客人:アルガスとミーア▶︎色々サルサと手作りトルティーヤのタコス
【勇者はすべてを論破する】(not BL)
-Argus Argues Against All-
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著:卯月ひすいさん
◆アルガス・ランベルク&ミーア・アルシェ
ダイニングテーブルに、手作りでちょっと形が歪なトルティーヤと、トマトベースにアボカドやハラペーニョ……他にもひき肉や玉ねぎを使ったりして用意した色んなサルサを並べていく。
「……ん、コレ上手くできたな」
そのうちのひとつをスプーンで掬ってシュートの口元に運ぶと素直に食べた。
「な、上手いだろ」
「ん」
チラリと覗いた舌に誘われるように口付けると、ライムの爽やかな香りがする。
「もう包帯、外しとくか」
ちゅ、ちゅ、とキスしながらシュートの頭に巻いてある包帯を外してると表に人の気配がした。
日が暮れた頃にやってきたのは異世界の"勇者"アルガスとその仲間、"治癒術師"のミーアだ。二人は世界を救うための旅路の途中で忙しいはすだが、立ち寄ってくれた。
「よお、急に誘ったのに、ありがとな」
扉を開くと家の前庭に立って辺りの様子を興味深げに見渡していたアルガスとミーアがこっちを向く。カシャ、と装備が軽く音を立てた。
「こちらこそ、お誘いありがとう」
「暗いから足元に気をつけろよ」
二人はシュートのコトを知ってくれてるから、その理解に甘えて室内の照明は暗めにさせてもらってる。
「今晩はタコスにしたんだ。 食べたコトあるか?」
「タコス……いや、未経験だ」
料理名さえ初めて聞いたような反応のアルガスに続いて、ミーアも「私も初めてです」と小さく首を傾げた。
なら色んなサルサを用意しといて良かったな。もし口に合わなくても、どれかは食べられるだろ。二人をダイニングへ連れて行くとシュートがキッチンから顔を出した。
「……」
その手には水の入ったグラス。シュートは客人をもてなすってなると、いっつもこんな風に飲みモンを用意すンだよな。どこで身につけたルーティンなんだか、不思議だ。
「アルガス、ミーア、紹介するな……俺のパートナーのシュートだ」
手元のグラスをテーブルに置かせて、その背中に手を添えながら紹介する。
「ああ、話には聞いていた。 はじめまして」
「よろしくお願いします」
アルガスはまっすぐシュートを見つめ、ミーアはペコリと頭を下げた。その声にシュートがそっと目を開くと、青緑色の瞳が覗く。
「わ……目が……」
その目を見て、ミーアが反射的に発した。シュートの瞳の色は異世界でも珍しい方なんだろうか。
「はは、宝石みたいだろ」
「虹彩変調か?」
「こ?」
よく分かンねえけど、アルガスの興味を引いたらしい。「魔力の変質で起こるらしいが……いや、こっちの世界では……?」とかなんとか、ブツブツ呟いてる。確かに魔力でも宿ってそうな色だとは思う。
「……見えてるのか?」
「いや、ほとんど見えてない」
右目が白く濁ってるからか、アルガスはシュートの左目に視線を合わせてるみたいだが、光を感知できてるのは右の方だ。
「……ん」
ふい、と顔を逸らすから「シュートは視線が苦手なんだ」と説明するとアルガスはパッと足元に視線を投げ、ミーアは柔らかく微笑んで俺の方を見た。
「今日はお食事までご用意してくださって、ありがとうございます」
「ああ、二人で作ったから、楽しんでくれ。 シュート、アルガスとミーアだ。 二人は今日、めちゃくちゃ遠いトコから来てくれたんだよ」
ゆっくり旅の聞かせてもらいながら一緒にタコス食おうぜ、と誘えば頬を擦り寄せられた。良かった、二人の纏う落ち着いてて静かな雰囲気はシュートに合ったらしい。
「ま、仲良くしてやって」
「はい」
「よろしく頼む」
そんなワケで、さっそく四人で席に着いた。
アルガスたちは初めてだって言ってたのに、俺たちの作った小ぶりなトルティーヤに上手くサルサを乗せて、綺麗に食べていく。
「面白い食べ物だな」
「そうですね」
作りすぎたかなと思ってたけど、アルガスの勢いを見る限り大丈夫そうだ。そうだよな、毎日しっかり体動かしてンだし。
「色んな味が楽しめていいだろ? あ、ほら、また落ちたぞ」
一方シュートはずっとボロボロこぼすから、俺はそっちの世話で忙しい。二人にちゃんと説明をしてやりたいのに。
「落ち着かなくて悪いな」
「いや構わない」
こっちで俺たちがごちゃごちゃしてても、二人は気にしてない様子で助かる。さっき食べてたのがひき肉とトマトとニンニクで、こっちがちょっとスパイスが入ってるピリ辛のヤツな……なんて話してると、興味深そうに聞いてくれてた。
「で、隣のこっちがトマトとライムベースで」
「あ……茶太郎さん」
「あ?」
話を遮られてミーアの視線を追うと、シュートが手を伸ばしてテーブルの反対側にある水のボトルを取ろうとしてたから、危なっかしくて止める。
「待て待て、取ってやるから」
「んん」
「こら」
自分でやる、と言うように顔を押し退けられて笑ってると二人に生暖かい目で見られてた。
食後、ワインを飲みながら俺が二人から異世界の旅の話を聞かせてもらってる間にシュートにはシャワーを浴びさせておいた。疲れてるだろうから、次の客が来るまでの間に少し寝かせようと。
「次に来てくれる時は、オーサーも誘っておくよ」
「そうだな、ぜひ会ってみたい」
「オーサー……さん?」
アルガスには軽く話したことがあったが、ミーアは知らないか。オーサーっていう歩く図書館がいてさ、と説明しておいた。
「生ハムもう少し食べるか?」
「いや……そろそろ戻らないと」
「そうですね」
もうそんな時間か。勇者パーティーってのは大変だな。
二人を見送りに出ると、すっかり夜中になってた。話を聞くのが楽しすぎたみたいだ。
「疲れた時はいつでもメシ食いに来いよ」
「ありがとうございます」
「今は危険もあるから気軽に来いとは言えないが……平和な世界を築けたときには、こっちへも招待させてくれ」
頷いて家の中を振り返る。シュートは挨拶しなくていいかな、と思ったけど……寝室に行っちまったみたいだ。
「シュートさんによろしくお伝えください」
「ああ、ありがとう」
アイツにこうして"友達"が増えて……世界が広がるのが嬉しい。二人のコトはもう覚えただろうから、次にまた会えるのが楽しみだな。
そうして世界を救いに戻って行った勇者たちの背中を見送って、無事でいろよと願った。
▼卯月ひすいさん より
アンサーSSをいただきました。
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◆勇者の手記 No.???
今日は、遠方に住む友人――茶太郎の招きで、彼のもとを訪ねた。
彼のパートナーであるシュートとも面会することになっていたため、ミーアを伴っていったが、結果として彼女の方が僕より柔軟に対応してくれていた。心強い同行者だ。
茶太郎たちが振る舞ってくれた料理は「タコス」というそうだ。彼らが僕たちの好みに合わせて、手間をかけて準備してくれたことが伝わってきて、ありがたかった。スパイスの風味もよく、僕の好みに合っていた。ミーアも辛味の強いソースは控えめにしていたようだが、こうして味の調整がきくぶん、幅広く受け入れられる料理なのだと思う。
食事中、茶太郎はシュートの様子を気にかけながらも、こちらに料理の解説をしてくれていた。相変わらず面倒見が良く、器用な人だ。彼らの間に流れる空気は穏やかで、互いを尊重し合っていることが自然に伝わってきた。ああいう関係は、見ていて心が和む。
食後には、こちらの世界について少し話しすぎてしまったかもしれない。それでも茶太郎が真剣に耳を傾けてくれたことに、改めて感謝している。シュートは茶太郎に促されて席を外していたが……彼に過度な負担がかかっていないことを願う。
次は「オーサー」と引き合わせてくれるとのこと。楽しみにしておこう。
やや長居してしまった。
そろそろ戻らなくては――僕らの旅路へ。
輝暦2XX年 冥灯月 1日
ここではない“どこか”にて




