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第13話 なんでこんなに可愛いのかよ

 無意識に天井の継ぎ目を数えていた築は睡魔に襲われた。

 等間隔に同じことを繰り返すと眠くなる。数が増す羊、揺れる電車、高速道路のライト、いわゆるハイウェイ・ヒプノーシスというやつだ。

 どれくらい眠っただろう、目が覚めるとそこは異世界だった、なんていう実際は無いだろうが、そんなゲームやノベルスでありがちなことなど起きてなく、目に映るは平和な自分の部屋だ。

 異世界から来たという謎のババアと血縁関係になっていた、という新事実も創作物であって欲しい。

 壁を向いて寝ていた築は、携帯で時間を確認しようと反転した。


「お目覚めか、きずき」


「うわぁぁぁ!?」


 そこにはババアが立っていた。

 気配を殺すとかそんなレベルじゃない、部屋に点在する机や本棚と同様に存在感が感じられなかった。

 こんなことは初めてだ、寝込みを襲われるなんて不覚。


「先ほどの電話は、ホレ、これかの?」


 小指をピンッと立てた。


「違うわっ! 盗み聞きとか最低なんですけどっ! クソババア!」


「バカみたいに廊下まで響き渡る声量で話すきずきが悪い。 いいのかの? 儂をそのようにないがしろにして……」


 ババアは顔の影を強める。というか、このババアの顔をまじまじと見たことが無いのだが。


「な、なんだよ?」


「告白などと言うておったな。 それをみんなにばらすぞ? 特に航に重点的にな」 


「陰湿なんですけどっ! やめろよ! 航とか変な誤解するだろうが! ……お願いします、許して下さい」


「儂の言うことを聞けば許さなくもない」


 知らず知らずババアの誘導に引っかかっていた築である。

 とんでもない無茶を言う気しかしないのだが。


「わ、わかりました……。 それで何を聞けばいいのでしょうか?」


 築は恐る恐る尋ねた。

 不可能なことでなければいいのだが、このババアのことだ、とんだ無理難題を吹っ掛けてくるに違いない。


「儂のことをババアと呼ぶのをやめて欲しい」


「へ?」


 ババアの口から飛び出したのは、築の予想を遥かに超えた簡単な願望であった。


「きずきは勘違いしておるかもしれんが、儂はきずきの敵ではなく、唯一無二の最大の味方なのじゃぞ?」


「……だからって、いきなりやって来た見ず知らずのババアを何て呼べばいいんだよ?」


「儂の知っておるきずきは、ことある毎におばあちゃんおばあちゃんと言っておったわ……。 それが今のきずきは……うぅ」


 ババアはそう言うと肩を震わせる。

 これは築にとって強烈だった。

 万引きという罪を犯した老婆を事務所まで連行してきても、そこで涙ながらに身の上話をされては無罪放免にしてもいいような気さえ起きる。

 もちろん、犯罪者は犯した罪相応の罰を背負うのが当たり前だが、それほど年老いた女性の口上は強力なのだ。


「ばあちゃん……、これでいいか?」


「きずき……」


 黎にとっては感動の再開と言えなくもない状況だ。

 黎はおもむろにフードを外し、築に顔をさらした。


「っっ!」


 そこに現れたのは紛れのない矢作橋黎、写真でしか見たことなかった今は亡きばあちゃんだった。

 何故今まで気付かなかったのか、なんて愚問だ。死んだ筈のばあちゃんが、正体を隠して舞い降りるなんて思いもしない。


「勘違いするでないぞ? 儂はあくまで異世界の住人。 黎だが黎ではない、この曖昧模糊な存在こそ異世界の住人たる所以。 儂はきずきに生きてもらわねば困る……、『駒』として、孫として……」 


「マジでばあちゃん!? ……ていうか、正体ばらすの遅ぇよっ、何で今さら正体ばらした?」


「バカなきずきのことだ、いきなり正体を明かしたところで結果は同じだったと思うが?」


「うっ……」


 確かに黎の言う通りだ。いきなり黎の顔を見たとしても、ばあちゃんに超クリソツな人と出会ってビックリ、くらいにしか思わない。

 世界には自分と酷似した顔を持つ人間が3人いるというし、三十三間堂の中にある仏像にもクリソツな奴がいる、足して4人だ、などとバカな理論を展開していただろう。


「結果は同じと思ったからの。 ぶっちゃけ儂はどっちが先でもよかったのじゃが……」


「あ、そうっすか」


 どうしてそんなバカな築を、『駒』しかも『王』に気分で選んだのか謎は深まるばかりだ。その経緯も結局は五里霧中である。 


「せいぜい死なぬように頑張るのじゃぞ」


「そんなこと言われてもどうしたらいいのかわからないし……。 そうだっ! アレないのアレ、魔法使いと契約したら魔法が使えるとか、伝説の武器が操れるとか!」


 異世界人が親族になったのだ、それくらいの恩恵は得たい。

 正直なところ、丸腰状態で襲われたらひとたまりもない。


「残念じゃが、漏れなくそんな物は付いてこぬ。 自力で対処するのじゃ」 


「死ぬ気しかしないんですけどっ!」


 時止めの魔法に対処できなかったのを知っているだろう。黎には言ってないが、日名にも逝かされかけたし。


「安心しろ、とは言えぬが儂もサポートする。 みすみす死なす訳にはいかぬからの。 儂ら異世界の人間は『駒』同士を闘わせることしか出来ぬのじゃ。 なに、難しいことなどない。 きずきは立派に十数年生きておるではないか。 それと同じことを文字通り死ぬ気で積み重ねればよいだけ、簡単じゃろ?」


 立派に生きる、生きることは立派なのだ。死ぬまで生きることは命ある万物の目標であってゴールである。

 問題はその過程、困難なのか安易なのかだ。

 築は操作方法も分からず説明書も無いのに、ベリーハードモードを隣の奴に勝手に選ばれ早くやれよと急かされた、そんな気分だった。

 消すのも悔しいので意地でもやる、ある意味で築は勇者だ。


「いいよ、わかったよ、頑張るよ! やればいいんだろ、や・れ・ばっ!!」


「ほっほっほ、その意気じゃ。 必死に生きておくれよ、きずき」


 黎は築の頭に皺が深く刻まれ年季の入った手を乗せそう言うと部屋を出ていった。

 チラッと見えた横顔は、どことなく笑っていたように感じた。

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