人は、カフェテリアの従業員と警備員の手によって屋外に叩き出されたのだった。

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