三話
短くなってしまったので、すぐに続きを公開します
「はい」
体を起こして表情を引き締めるセリーナさんに、私も身構える。
「そうね……。うん、落ち着いて聞いて欲しいんだけど、ここは日本ではありません。そもそも私たちが暮らしていたのとは別の世界です」
「あ……。やっぱり……」
何となく、わかっていた。
と言うか、ここに来るまで色々と不思議だったことが納得出来たという感じ。
見える風景こそ、現代の日本と比べて時代の差を感じることはあれど、異質さはそんなに感じなかった。
でも、そこに住む人々。
セリーナさんもだし、馬に乗っていた人も御者さんも。
この屋敷の人々も見た目は全然日本人ぽくない。
なのに、話す言葉はみんな日本語だった。
たまたま日本語が堪能な人が揃っていたというよりは、日本ではない。そもそも別の世界と言われた方が納得出来た。
いや、納得出来たと言うよりは……。
「落ち着いてるわね……」
驚くでも取り乱すでもない私に、むしろセリーナさんが驚いている。
まぁ、そりゃそうだよね。
「たぶん、落ち着いてはいないんだと思います」
私の言葉の意図が掴めないのだろう。
首を傾げるセリーナさんに、さっき思ったことを伝える。
「えっと、上手くは言えないんですけど……。
たぶんまだ現実なのか夢なのかわからないんだと思います。
だって、私学校帰りにバイト先に向かって歩いてたはずなんで……」
「そう……。そうよね」
今こうして話していることこそが夢なのではないか。
瞬きをして、目を開けたら、そこはバイト先の喫茶店で、私は居眠りをしているだけなのではないか。
あまり流行ってないお店だからお客さんも少なくて。
暇を持て余した店長にコーヒーの蘊蓄を聞いたり、紅茶の淹れ方のコツを教わったり。
そんな日常に戻るんじゃないか。
そんな気がしている。
「だから、そんな顔しないでください。大丈夫ですから」
心配そうに私を見ているセリーナさんに、努めて明るく答える。
この後どうすればいいのかとか、これは本当は現実なんじゃないかとか、考えないといけないのだろうけど、今はとても考えられそうになかった。