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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

20年後に死ぬ場合と20年前に死ぬ場合

 浅井は35歳の男であった。


「へへ……」


 日々の鬱憤や絶望を晴らすようパチに入り浸るが、全然当たりが来ない。

 せめて明るくいこうと虚しい笑いで誤魔化したかったが無理だった。 


 残金0円。

 浅井はもはやパチを打つ金無し。


「この!……」


 キレて台を殴りつけようとして、拳を振り上げ硬直する。

 ガラスを叩き割るような蛮勇はなかった。

 イライラしながら自宅に帰ることにした。



「……ただいま」


 家に帰ると、母と父が玄関にいた。



 浅井は実家暮らしである。

 無職ゆえ、一人暮らしをする余裕などないのだ。


「お前仕事は?」

 父が早速訪ねてきた。

「……落ちた」

「はぁ……お前いつまで俺達に頼るんだ?もういい加減人に頼らず生きれる年だろ」

「……」


 浅井にはぐうの音も出ない。

 働いていないが、仕事に就きたくないわけではない。

 ちゃんと金の大切さも親にかけている負担も分かっているのだ。


 浅井はしょっちゅう面接に行く。でも落ちているだけだ。

 有名企業に就きたいと高望みしているわけでなく、バイトだろうと片っ端から面接に行っているが全て失敗している


 いっそわざと捕まるような犯罪して逮捕されれば親の負担は減るかと検討しているが、いまのところ検討にとどまっている。


「チッ」


 父は舌打ちしてそれから浅井を一瞥もせず去った。母もそれに続く。

 その時に小声で「早く死ね」と、父が言っていたのが完全に無意識で心の底から漏れ出る本音だと浅井はわかっている。


 浅井はその暴言に文句を言わなかった。

 自分で自分のことは、死んだほうがいい人間だと認識しているからだ。



 浅井は5分後に家で首を吊った。

 それは衝動的なものだった。

 もともと体が頑丈というわけでもないのであっさり死んだ。


 別に死ねと言われたから死んだわけではない。

 きっかけや最後の後押しはそれだったかもしれないが、それ以上にはならない。


 ただ、これまでの人生の中でずっと己は死んだほうがいいという理由が積み重なってきたのだ。

 それが生きたいという意思を上回った結果がこれだ。


 その死に誰も悲しみなど向けない。

 両親は泣いたし、周囲の人間は悲しんでいると解釈した。

 だが、それは本当に悲しみだったのか。



 浅井は自身が無価値であり、死んでも誰も悲しまないと思っていた。

 それを証明するような死を遂げた。



 ※※※※


 浅井は15歳の少年である。

 ちなみにもう死ぬ。

 ぷらーん、ぷらーんと足が地面についていない。

 浅井は自宅で首をつり死んだ。


 毎年子供の自殺なんてあちこちで起きているので珍しくも何ともない。

 だが偶然他にニュースとかがなかったのでマスコミに取り上げられ、

 浅井の死は話題になった。


 誰かにイジメなどを受けていたのではないかと調査されたがなかった。

 誰かが隠蔽をしたとかでなく、関わる人間すべてが調査に真摯だったというのにだ。


 浅井の死の理由は誰も知らない。

 浅井が説明しなかったし、遺書も残さなかったからだ。


 ただ、確信したのだ。

 自分は真面目にやろうと、何をしようと、駄目になる。

 そういう人間だと。


 何年も前から確信はしていた、だがしかし勘違いや運の巡り合わせ、努力による解決で、その確信は覆せるかと期待していた。

 だが、生きるほどその確信はより深まるだけであった。

 だから浅井は死んだ。


「もっと生きてほしかった。苦しなったら相談してほしかった」

 父親がテレビの取材で発したせりふ。


「ううぅーぅー」

 母親が葬式で漏らした嗚咽。


「生きなきゃあかんのです。人生は長いんですから今が落ち目でも」

 浅井が通っていた中学の校長の言葉。


 浅井の死は周囲の人間に喜び以外のものをもたらした。

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