客人:ユキトとガク▶︎スパイスたっぷりラッサム with ライス
【イルミネーションが照らし出す】(BL)
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著:立墨さん
◆東屋 柚木斗&清洲 岳
コンコン、と入り口の扉がノックされる。
「おう、来たな」
電球が切れたままの薄暗い廊下を進み、来客を迎え入れる。そこにはユキトとそのパートナー、ガクがいた。
「よ! ちょっと早かったかな」
にこっと笑いながら気さくな挨拶をしてくるユキトとは対照的に、ガクは静かなままその後ろに立っている。
「大丈夫だ、ピッタリだったよ」
これ、と差し出された紙袋を反射的に受け取ると中身はどうやらドーナツの箱だった。
「え……いいのか?」
顔を上げたらガクが頷く。
「好きだと聞いていたからな。 日本の有名なドーナツショップで買ってきた」
「……ありがとう、アイツ喜ぶよ。 食後にみんなで食べようぜ」
どうぞ入ってくれ、と促せば二人とも入り口で靴を脱ごうとするから「ウチどっちでもいいよ」と言えば、どっちでもいいってなんだとツッコまれた。
昼に用意したのは俺の特製ラッサムだ。トマトとタマリンドを煮込んで、スパイスで味をつけたスープ。ユキトたちは海を越えた国から来てるから、あんまこういうのは食べたコトねえかと思って、ココナッツを入れてまろやかにしておいた。
「うわ、カレー!?」
独特な酸味のあるラッサムの香りが部屋に充満していたらしい。ユキトは鍋の中身を見る前にそう聞いてきた。
「んー正確には違うが……まあカレーみたいなモンだな」
ライスと一緒に食べるか?と聞けば嬉しそうに頷く。そこにキッチンから水のグラスを持ってシュートが出てきた。
「ユキト、ガク、これがシュート……会うのは初めてだよな」
「ああ、はじめまして」
挨拶をしてくれたユキトに反応せず、シュートはテーブルに無言のままグラスを置くと鍋の蓋を取ってまたキッチンに戻っちまった。
解説を待ってるようなユキトと、少し居心地の悪そうなガクに笑いかける。シュートがグラスを置いて行ったのは、二人に座ってもらおうと思ってた席の前だった。
「いらっしゃい、ゆっくりしてってくれ……だってよ」
それを伝えたら二人はホッとしたように軽く視線を交えて、それぞれ席についた。さすがに意訳ではあるが、シュートの機嫌が悪いワケじゃねえのは事実だ。
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ラッサムを掬って、ユキトの分はライスに豪快に掛ける。ガクは別が良いって言うから、小ぶりなボウルに入れて、別の皿に盛ったライスと出した。
「そんなに辛くはしてねえけど、もしスパイスがキツかったらココナッツミルク足せるから」
二人とも口々に「良い匂いだ」と嬉しそうにしてくれる。朝からシュートと時間かけて煮込んだ甲斐があったな。
「茶太郎は?」
「ああ……シュートが一緒に食べられそうならみんなでと思ってたんだが」
チラリとキッチンの方を見てみても姿は見えない。奥の方に隠れてるみたいだ。聞いたことない声や息遣い、知らない国のニオイに混乱してるのかもしれねえな。
「今はコーヒーにしとく。 後でシュートと一緒に食うよ」
そう言ってキッチンの冷蔵庫からアイスコーヒーだけ出して、シュートが手渡してくれたカップに注ぐ。
「もし気分が良くなったら出てこいよ」
「……ん」
ダイニングに戻ってコーヒーに口をつけつつ二人の向かいに腰掛けると、ユキトから妙に暖かい目で見つめられた。
「なんか、当てられるな」
「あ?」
「ラブラブでさ」
口に含んでたコーヒーを噴き出しそうになって、咽せる。
「げほ、げほっ!」
からかうなよ、と言えば二人は声を揃えて"イタダキマス"だと。そっちこそ、息ピッタリじゃねーか……とか考えてたらユキトが「お、揃ったな」なんて笑いながらガクに視線を投げる。
「……」
「なあって……え、スルー?」
黙々と食べ始めたガクに、思いっきり無視されてるユキトの姿がなんかおかしくて笑う。
「はは、なんださっきの呪文?」
「"いただきます"? うーん、命に感謝……って感じかな?」
するとガクも「ああ」と小さく同意を返した。
へえ、命に感謝か、良い言葉だな。
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年末にむけて、これからこの国は夏になってく。反対にユキトたちの国は冬に。体に気をつけろよ、と言い合って玄関へ向かう。
「じゃあ、来てくれてありがとな……ドーナツも。 アイツ喜んでたよ」
シュートは最後まで二人の前にはロクに姿を現さなかったけど、キッチンの奥にイスを持ってって静かにドーナツを楽しんでた。
「こっちこそ、カレーご馳走さま!」
「よいお年を」
ちなみに正確にはカレーじゃねえんだ、と言っておけば「え、俺が食べたの、なんだったの?」と無駄に混乱させちまった。
「また遊ぼうぜー! 次はシュートも一緒になー!」
仲良く並んで帰っていく背中を見送る。あんな風に自然に受け入れてくれて……ありがたいな。何度か遊ぶウチに、きっとシュートもあの二人のコトを覚えて、一緒に過ごせるようになるだろう。
なんて考えてたら、後ろから抱きつかれて頭に顎を乗せられた。
「なんだ、お見送り一緒にすンのか?」
「ん」
シュートと一緒に手を振ると、ユキトとガクも振り返してくれた。




