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客人:嘉楓とリヤン▶︎朝の定番、半熟卵のアボカドトースト



【千詞墨歌】(BL)

~聖なる字を操る祐筆の物語~


https://novel18.syosetu.com/n1338ki/

著:郁雨いくううう!さん

嘉楓(かふう)&リヤン



 最後の客から「少し遅くなる」って連絡が来てたから、シュートと一緒に仮眠を取ることにした。

「今日は色々あって疲れたろ」

「……」

 ベッドに横になって頭を撫でてやると、もう寝てるみたいで返事は無い。あどけない寝顔を眺めてると胸がポカポカする。朝から一緒にアレコレ準備して、みんな喜んでくれて……楽しかったな。

「朝方になるかもって言ってたから……ちょっと休憩な」

 シーツの上に投げ出されてる手に指を絡める。秋はなんでか、苦しいくらい、切ない気分になる日がある。その理由について、俺はずっと考えたくなくて……でも、今年は嬉しいことだらけだった。

「おやすみ、シュート」



 繋いだ手の温もりを感じながらウトウトしてたら、ハッと目が覚めた。

「やべ……」

 結構がっつり寝ちまった気がする。今、何時だ?外の光を完全に遮断する分厚いカーテンに顔を寄せて、ほんの少しだけ隙間を作って覗き込む。空は白み始めてた。

 家の敷地の外に広がる木々の間にこの辺りじゃ見慣れない服装の二人組が歩いているのが見えて、慌てて飛び出す。

嘉楓(かふう)、リヤン!」

「茶太郎、こんな時間になってごめん」

 柔和な表情で振り返ったのは嘉楓、木漢(モッカン)国からやってきた祐筆(ユーヒツ)……の候補生?だ。"神字(カミジ)"を使って、なんか色々できる凄いヤツ……になる為の勉強中?とにかく、学生さんってこった。

「こっちこそ……すっかり寝ちまってて悪い」

 外で待たされても寝室の窓をノックせずにいてくれた二人の優しさに申し訳なくなる。二人……そう、嘉楓と一緒にもう一人、その護衛のリヤンも今日は来てくれてンだ。

「遠かっただろ、ハラは減ってるか?」

「……」

 寡黙なリヤンに対して嘉楓はカラッと笑いながら「めちゃくちゃ空いてる!」と答えた。忙しい合間を縫って来てくれて、感謝しかねえな。



 二人をダイニングに招き入れて、開きっぱなしだった寝室の扉を閉める。

「……さて、アボカドトーストでも作ってやるよ。 二人はスパイス食べられるか?」

「食べてみるよ」

「卵アレルギーは?」

「大丈夫」

 キッチンでバゲットを切りながらそんな会話をしてると、嘉楓の声が近く聞こえたから振り返った。

「座ってろよ」

「珍しくてさ」

 何か手伝えるか?なんて言いながら手を伸ばす嘉楓の腕をリヤンが後ろから掴んで止める。

「うわっ、なんだよ?」

「……下手に手を出すな」

 俺が包丁を持ってるのと鍋を火にかけてるから心配したみたいだ。さすが"護衛"だな。

「下手にってなんだよ! 俺だって卵を割ることぐらい……!」

 その時、グル……と唸り声が聞こえてリヤンが咄嗟に嘉楓を背後に隠して振り返った。シュートだ。いつの間にか二人の背後に立ってたらしい。

「こらこら、威嚇すんな」

 ごちゃごちゃ騒いでたから、侵入者が俺に迫ってるとでも思ったのか、寝起きで混乱してるのか。

「俺の友達だから」

 包丁を置いてリヤンたちをキッチンの奥に促しながら、シュートの手を取って「大丈夫だ」と声をかける。

「……」

「おはよう、騒がしくしてごめんな」

 水でも飲むか?と尋ねたら小さく頷くから、飲ませてやってまた寝室に連れてった。



 シュートがまた寝たのを確認してからダイニングに戻ると、嘉楓とリヤンが何やら小競り合いをしてた。

「なんだ、ケンカすんなよ?」

「別に!」

 切ったバゲットに半熟卵(ポーチドエッグ)とスライスしたアボカドを乗せて、テーブルに運んでから嘉楓に「仕上げ頼んでもいいか?」と聞いてみると目を輝かせる。

「これ、塩と黒胡椒と……こっち、スパイスフレークなんだ。 いい感じに振りかけて、このサラダも添えてくれ」

 気合い十分に取り組んでる嘉楓の隣でリヤンはなんとなく心配そうだ。そんなに不器用なのか?問題なさそうにやってるけどな。二人の距離感が微笑ましい。

「ほら、お前の分、作ってやったぞ!」

 誇らしげに皿を差し出す嘉楓に小さく頷くリヤン。

「茶太郎のは?」

「俺はシュートと一緒に食べるから」

 さっきのがシュート、ちゃんと紹介できなくて悪い、と言えば揃って首を振るからおかしかった。



 そうして、二人がアボカド&ポーチドエッグ・オントーストを半分くらい食べた所で不意に寝室からシュートが出て来た。もう機嫌は悪くなさそうだ。

「なんだ、もう起きるのか? まだ早いけど……」

「ん」

 嘉楓たちの存在を忘れてるのか、両頬を手のひらで包まれて額にキスされた。んで、手を掴んで頬に誘導される。

「……あ、ごめんごめん」

 そうだ、慌てて起きたせいで"ルーティン"を忘れてた。俺は毎朝、シュートの顔や腕を濡れタオルで拭いてやって、おはようのキスをするんだ。

「食べててくれ」

「あ、ああ……」

 濡れタオルを用意してから、二人を残してシュートと寝室に入り、顔と腕を拭いてやる。

「今日も変わりないか?」

「ん」

 それから左手の指輪にキスをして、し返してもらう。5秒くらいハグをしたら、シュートを包む空気がふわっと和らぐのがわかった。起きて俺がいないコトなんて、この11年間で一度もなかったから……寂しかったのかもな。

「朝メシ、一緒に食うか?」

「ん」

 シュートの手を引いてダイニングまで連れてくとリヤンが一瞬だけ警戒してたけど、敵意が無いのを察してくれたみたいだった。

「ほら、お前の分。 あーんしろ」

「ん……」

 そんな風にアボカドトーストを食べさせてたら向かいから視線を感じる。

「ん、どうした?」

「茶太郎たちって、いつもそんな感じなのか?」

 "そんな感じ"ってなんだ?……って考えてたらシュートに指を喰われて、リヤンにドン引きした顔で見られた。

「あ……そうだな、大体こんな感じ」

 もうここで二人で暮らして11年目にもなるからこの距離感が当たり前すぎて、近いってコト忘れてたな。


 

 しばらく木漢国での日々についての話を二人から聞かせてもらって、昼が近付いてきた。

「嘉楓」

「え、あ……っ、もうこんな時間か」

 リヤンに呼ばれて時計を見上げた嘉楓がパッと席を立つ。

「俺たち、もう行かなきゃ……茶太郎、ごちそうさま!」

「おう、忙しいのに遠くまで来てくれてありがとな」

 ドタバタと帰り支度をして出て行く二人を見送りに出ると、シュートもついて来た。

「気をつけて」

「ああ! 茶太郎たちも、元気でな」

 またゆっくりしに来いよ、と言えば二人とも頷いてくれる。歩き出した背中を見てると、嘉楓がそっとリヤンの袖口に手を伸ばしたから「戻ろうか」とシュートに声をかけて、俺たちも手を繋いだ。



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