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一話

木々の隙間から漏れる日差し。

耳をすませば聞こえてくるのは鳥のさえずり。


ここは何処かの森の中なのだろうか。

それはわかる。わかるけど。


どうして自分がここにいるのかがさっぱりわからない。

正直かなり混乱はしているけど、こんな時こそ落ち着かないとダメだと自分に言い聞かせる。


一つ息を吐き、ここに至るまでの自分の行動を思い返してみる。

今日も普通に学校に行って、普通に授業を終えて。

その後、いつものようにアルバイト先の喫茶店に向かっていたところまでは覚えている。


うん、いつも通りの平凡な日常だった……はずだ。

どれだけ考えてみても今の状況に繋がるものはない。


じゃあ、なんで私はこんなところにいるんだろう?

必死にそう考えてみてもさっぱり理由がわからない。


まだ混乱はしているけど、取り乱したりせずにそれなりに冷静なのは元々の楽観的な性格のせいなのか、それとも自分でも気付いてなかったけど私はとても肝が据わってたのか。


どうしたものかとは思うけど、とりあえずここにいても仕方がない。

こういう時はあまり動き回らない方がいいのかもしれないけど、そもそもここがどこなのかさっぱりわからないし、助けが来るとも思えない。


幸いなことに?まだ日は高いし、暗くなる前にどこか人のいそうなところへ行ければいいけど。

せめて道路にさえ出れれば車や人が通るかもしれないし、そのまま街中まで行ければここがどこかわかるだろう。

それでも私がなぜここにいるのかがわかる訳ではないだろうけど、とりあえずは家に帰りたい。


あ、やばい、バイト……。

今が何時なのかもわからないけど、私が来なくて店長が心配しているかもしれない。

今まで無遅刻無欠勤で頑張ってたのに。

この状況をどう説明したらいいかはわからないけど、遅れるっていうか行けるかわからないことを連絡しないと。


そう思って制服のポケットからスマホを取り出そうとして気付く。

あれ?スマホがない。

慌てて周りを見渡してみても、スマホはおろか、持っていたはずの鞄すら見当たらない。


これはいよいよ本格的にまずいかもしれない。


このまま連絡出来ずに夜になってしまえば、店長だけでなく両親も心配するだろう。

何とか人を見つけて連絡しないと。

そうとなれば、ここでじっとしてても仕方がない。


そう決めて歩き出したはいいけど、こっちの方向で森の外に出られるだろうか。


なんと言っても、そこそこの都会育ちの私は、こういった森を歩いた経験なんてない。

慣れている人なら、太陽の位置とかから方角を判断して正しい方向に行けたりするのだろうか。

幸いそこまで深い森っていう雰囲気ではないし、出ようとしていてどんどん奥に迷い込んで出られなくなるっていうことにはならないと思いたい。


聞こえてくるのは落ち葉を踏み締める自分の足音だけ。

普通の状況なら都会の喧騒とは無縁の森の静けさを楽しめたかもしれない。

でも、今の状況だとその静けさが不安を誘ってくる。


いや、大丈夫、きっと出られる。


段々と不安になってくる中、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせながらどれくらい歩いただろうか。

1時間くらい歩いた気もするし、実際にはもっと短いかもしれない。

森の静けさのせいか、不安な気持ちがそう思わせるのか。

時間の感覚がおかしくなっているような気がする。


あぁ、お腹も空いてきたなぁ。

いつもならバイト先で仕事前に賄いという名のおやつ食べてる時間だ。

店長の試作やらなんやらだったけど、どれも美味しかったんだよね。

今の状況でそんな事考えていられるあたり、我ながら図太いというか食い意地がはってるというか。


ただ単に現実逃避しているだけかもしれない。


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