モンスター・ハウス
『ハロウィン・ハウス』
ハロウィン当日の夜。空にはジャック・オー・ランタン風に見える月が浮かび、地上を見ていた。
良い子のジャックは頭から目の部分だけを切った白い布を被り幽霊の仮装をいていた。手には大量のキャンディ、色々なお菓子が入った籠を持っていた。
ジャックが幽霊の仮装をしたのは訳がある。
いつか会ったバー子さん。美しい金の髪に透き通った青い目をした女性。良い子のジャックは一目惚れをしていた。
ジャック・オー・ランタンと共に天に登っていたあの幻想的な光景。今でも目を閉じると思い出す。
「凄く、綺麗だったな」
ジャックの前には二つの道がある。片方は静まり返った町へ。もう片方は一軒の家に通じている。窓から火が見える。ハロウィンの飾りつけかな?ジャックは好奇心に駆られて家の方に向かう。
窓から中を覗くと暖炉に赤々と火が灯り、いろいろなお化けの仮装をした人達がワインガラスを片手に持ち、パーティをしていた。家の中は暖かそうだ。赤い絨毯に大きなシャンデリア、家と言うより、屋敷だと言える。
「ハロウィンパーティかな?」
ジャックハドアを開けようとしたが、二年前、秋の夜、ハロウィンの日、身なりの汚い男性は泣きながら、ジャッ
クに光を灯してくれと乞うた。ジャックはランタンに光を灯し、男性、ジャック・オー・ランタンはバー子と
いう女性と共に天に登って行った。
「バー子さん、もう一度会いたいな」
一目惚れだった。バー子は金髪に澄んだ青い目をした美しい人だ。
「さぁ、今宵は飲んだ、飲んだ」
狼男がだみ声で言った。
「目出度い日だ。忘れられた我らが現世に思い出される日だ。しかも、ジャックとバー子結婚の日だ」
えっ?ジャックはドアに前で立ちすくむ。その時、舞台上に一人の男性が上がってくる。白い長髪、褐色の肌をした男性。ジャックはその人物があのホームレス風の男と同一人物だと気づく。ジャック・オー・ランタンだ。
「諸君、今宵はよく集まってくれた。今回はハロウィン。私とバー子の結婚式の日でもある。出来に賛成してほしいが、異議がある者は、申し出よ」
ジャックは腹の底から声を出した。
「異議あります」
いっせいにモンスター達が振り向く。目尻を尖らせて睨みつけてくる。
「誰だ?めでたい日に水を指すのは!」
「僕です」
「君は?」
ジャック・オー・ランタンが急いで舞台から降りてくる。
「良い子のジャックじゃないか」
「僕の事覚えているの?」
良い子のジャックをだきしめて言う。
「もちろんだ。君がいなければ私はこの世の終わりまで彷徨っていたよ」
「バ―子さんは?」
ジャック・オー・ランタンは嬉しそうに微笑む。
「バー子もまた、大罪を犯して、この世を彷徨っていた。だが、君のお陰で助かったんだ」
バー子が白いドレスに身を包み、百合のブーケを持って、控室から出てくる。
「まぁ。良い子のジャックじゃない!」
「そうだよ。バー子。私達を助けてくれた良い子のジャックだ」
ジャック・オー・ランタンに変わり、バー子が良い子のジャックを抱きしめる。
「正義の使者、ハロウィンマンよ。その子供は我らの姿を見ました。現世には返せません!それに貴殿の結婚式に反対している!」
「せめて訳を聞こう」
バー子が優しく聞く。
「どうして、私達の結婚に反対したの?」
俯く良い子のジャック。でも、ばっと顔を上げて大声で叫ぶ。
「僕、バー子さんが好きなんです」
「まぁ。嬉しいわ。ありがとう。でも、私達が結ばれるのは神に定められた事なの」
「…」
良い子のジャックは泣きそうになったが、涙をこらえてバー子に満面の笑みを浮かべて言う。
「バー子さん、結婚おめでとう」
「ありがとう、良い子のジャック」
モンスター達が怒り出す。
「やはり、その少年は現世に返せません」
モンスター達が一斉に襲いかかって来る。今日という目出度い時に、ジャック・オー・ランタンはカボチャを被り、ハロウィンマンに変身する。
「とぉ、やぁ!」
次々、襲いかかってくるモンスターを蹴散らす。
「今だ。バー子」
「さぁ、良い子のジャック。このかぼちゃのランタンを手にして帰りなさい」
「はい、ありがとうございます」
そのまま、モンスター・ハウスを離れて、真っすぐ来た道を歩いて行く。仄かに灯ったランタンが足元を照らして、良い子のジャックの心にも光が灯った。
明るく、前を向き、現世に帰っていた。