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1.ドリーのドキドキっ! りんごパニック♡


 私の名前はミシェル・ヒルフィールド。幼い頃に両親を亡くし、孤児院で生活をしていたんだけど、聖女としての素質を見出されて、今のお義父様、ヒルフィールド男爵に養子にされ、貴族令嬢やってます。

 聖女としての力はまだまだ未熟。今はしがない聖女見習いの身だけれども、新しい家族として温かく迎えてくれたお義父様、お義母様、お義兄様のためにも、立派な聖女になって世界中の皆を幸せいっぱいにしてみせるんだからっ!


 ……と言うのが、私の表向きのプロフィールでございます。いつかのどこかでお過ごしの皆様、はじめまして。改めて自己紹介を、ミシェル・ヒルフィールドです。皆は私を親愛を込めてミチェと呼びます。

 さて、そんな私ですが、愛して止まない家族にも秘密にしていることがあります。

 実は私、俗に言う転生者なんです。

 大事なことなのでもう一度言います、私、転生者なんです。

 前世、山田みちえ。享年37歳、独身OL。死因? ブラック企業に体良く使われて、残業ばかりの過労死でしたよコンチクショウッ! 死ぬまでに一度でいいから燃え尽きるような恋がしたかった。そんな私ですが、アモルリーベ、前世の恋愛シュミレーションRPGゲームの世界に転生したのです。

 ゲームの世界ですよ! それも推しがいる世界とくればテンション上がらずにいられるか? いや、上がらずにはいられないね! それに前世とは違い、愛らしい瞳に美しい銀髪、団子鼻なのが弱冠台無しだけど、こんなに可愛らしい容姿なら及第点、勝ち組でしょ!

 そんな感じでルンルン気分でスキップしていた浮かれポンチな私ですが、男爵令嬢になってしばらく、ある事に気がついたんです。

 私の名前、雑じゃね?

 いやだって、まんまじゃん! もうちょっとなんかこう捻ってよ神様! 山田みちえだからミチェ・ヒルフィールド→ミシェル・ヒルフィールドってか!?

 こんな安直ネーミング聖女もどきに世界救済の使命なんて荷が重すぎる。正直内面も聖女って柄じゃないツライ。

 そう、皆様聞いて下さい。なんと私、我らが神、アモルシア様から世界救済の使命を授かったのです。

 アモルリーベの創造神アモルシア。この世界を救うため、神様は五人の救世主を探し求め、地球から死者の魂を召喚した。そのうちの一人が私。報酬は第二の人生だ。

 与えられた祝福は三つ、天啓オーダー天命ロール天恵ギフト

 一つ、世界を救えと天啓オーダーが下りました。いつどこで何が起こるのかも分からない、神様大雑把すぎません?

 一つ、聖女になれと天命ロールが下りました。んー、ゲームで言うミッションみたいなものです、多分。クリアするとご褒美があるそうです。

 一つ、前に進む力となれと天恵ギフトを授かりました。……黙秘権を行使します。いや、あのですね、これぞ転生の代名詞、チート能力キターーーーーッ!! と喜んだ時期が私にもありましたよ? ですが、ちょっと私の能力は人様にお教えできるようなご立派なものじゃなくてですね、世界救う人間の能力じゃないですよ神様。もっとチートくれ。

 あー、えっと、まあ、アレです。私の天恵ギフトはまた今度ね、機会があればその時にでも。


 とまあ長い長い前置きもとい現実逃避をしていたのには訳がある。いいじゃん、私だって誰かに愚痴りたくなることもありますよ。

 神様だっていた。

 死者蘇生に、異世界転生もした。

 なら、もしかしたら第四の壁を乗り越えて私の言葉がどこかの誰かに届くかもしれないじゃん。笑いたかったら笑え。届けワタシノオモイ。



「ミチェっ! ぼーっとしないっ! 聖典装備六番かまえーっ!」


「はいぃぃぃぃっ!! 聖典装備六番んぅーーって、ただのラケットやろがいっ!!」



 取り出したるは聖言が刻み込まれた純銀製のラケット。どっからどう見てもラケットだ、テニスボール打ち返すやつ。我が愛しの先輩は銀のラケットを身構え、目前の脅威に立ち向かう。なんか様になってるのが悔しい。



「くるわよ、ミチェ。すべて打ち返しなさい!」



 ぴろりーん、GAME START!



 なんか聞こえた気がするけど、聞こえないったら聞こえない。私は目の前のことにもういっぱいいっぱいなんだから。



「ひいぃぃぃぃぃっ! 打つべし、打つべし、打つべしっ!!」



 阿鼻叫喚の村人たちが逃げ惑う。その波に逆らって先輩と私が進む先、村のど真ん中にでかでかと存在する不思議な大樹があった。元気いっぱいユッサユッサと揺れ動くその樹の上には色とりどりの精霊達がキャッキャと小憎たらしい笑顔でたむろっていた。

 飛んでくる、赤。先輩の右手のラケットが唸った。振り抜かれる銀の流星! すぱーんっと爽快に巨大なリンゴは打ち返されていた。



「ミチェ! 神の悪戯(ミニシュペル)レベル1ですわ。被害が拡大する前に抑えます! 私のあとについてきなさい!」


「ひえぇぇぇっ! 無理です、無理です、死にまっ、て、かすったあぁぁっ! 今かすりましたよっ! あの殺人リンゴぉっ!!」


「泣き事言わないっ! ミチェ、あんた聖女になるんでしょっ!」


「絶対これ、聖女と関係ないですよねぇ!?」



 バカスカと巨大リンゴの猛威を打ち返す先輩に、私は死に物狂いでついていくのが精一杯だった。ほんと勘弁してほしい。ブンブンとラケットを振り回してリンゴを迎え撃つ私の姿は優雅さのかけらもない。目の前からどんどこ飛んでくる巨大なリンゴの数々。こんな非現実的な光景、誰だって現実逃避もしたくなるもんでしょ?



『ドリーのドキドキっ! りんごパニック♡』



 ゲーム『恋するキングダム3』で植物学者リフィル・フォレスティルートのミニゲーム。聖教国の夏祭イベントで、ヒロインと攻略対象の好感度が一定に達しているとプレイできる。もちろん各キャラ毎に用意されており、クリアランクS取得でご褒美スチルも解禁されるありがたや。

 で、今目の前に広がる光景は『ドリーのドキドキっ! りんごパニック♡』に相違ない。

 フォレスティ侯爵家三男のリフィルはサントホリー聖教国の植物研究の権威で、優秀な精霊使い。リフィルは夏祭りでヒロインとの初デートを過ごすのだが……彼の精霊ドリーがヒロインちゃんに嫉妬してしまうのだ。夏祭りに突如出現する大樹、降り注ぐリンゴの雨! すべては精霊ドリーの仕業であった。降ってくるリンゴを打ち返して、精霊ドリーを止めろ! というのがリフィルの専用ミニゲームだ。

 えっ? リフィルいないけど? ヒロインちゃんはどこ? いやまぁ、原作っていうかまだ無印も始まってない原作前だから居ないのは承知だけどさ。

 ほんと一言言わせてほしい、神様、お戯れはおやめください。



「現実でまでミニゲームをしなきゃいけないなんて聞いてないよぉぉぉぉ!!」

 


 私の名前はミシェル・ヒルフィールド。サントホリー聖教国の大神殿で創造神アモルシアに仕える聖女見習い。そして、秘跡庶務室(窓際族)で先輩と一緒に日々、神の悪戯(ミニシュペル)の調査解明に明け暮れています。

 まだ見ぬ同胞たちよ、ごめんなさい。世界救済への道はまだまだ遠そうです。


 そうして、Sランクのファンファーレと共に騒動が治まったのは日が沈む頃だったとだけ伝えておく。精霊ほんとに恐るべし。


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