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第17話 許せない

 その後は大変だった。

 負傷した刈谷に付き添って病院に行こうと思ったがそれは叶わなかった。

 平凡な田舎での久しぶりの大事件だったこともあり、地元新聞社やローカルテレビ局の記者達に取り囲まれ、今の心境やら危険を省みずに人命救助に至った気持ちなど根掘り葉掘り聞かれた。

 インタビューが終わっても息もつかぬ間に警察の実況検分に付き合い事情聴取をされ解放されたのは正午前だった。

 自由を取り戻す為にかかった時間が早いのか遅いのかはわからないが、これから学校に行って午後からの授業を受ける体力や気力は残されていない。


「だりぃ……」


「あぁ、ダルいな」


 人の命を救った場合による遅刻・欠席は無効とする、という表記は生徒手帳には見当たらない。

 実際に入試に向かう途中の学生が、発作を起こした老人と遭遇し救助した為に試験開始時刻に間に合わなかったが、再試験は認められずに沙汰を待ったという話もある。

 人命救助は人として正しい行為だが、自分の命や人生を賭けてまで実行することは推奨されていないのである。


「学校、サボっちゃいませんか?」


 これからの登校に萎えていると日名がそんなこと言った。


「優等生の日名さんがそんなこと言うなんて思わなかった」


「確かに。 でもいいのヒナちゃん?」


 日名の提案はかなり魅力的だった。

 築と豊田は半ば優等生の日名が一緒にいるので無理してでも学校に行くつもりだったのだが。


「はい! たぶん学校には警察か消防から連絡が入っていると思うので、事情は把握しているかと」


「なら決まりだな、もう昼だし」


「腹減ったー、せっかくだし何か食いに行こうぜ! それでいいかな、ヒナちゃん」


「はい! お供します!」


 こうして3人は市街地にあるショッピングモール・康生タウンに向かった。

 康生タウンはショッピングスペースやアミューズメント施設等がある巨大複合施設である。

 若者が遊びに行こうご飯食べに行こうと言ったら大体は康生タウンが行き先になる。

 平日の真っ昼間だというのにそこは老若男女問わず人で溢れていた。


「ヒナちゃん、何か食べたい物ある?」


「ゆっくりお話し出来るお店ならどこでもいいですよ」


「りょーかい」


 レストラン街を適当にうろつき、時間帯の割に混雑していなかったカフェテリアに入った。


「席取ってくる」


「注文は?」


「きずきと一緒でいい」


「わかった、席頼んだぜ!」


 豊田は席の確保に向かう。

 カウンターで自分の分と豊田の分を注文し、豊田が見事に取ってくれていた席につき食事を始めた。


「この店あんま冷房効いてないな」


 店内の温度に不満を持った豊田が言った。


「ちょっと暑いですね」


 日名は着ていたベストをおもむろに脱ぐ。


「ちょっ、ヒナちゃん!?」


「はい?」


 隣に座っていた築は慌てながらもしっかり日名の胸元をガン見していた。


「日名さん、下着してくるの忘れたんじゃ……。 きずきがめっちゃ見てるよ?」


「おい! お前だって見てるじゃねえか! 人を利用して自分だけおいしい思いしようとすんな!」


 そんな築と豊田の言い争いを見て暫しの間日名はキョトンと首をかしげ、そして2人が何を言っているのか察した日名は顔を徐々に赤らめた。


「そそそれはわ、わたしじゃないですっ! 梨華さんですよぉ! ……そんなに見ないで下さい」


 日名は脱いだベストで前を隠すが、築と豊田の態度は一変した。


「なんだ刈谷か」


「あぁ、梨華の方ね」


「あ、あの、どうしたんですか?」


 不思議に思った日名は2人に聞いた。


「刈谷の奴はさ、結構日常的にポロってるから」


「逆にありがたみがないし見飽きた、みたいな? でも俺は見るけど」


「きずきくん……、エッチです」


「ちょっとヒナちゃん! 何で俺だけ!?」


 そう言って対面に座る豊田を見ると、この話題は飽きたのかうつ向き気味で携帯をいじっていて、もう何も聞こえませんよと言いたげな態度であった。

 無理矢理自分だけがエッチなわけではないと弁明したところで、豊田は何食わぬ顔で聞き流すだろうと予想できたので諦めた。


「くっ……」


「あ、あの、きずきくん」


「んあ?」


「少しお話したいことがあります」


 日名は脱いだベストを膝にかけ、先ほどとはうって変わって神妙な面持ちで築に話しかけた。


「駅での事件なのですが……、犯人はどうやら『駒』だったようなのです」


「どういうこと? 捕まった奴は精神異常者ってことは知ってるけど……」


 警察と話した時に犯人との関係などを聞かれたが、刈谷も築達も犯人に見覚えはなかった。

 警察が言うには犯人は、どこの言語でもない謎の言葉をただ繰り返している為に、精神鑑定に回したとのこと。


「犯人は、確かに自分は『駒』だと叫んでいました。 どうやら異世界関連の単語は、この世界の一般の方々には齟齬が発生するみたいなのです」


「なるほど」


 築は険しい表情を浮かべながら豊田の方を見た。


「なぁ、豊田」


「あ?」


「俺とヒナちゃんは、異世界人と関係を持ち『駒』となった者だ」


「ちょ、ちょっときずきくんっ!?」


 驚く日名に対して冷静な築。豊田の反応に予想はついた。


「きずき、狂ったのか? それ何語だ?」


 やはりといった所だ。


「悪い、何でもない。 邪魔したな」


「??」


 豊田は眉を潜めながらイヤホンを耳に突っ込むと音楽を聞き始める。


「ヒナちゃん、何でその犯人は梨華を狙ったんだ?」


「それはわたしにもわかりません……、梨華さんに異世界との繋がりはないかと。 わたしやきずきくんを狙うなら……」


「それだ!」


「はい?」


「犯人は俺かヒナちゃんと間違えて梨華を殺そうと、いや、殺す対象を俺と関わっている者・名前・性別で認識してたとするとヒナちゃんを狙ってたんだ」


 犯人が異世界関連の事を漏らしていたということは、ただの無差別殺人や梨華への怨恨に対する犯行とは考え難い。


「そんな……、それじゃあ梨華さんは……」


「そうだよ、勘違いで殺されかけたんだ!」


 築は拳を握りテーブルをガンッと叩いた。プレートに乗ったカップや皿がふわりと浮きガシャンと音を立てた。

 賑やかだったカフェテリアが一瞬静まりかえり、飲食客の視線が集まる。


「ヒナちゃん……、どうしよう……。 俺のせいでヒナちゃんや梨華に危険が及ぶなんて……」


「きずきくん……」


 築は表情を曇らせ、揺れるカップの中の飲み物を伏し目がちに眺めた。

 カフェテリアは何事も無かったかのように喧騒を取り戻した。

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