童話小説【ロケットおじさん】
北の大地イブハートの冷たい霧が、銀河の岸辺を白く縁取る夜のことでした。
村のはずれの古びた作業場では、一人の男が、青い火花を散らしながら鉄の塊をいじっておりました。
そこへ、一人の少年が忍び込み、息を潜めてその光景を眺めていました。
男は、幾百回も爆発し、幾千回もひしゃげた鉄の屑を、まるで宝石を磨くように愛おしそうに撫でていたのです。
少年は、我慢できずに暗闇から声を上げました。
「おじさん、どうしてそんなにボロボロになってまで、ロケットなんて作るの?
村の皆は『空っぽの夢だ』って笑っているよ。悔しくないの?
また失敗して、怪我や火傷をするのが怖くないの?」
おじさんは、すすで汚れた顔をゆっくりと上げました。その瞳の中には、外の闇よりもずっと深い、サファイアのような紺碧の宇宙が揺らめいていました。
「いいかい。悔しさや嘲笑りは、この鉄を鍛えるための炭火のようなものだよ。
失敗はね、怖いものではないんだ。それは、星までの距離を測るための、尊い物差しなんだよ。」
銀河を穿つ、鉄の蓮華
おじさんは、最後の一本のネジを、祈るように締め上げました。
そこには、銀色に輝く一本の細いロケットが、霜の降りた地面に毅然と立っていました。
エンジンは、真空を震わせる星の呼気を蓄え、
発射台は、大地の重力という鎖を解き放つ「祈りの祭壇」のようでした。
「さあ、観てごらん。今、銀河の軌道が、僕らの真上まで来ているよ。」
おじさんは、小さな操縦席に身を沈めました。
琥珀の爆発、そして昇天
「カウントダウンは要らないよ。心臓の鼓動が重なれば、それが合図だ。」
おじさんが銀のスイッチを入れた瞬間、世界から音が消えました。
次の刹那、地面から巨大な琥珀の蓮華が咲き誇るような、猛烈な光と熱が吹き出しました。
「ゴオォォォォン!」
大地は巨大な鐘のように鳴り響き、ロケットは真っ直ぐ、夜の天蓋に向かって突き進みました。
少年は、その光の尾が、雲を突き抜け、青白い大気の層を裂いていくのを、瞬きもせずに見つめていました。
ロケットは、もはや鉄の塊ではありませんでした。
それは、おじさんの魂そのものが、一条の光となって宇宙へ帰っていく姿でした。
はるか高み、空気のない静寂の淵で、ロケットの窓からおじさんが地上を見下ろしました。
村の明かりは、まるでちっぽけな砂粒のように瞬いています。
おじさんの無線機から、少年の耳元へ、水晶の粒のような声が届きました。
「いいですか。失敗をしない唯一の方法は、成功するまでやり続けることなのです。
途中でやめてしまうから、それは失敗という形をして残るだけなのです。
ほら、やり続ければ、失敗はすべて『成功への道』に変わってしまうでしょう?」
その時、村人たちは皆、窓を開けて夜空を仰ぎました。
彼らが笑っていた「ロケットおじさん」は、今や、夜空に新しく書き加えられた、最も輝かしい一等星になっていたのでした。
童話小説 【ロケットおじさん】完




